第30話 異世界転移者の手による特殊アイテム?

 暗がりの中、道の方から声がした。

 ケモ達はフードを被り、ネックゲイターを鼻の上まで持ち上げ口元を隠す。

 ざくざくと草を踏む音をさせながら、数人の男女が近づいてきた。

魔石ケントルハンターのパーティー?)

 灯りが彼らを照らすにつれ、先頭を歩く男二人の顔がはっきりとしてくる。

 その顔に見覚えがあった。

「あ! 昨夜の!」

 私の作っただし茶漬けを求め、代わりに米と干し肉を差し出した男たちだった。

「やっぱりだ! 独得な飯の匂いと服のシルエットで、もしかしてと思ったら」

「くぁあ~、今日もいい匂いさせてるな」

「知り合いか?」

「あぁ。昨夜、ちょっと変わったトロイストを食わせてもらってさ。美味いんだこれが」

 トロイスト? だし茶漬けをこの世界ではそう言うのだろうか?

 彼らは普段パーティーとしてまとまって活動しているが、昨日は二人だけが別行動をとっていたらしい。


「昨日はありがとうな。おかげで助かったよ」

「どういたしまして」

「それでさ。申し訳ないんだが、今日も一皿だけ食わせてくんねぇかな?」

「えっ?」

「いや、仲間にもあの味を教えてやりたくてよ。全員に一口ずつでいいんだ。そうだ、金を払う!」

 言ったかと思うと、男は1000カヘ札を差し出してきた。

「お金なんて、そんな!」

「いやいや、ぜひ受け取ってくれ! その代わり、もう一度それを食わせてほしい」

(鍋の残り汁にご飯投入したものだけど、いいのかな)

 元の世界では、日本のこの習慣に眉をひそめる海外の人も多いと聞く。

「あの、これは私たちの食べ終えた……」

「わかった! これでどうだ!」

 男はもう一枚1000カヘ札を出してきた。

(勿体ぶってるわけじゃないんだけど!)

 これ以上ぐずぐずしていると、さらに払おうとするかもしれない。パティがいれば、「限界まで吊り上げぇ!」なんてことも言うだろうが。

「じゃあ、少しずつで良ければ。いいよね、二人とも?」

 私の問いかけに、レオポルドはうなずく。コリンは不承不承のようであったが。

(炊いたお米の一部は、昨日この人からもらったものだし)

 ちなみに干し肉の方は、3人でおやつに食べた。


 十分に汁を吸ったご飯を、私は彼らの差し出す容器によそう。

「……美味い!」

「なんだこれ、食ったことない味だ」

「腹の底からぽかぽかしてくるぞ」

「昨日のものより味が複雑だな」

 歓声を上げる彼らに、コリンが立ち上がり、腰に手をやるとフンと胸を反らす。

「当然なの! アリスのご飯は最高なの!」

「コリン!」

「あはは、そうだな、間違いない。そっか、あんたアリスって言うんだな」


 ほんの三口ばかりの雑炊を流し込むと、彼らは立ち上がった。

「ありがとうな、アリス。いい思い出が出来た」

(思い出?)

「俺らは今夜、グランファの『金の穂亭』に泊まる予定だ。またどこかで会えるといいな」

「あっ、はい」

(『金の穂亭』なら、私たちも泊まるんだけど)

 彼らの姿が灯りの範囲から完全に消えると、レオポルドとコリンはネックゲイターを引き下ろした。

「もーっ、ご飯が減っちゃったなの!」

「怒るなコリン、まだ十分あるだろう」

「ボクは全部食べたかったなの!」

「じゃあコリン、私の分も食べる?」

「あっ、あっ、そうじゃないなの! アリスとは仲良く分けて食べるなの!」

 しかし、ケモ達にしろ先ほどの人にしろ、私の作ったものを食べると力が漲ると言ったことを口にする。

(もしかして……)


 ファンタジー小説などで見たことのある、「異世界人の作った料理がステータスアップアイテムとなる」現象が起きたのではないかと期待する。

(えぇと、効果が出ているかどうかは、どうやって確認するんだっけ? 確か……)

「ステータス!」

 私はレオポルドに手を向けて、試しに唱えてみる。

 が、光るウィンドウらしきものが、出現する気配はなかった。

「どうした、アリス?」

「アリス、これは何なの? 『ステータス』?」

「……なんでもない、忘れて」

 少し冷えた雑炊を、私は一気にかき込んだ。

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