第31話 唐突なスカウト

 翌朝、朝食を作ってもらうため、ケモ達を部屋に残し『金の穂亭』の一階に降りた私は、三度みたび彼らと顔を合わすこととなった。

「あれ? アリスじゃないか!」

 昨夜雑炊を振舞った彼らは、完全に旅支度を整えた姿でそこにいた。

「早いですね、もう出立ですか?」

「あぁ、これからミーウォまで帰らなきゃいけないからね」

「そうなんですね」

 ミーウォってなんだろう。土地の名前かな? それとも施設?

「じゃあ、お気をつけて」

「あぁ」


 彼らが出ていくのを見送り、マスターに朝食を頼む。

「いつもの日替わりニシュドカでいいんだな」

 ニシュドカとはパンで総菜を挟んだ、サンドイッチ的なものだ。日替わりの場合、昨夜作りすぎた料理が挟まっている。

「お願いします、3人前」

「はいよ」


 カウンターに頬杖をつき、ニシュドカが出来上がるのを待っていた時だった。

 バタバタと足音がして、外から誰かが走り込んできた。

「あのっ!」

 見れば、先ほど旅立ったはずの魔石ケントルハンターの人だった。私の料理をやたら誉めていた。

「どうしたぃ、忘れ物かい?」

「……」

 肩で息をつきながら、男はつかつかとこちらへ近づいてくる。

 そして私の前で一つ深呼吸をすると、キッとこちらを見た。

「アリス!」

「はい」

「俺と一緒に来てくれないか?」

「……」

(なんで?)

 意味が分からず、私はぽかんとなる。

 そんなことはお構いなしに、男は必死の顔つきで言葉を続けた。

「俺、魔石ケントルハンターやめて、実家の食事処を継ぐことにしたんだ」

「あ、はい」

「それで、その、アリスにも一緒にそこで働いてほしいんだ!」

「……」

 だから、なんで?

「アリスの手料理は、初めて味わう味だけど本当に美味かった。ぜひ、俺の実家でもその腕を奮ってほしいんだ!」

「え? 料理人としてのスカウト、ってことですか?」

「違う! そうじゃなくて!」

 違うのか。

「お、俺と所帯を持ってくれ!! 一目惚れなんだ!!」

「……」

 いや、なんで?


「アリス、どうする?」

「どうするもこうするも……」

 マスターは面白がるように私を見ている。

「私、この人の名前も知らないんですけど?」

「そうなのかい?」

「あっ、そっか! 俺の名前はジョナスだ」

「はぁ……」

 ジョナスは私の手をがっしりと掴んだ。

「え? ちょっと……」

「俺と来てくれ、アリス!」

(私、あなたのことほっとんど知らないんだけど!?)

 なぜこんな勢いだけの告白に、女がついて来ると思うのだろう。この世界では、珍しいことではないのだろうか。

「は、離して!」

「贅沢はさせてやれないが、飢えることはないから!」

 その時だった。

 ジョナスに勢いよく飛び蹴りを食らわせた影があった。

「レオポルド!?」

「クラァ! 誰に断ってアリス連れて行こうとしてんねん! おぉん!?」

(じゃない!)


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