第11話 順調に返済!……とはいかず

 その日から、私たちは魔石ケントルハンターとして酒場に届く依頼を精力的にこなすこととなった。


 道すがら、おそらく同業者と思われる一行とすれ違う。その中に、紫色の肌、額に石、そして尖った耳を持つ人物を見つけた。

(ラプロフロス人……!)

 ビリッと肌に緊張が走り、目は件の人物に釘付けとなる。

「ジロジロ見んなや」

 パティの声にはっとなる。

「ごめん。でもラプロフロス人も、この国にいるんだね」

「当たり前やろ。休戦協定から200年経っとんやで。ラプロフロス人なんて、キハサカイになんぼでもおるわ」

「そうなんだ……」

「うっかり」兵器を送り込んでくる国と、その国にルーツを持つ人間。

(自分の祖先のいた国が送り込んでくる兵器を、駆逐する仕事で生活の糧を得てるんだ。どんな気持ちなんだろう)



 チチチチッ

鼠型魔獣ユズオムの群れ発見! レオポルド!」

「任せておけ!」

 レオポルドは稲妻のごとき素早さで、鼠型魔獣ユズオムをせん滅する。

 瞬きした次の瞬間には全ての鼠型魔獣ユズオムが消え失せ、地面には黒い石のかけらが散らばるのみといった具合だった。

「ごっついな。移動時間もあるから三件くらいが限界や思たけど、上手いことエリアを選べばもう一件くらい増やせそうや」

「う~ん。でもレオポルドをこれ以上酷使するのは……」

「構わない」

 息一つ乱さず、レオポルドは静かに笑う。

「自分は兵器だ。戦うことこそ自分の本懐。それに」

 レオポルドは翠がかった金色の瞳に柔らかな光をたたえ、私の目を覗く。

「アリスの役に立てるのは、自分にとって何よりの喜びだ」

(ふわぁあ~!)

 好みの見た目、好みの声で、こんなこと言われたら腰が砕けてしまいそうだ。

「いや、メロメロになってるところアレやけど、主な借金の原因はレオやからな? コイツ自分で自分の尻ぬぐいしとるだけやで?」

 あーあーあー! 聞こえなーい!

「アリス? また顔が赤いようだが」

「あ、うん。あはは。ちょっと暑いかな」

「具合が悪いのでは? 宿に戻るとしよう」

 そう言うと、レオポルドは流れるような動きで私の膝の裏をさらい、あっさりと抱き上げる。

(お姫様抱っこ再び!?)

 戦いを終えたばかりのレオポルドの体はいつもより熱く、ほのかに湯気が立っているように感じる。胸元から立ち上るヒノキの様な芳香は、完全に彼へ身を任せてしまいたくなるほどの安心感を、私にもたらせた。


 取ってきた依頼全てをこなし、私たちは「金の穂亭」へと戻る。

「おっ、ご苦労さん」

 マスターは、私たちの差し出す袋の中身を確認する。

 魔獣は倒すと消滅してしまうため、退治した証拠として提出するのは魔石ケントルだ。

 マスターに渡した袋の中には、依頼の三ヶ所で倒した魔獣の石が詰まっていた。

「はい、確かに。じゃあ、これは報酬だ」

 カウンターに出されたのは、約束通りの1万5000カヘ。

(よし)

 私はそれを丸ごとパティへと渡す。

「まいど!」

 パティはにんまりと笑ってそれを懐へと入れた。

(これで借金約3万カヘのうちの1万5000カヘを返せた! 残りあと1万5000カヘとちょっと! これならすぐに返済できそう)


 ――甘かった。

(まさか毎日の稼ぎの半分以上が、レオポルドの胃袋に消えてしまうとは……!!)

 あれから三日ほど魔石ケントルハンターとして過ごしたのだが。

(返済どころか、食事代と宿代でさらなる借金を抱えることになってしまってる!)

 毎日大体2000カヘほど借金が追加されている計算になる。

「面目ない!」

 レオポルドは大きな体の背を丸め、頭を下げる。

「食べる量は控えたつもりだが、その、魔獣を討伐するとひどく腹が減ってしまって」

「う、ううん、気にしないで」

 動揺を抑えきれず上ずった声で、私は沈痛な面持ちのレオポルドを慰める。

「頑張って戦ってくれてるのはレオポルドだもんね! うんうん、あれだけ暴れればお腹もすくよね! しょうがないよ!」

「本当に、お恥ずかしい限りで……!」

「大丈夫、大丈夫だから!」

「いや、アカンやろ」

 パティが容赦なくツッコむ。

「アカンとこはアカン言いや。ダメ男に依存するダメ女みたいになってんで」

「レオポルドはダメ男じゃない!」

「アリスを侮辱することは許さん!」

「なんやねん、アンタら」


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