第7話 いっぱい食べる君が
「この国って、日常的に隣国から兵器で攻撃されてるってこと? え? 戦争中?」
物騒なところへ来てしまったと、背筋が冷える。だが意外にもパティは首を横に振った。
「いや、戦争はしとらん。200年前に休戦協定結んどるから」
「でも、兵器が襲い掛かってくるんだよね? 事実、パティも襲われてたし。掲示板にも退治してくれって依頼が!」
「やつらは国の意志とは別に、勝手に国境を越えてしまったはぐれ魔獣ってことになっとるんや。……表向きはな」
(はぐれ魔獣……)
レオポルドと目が合う。
(レオポルドも、本来はこの国を攻撃するために送り込まれた兵器……?)
「アリス……」
レオポルドの目が愁いに揺れる。はっと胸を突かれ、私はパティに向き直った。
「でも、今のレオポルドは私のために行動してくれているよね?」
「そう見えるな。ワケわからんけど」
パティはぐっとジョッキの中身を飲み干す。
「ウチからすると、アンタも相当ワケわからんけどな。魔獣に触れて人みたいな形に変えるて、どないやねん? しかもがっつり使役しているように見える。もしかしてアリス、ラプロフロスの人間か?」
「違うよ!」
「まぁ、そうやな。耳も尖ってないし、額に石もない、肌も紫色とちゃうしな」
ラプロフロス人ってそんな姿なんだ。
(それにさっき何気なく言ってたけど、この世界で魔法を使えるのはラプロフロス人だけなのか)
その時の私は、レオポルドの正体のことで頭がいっぱいで気付いていなかった。
彼の側にうず高く積まれた皿の枚数に。
食事を終えると、当たり前のように私たちは二階の宿屋へ通された。
「えっと、こんなにしてもらっていいのかな?」
どさりと大荷物を下ろしたパティに私は言う。
「こんなに、て?」
「ほら、夕飯をご馳走してもらったり、こうして部屋を用意してくれたり。パティとは今日出会ったばかりなのに」
「あぁ、そのことか」
パティは首をコキコキ言わせながら、にっこり笑った。
「オゴリちゃうで?」
「え?」
「
「え? それって……」
「いや、逆になんでおごってもらえると思ったん? まだレオポルドの服代も全額払ってもろてないのに。服代、食事代、宿代、しめて30150カヘ、しっかり返してもらわんと」
「えーっ! めちゃくちゃ加算されてる! おかしいでしょ!」
私はテーブルを叩く。
「食事とか宿は、パティがついてくるように言ったんじゃない!」
「そら、借金支払い終えるまで逃がすわけにはいかんからな。けどウチ、おごったるとは一言もいうてへんし」
「じゃあ、私たちは野宿す……」
「あ、もうここの宿代は払ってしもたから、今更キャンセル無理やわ。それに食事代と服代はどうする? 踏み倒す気か? アンタのツレ、肉を何枚食べた思ってんねん。伝票見てマジびびったわ」
「え? レオポルドそんなに食べたの?」
「すまない。美味かったので、つい、……10皿ほど」
そっかー。食べたねぇ。いっぱい食べるケモ男子は可愛いなぁ。
じゃなくて!
「ふ、服代は
「もろたんは、1万1200のうちの2000ぽっち、前金やな。まぁ、2000で買えるパンツとネックゲイターだけ残して、服は返してもらってえぇで? けど、その耳やら尻尾やら丸出しやとあちこちで面倒なことになるやろな」
(こいつ……!)
「アリス」
レオポルドが私の側に立つ。
「この女は貴女を困らせているか?」
「え? うん、割と」
「つまりお前はアリスの敵だな?」
レオポルドの手から鋭い爪が飛び出す。
「ならば……」
瞳の奥が冷たく光り、裂けた口元に牙が光る。その身から殺気が立ち上った。
「……始末する」
「ヒュッ!?」
レオポルドの異様な雰囲気に、パティが息を飲み蒼ざめる。
「ちょ、ちょぉ待ちぃや! あ、アリス!?」
「レオポルド、ストップ! さすがにそれはだめ」
私の言葉に、レオポルドはあっさりと戦闘態勢を解き、爪を引っ込めた。
「わかった。アリス、駆除が必要な時はいつでも言ってくれ」
「駆除言うた!?」
パティは大きく息をつくと、崩れるようにベッドへ腰を下ろす。
「物騒なやっちゃな。頼むでほんま」
勢いを失ったパティに、多少は溜飲が下がる。
「けどさ、払いたくても一文無しなんだってば。言ったよね? 私にどうしろって言うのよ。このグランファでバイトして返せってこと?」
「何言うとんねん。アンタにはそいつがおるやろ」
パティの指はレオポルドをまっすぐに指していた。
「レオポルドが何?」
「見たやろ、今日の戦いっぷり。レオポルドなら、魔獣を狩るのも一瞬や」
「それはそうだけど。お金に何の関係が?」
「鈍いやっちゃな。下の酒場の掲示板、覚えてないか? 魔獣退治の依頼がなんぼか貼り付けられてたやろ」
「あぁ!」
一件しか見てないが、確か報酬が5000カヘだったはず。
それなら7件こなせば完済だ。
「レオポルド」
「任せてくれ」
皆まで言わずとも、レオポルドは私の意図を汲んでくれる。
一つ頷くと、ペリドット色の目をやわらかに細めた。
「アリス、この爪はただ貴女のために振るおう」
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