第6話 新鮮ゲグのロテム
ふもとの町まで辿り着いた私たちは、パティに連れられ『
パティは、私たちがかき集めた黒い石のかけらを天秤の片方の皿にあける。
「こいつぁ、
もう片方の皿に分銅を乗せた店員は「2150カヘ」とぶっきらぼうに言った。
「あ~、やっぱ、そんくらいよなぁ」
パティは肩を落とし、深々とため息をつく。
店員から無造作に渡された紙幣二枚とコイン五枚を受け取ると、パティは店を後にした。
「何しとんねん、ついて
手にした紙幣をヒラヒラとさせる彼女の背を、私たちは追った。
「無事に街に着けたことにカンパーイ!」
発泡酒の泡を口端につけ、パティは笑う。
『金の穂亭』という名のこの店は、RPGなどで見る酒場のイメージそのものだった。
カウンターの側には、
『
などの紙を貼り付けた掲示板が掲げられている。
木製ジョッキに口をつけると、フルーティーなスパークリングタイプの液体がのどを潤す。シャンパンよりもビアカクテルに近いお酒だった。
「ん~、どれ頼もか。アンタら、何食べたい?」
私は壁にかけられたメニューボードに目を向ける。
(なぜか文字は読めるけど……)
新鮮ゲグのロテム
大きめ野菜のフープット
厚切りアクテス
5種のウースムースプターサ
(わからーん! 野菜料理だろうなってことと、厚切りだろうなってことくらいしかわからーん! ゲグって何!?)
「アリス、どないしてん」
「メニュー見てもどんな料理か全然わからない。適当にあったかくてお腹に優しいものお願いします」
「あぁ、アンタの国にはない料理か。ほならウチと同じフープットでえぇか? そっちはどうすんの?」
「自分か? そうだな、肉を希望する」
「……まぁ、見たまんまやな」
パティが注文するとやや経って料理がテーブルに届く。パティと私の前には野菜のスープ煮込みらしきもの、レオポルドの前にはスパイスをまぶした厚切りの肉が運ばれてきた。
「美味しい!」
フープットを口に運ぶと野菜の甘みと滋味が広がる。
(ハーブの風味が豊かな塩味のスープが、やわらかく煮込んだ野菜にしっかりとしみてる! 初めて食べるのにどこか懐かしい味。あっ、ポトフっぽい!)
レオポルドを見ると、口元を覆っていたネックゲイターを下げ、大きく切った肉をワイルドに嚙み千切っている。その野性的な仕草に
(『けもめん』でも食事シーンはあったけど、動かない立ち絵だったもんね。牙をむき出しにしているレオポルドの口元、セクシー)
ちなみにレオポルドは他の客に背を向ける形で座っているので、周囲に顔を見られずに済んでいる。
「しかし、料理の名前すら分からんようじゃ、アンタらこれから大変やなぁ」
「だよね」
この世界について右も左も分からない者一名、人型になりたてのもの一名。パティと別れたら、私たちは正直積むだろう。
今のうち、この世界の常識をある程度教えてもらっておいた方がいい。
「ねぇ、パティ。この国の名前って?」
「キハサカイ王国や」
「キハサカイ王国……」
「ちなみにここは西の街グランファな。王都の次に賑やかや言われてる」
「へー、活気があるんだ」
「ただ、ここは魔族の国と接してるのがちょいネックでな」
「魔族!?」
ファンタジックな存在が飛び出して来た。
この世界、獣人はいないのに、魔族は存在しているのか。解せぬ。
「あぁ。魔族の国ってのは通称や。正しくはラプロフロス帝国っちゅーねん」
「へぇ」
「自分はそこから来た」
「え?」
レオポルドが口の周りの脂をべろりと舐めとる。
「自分はラプロフロスで作られたので」
「作られた?」
「まぁ、この姿になる前は普通に魔獣やったし、そうなるわな」
「ちょっと待って? 魔獣はラプロフロスで作られるの? 作られるってどういうこと? 生まれたじゃなくて?」
「
「あのデカ鼠の額にあった?」
「デカ? ……まぁ、ええわ。魔族はウチらと
「んん? 魔獣って生物じゃないの?」
「兵器やな」
(兵器……)
私はレアに焼いた肉にかぶりつくレオポルドに目をやる。
「アリス、自分が何か?」
「う、ううん……」
(魔獣って兵器なんだ)
(どう見ても生物なんだけど)
「まぁ、そんなわけやから、核となる魔石さえ砕けば消滅すんねん」
「なるほど。あ、てことは!」
私は大変な事実に気付いてしまう。
「この国って、日常的に隣国から兵器で攻撃されてるってこと? え? 戦争中?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます