第12話 私の私によるイケモフパラダイス

「あ、せや。アリス、レオ、ちょっとえぇか」

 この日も私たちは魔獣退治の依頼を遂行するため、イハバの森まで来ていた。

「なんなの、パティ」

「今日はちょっと試したいことがあんねん。レオ、猫型魔獣クタント退治やけどな、最後の一匹だけは無傷で捕まえてきてくれへん?」

 レオポルドは口をつぐんだまま私を見る。

「出来る? レオポルド」

「承知した。アリスが望むなら」

「なんでやねんっ! ウチに直接承諾せぇや! なんで間にアリス挟むねん!」

「自分はアリスのためだけに存在している」

 格好をつけるわけでもなく、当然といったふうに言い放つレオポルドに、思わず口元が緩む。

(やばい、理想そのもののイケモフが私に絶対服従とか、最高過ぎる!)



 やがて目的の猫型魔獣クタントを私たちは発見する。

 レオポルドはいつものように瞬殺すると、言われた通り一匹だけを捕らえてこちらへ戻ってきた。

「これでいいのか」

 レオポルドの漆黒の手に掴み上げられた猫型魔獣クタントは、ギャーギャーと喚きながら手足をばたつかせている。

「おぉ、ご苦労。ほんじゃ、そいつの手足をがっちり捕まえて、身動き取れんようにしてくれるか?」

「……」

「レオポルド、お願い」

「わかった」

「せやから、なんで間にアリスを一旦挟まなアカンねん!」

 レオポルドは右手で猫型魔獣クタントの両前足を、左手で両後ろ足を掴む。無防備に腹を晒し身を捩る猫型魔獣クタントを指差し、パティはこちらを見た。

「アリス、アレに抱きついて来て」

「は? なんで?」

「ほら、レオもアンタが抱きついたらあの姿になったやん? 猫型魔獣クタントでも同じことでけへんかな、って思って」

「!」

 もしそれが出来るなら、獣人――いや、魔獣の変化したものだから魔獣人か。それを生み出し放題ということになる。

(私の私による私のためのケモパラダイス!?)

 レオポルドのように私に絶対忠誠を誓う魔獣人たちを、山ほどはべらすことができるかもしれない。

鼠型魔獣ユズオムも、猫型魔獣クタント鴉型魔獣ウロックも!?)

 これまで討伐してきた魔獣たちがイケメンフォルムになるのを想像し、私のテンションは爆上がりした。

不破ふわ有寿ありすいきます!!」

 スパァンと自分の掌に拳を打ち付け、私はレオポルドの捕らえた猫型魔獣クタントへじりじりと近づく。

「レオ、がっちり手足捕まえときや。振りほどかれたら、アリスの顔ザックリいくで」

「ちょっとパティ、怖いこと言わないでよ!」

「問題ない、アリス。自分が命に代えても貴女を傷つけさせない」

(少し大げさだけど、嬉しい)


 私は猫型魔獣クタントの丸いお腹を抱えるように、きゅっと抱きしめる。いつも容赦なく討伐しているが、こうしてみると大きめのぬいぐるみサイズで、ふわもこであったかい。

(『けもめん』にもいたな、タデウスって名前の猫型獣人が。あんな感じにならないかな。レオポルドの弟分みたいなビジュアルになるといいな)

 だが、腕の中の猫型魔獣クタントは一向に変化する気配がない。

「何やっとんねん、アリス。もっと気合入れぇ!」

「やってるって! この世界で私ほど本気で獣人化を望んでる人間はいないよ!」

 私は豹型魔獣フェテランがレオポルドになった時のことを思い出し、角度や位置、力加減を変えつつ抱擁を続ける。


 だが30分が経過しても猫型魔獣クタントは姿を変えない。

「アカンな」

「この方法は違うのかも」

 パティが終了を告げると、レオポルドは私に確認を取ることなく、鋭い爪を猫型魔獣クタントの頭部の石に突き立てた。魔石ケントルが割れると、猫型魔獣クタントはあっさりと塵と化す。

「アリスが抱きつけば、レオみたいになると思てんけどなぁ」

 そうなるのであれば、この世界のありとあらゆる魔獣を抱きしめて回るところだ。

(レオポルドはどうして今の姿になったんだろう)

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