第11話 “王家の力”

ラストバードと呼ばれる、異世界からやってきた本。

本にはそれぞれ守護者がおり、適性のある「渡航者」を見つける。

渡航者は守護者とともに亜空間を渡り、異世界に行き…。

…行って。…行ってから…一体、どうするんだろ。


本の守護者「シーラン」と「クロカ」。

普段は動物の姿だが、どうやら本気を出すと人間の姿になる。

シーランは4~5歳の少年に見えるが、クロカは20歳くらいの青年。

今回初めて目にするのだが…目は凍った様に冷え切っている。


『カスミ、かねてからの約束だ。力を貰うぞ』

「…あぁ、やってくれ」


そういうと、香澄は「氷の本」を両手で抱きかかえた。


『ジャガロのチカラ、今ここに顕現せり。我が主、継承者ヒュリザの名の元に!』


クロカが何やら技の構えに入る。

シーランは飛びのき、こちらに来る。


『タクヤ! この中に入って! “円炎龍鳳鏡(えんえん りゅうほうきょう)”!』


シーランの周りが炎の球体に囲まれる。

一か所だけで入り口がある。


『早く入らないと! 皆凍り付いちゃうよ』


とっさに周りを見る。

舞花さんと黒スーツの…リュズは対峙したままだ。

香澄は青白い光に包まれて宙に浮いている。


「亜衣さん! こっち!!」


一人に声を掛けるのが精いっぱいだった。

「ちょっと! どうなっているのよ! 香澄たちはどうするの?」


…俺は無言でアイさんの手を引いた。


『檻を閉じるよ! 最大火力!』


シーランはそう言うと、ものすごい集中力で火力を上げ始めた。

触ったら、即燃え尽きそうな、とんでもない温度だろう。みるみる温度が上昇していく。


『さあ、盟友カスミよ。真の渡航者かどうか、見極めさせてもらうぞ』

「…あぁ。出会ったときの約束だからな。頼むぜ」


周りの空気が凍てついて張り詰めていく。

香澄は覚悟決めた様に両目を伏せた。

その様子を遠目でリュズと舞花が見守る。


「まさか、ここで“王家の力”を発動するとは…愚かな。一旦退くぞ! 退ける者は退散せよ!」

「また、逃げるのかい? 会長さんには何て報告するのかな?」

「ほざけ、女狐。おまえこそ、この場をどう切り抜けるつもりだ? 人間風情が」

「異世界人だって人間だろうさ。年も喰えば死にもするんだろう?」

「…フッ、口の減らない人だ。また会うことがあるのなら、話くらいきいてやるさ」


そう言い残すと、リュズはゆっくりと霧の様に消えて行った。


「フン、世界に12人しかいないDMハンターを舐めるんじゃないよ」


舞花は素早く腰に仕込んでいたロッドを抜き、手に取る。

「展開! 出力最大!」


≪ヴゥゥゥゥッゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン≫


ロッドが何本にも枝分かれして、立方体が出来上がる。

それは高圧電流のような光を放っていた。


クロカはゆっくりと口を開く。


『…ジャガロ…』『…ヒュリザ…』『…カスミ…』


この三つの単語だけ、何とか聞き取れたが…その刹那。一瞬無音となり…


≪ドドドドドドッドドドドドバキバキバキバキバキ≫


大地震さながらに大地が揺れる。それと同時に隕石でも降ってきている様な

衝撃音がけたたましく鳴り響く。


≪ズガガガガガガガッガガガガガアアガガガガガガガガガガ≫


時間にしておそらく1分以内。だが、相当ものすごい数の衝撃音だった。

シーランを見ると、肩で大きく息をしている。


『…どうやら終わったようだね。解くよ』


そう言って、炎の球は消えた…のだが…!!


「!」何だ、この光景は。


まるで氷の惑星にでも不時着したような、一面氷山だらけだった。

建物も、山も、海も、どこにもなく、果てしない氷の世界。


「カスミーーーー!!」


亜衣さんは飛び出していった。

そうだ! 香澄は? 舞花さんは?

オレも捜索に出る。とんでもない冷気だ。地面も至る所が滑る。

亜衣さんとは逆の方向に数分ほど歩くと、見慣れた鳥の姿が。


「クロカ!」


鳥の姿に戻っていたクロカは、両翼の下に本を抱いて氷漬けになっているカスミを抱きかかえていた。


「カスミ! 凍っちまってるぞ。これってヤバい状態なんじゃ…」


『…彼は本来の渡航者ではない』


「なんだって?」

『カスミは我と契約を交わした、渡航者候補なのだ』


「なにを言っているんだ、パートナーなんだろ?」


『クロカという名前はカスミが付けたものではない。本来の渡航者は既にこの世にはいないのだ』


「話が見えないぞ」


『カスミは“本”を探していた。我々の前に現れた時には、既にドライアンデットとの交戦状態にあった。カスミは加勢してくれたのだが…相手が悪すぎた』


「まさか」


『そう。さきほどの“リュズ”だ。我々は一度対峙して敗れている。何とかその場を離れ、香澄は前任者から本を預かった。だが、渡航者の適性については未知数だ。我と契約を交わすことで、新たなる渡航者としての資質を問われることとなった。この様なことは前代未聞なのだ』


「じゃあ前任者ってのは、その時に…」


『やむを得なかった。我からのチカラをその身に宿し、ほぼ玉砕状態で足止めしてくれた』


『カスミが乗り越える試練とは、我がどこかで再び使う“王家の力”に耐えられねばならないこと。王家の力とはラストバード一族だけが持ち得る秘術だ』


「前の候補者に宿したっていうチカラも…?」


『そうだ。“王家の力”は本を媒介出来る者であれば、どちらでも発現出来る。

 ただし、ジャガロと呼ばれるエネルギーを多量に消費するのだ』


「ジャガロ?…確か、さっきも聞いたような単語だ」


『この星の人間にそれがあるのかは分からないが、生命エネルギーを代用して使われる様だな。下手をすれば死ぬ』


そう言って、凍り付いたカスミを見やり、


『この男はとんでもないギャンブラーだ。自らの命すら囮に使う。

だが、凍てついてはいるがまだ死んではいない。あとはカスミ次第だな』


イタチの姿に戻ったシーランが駆け寄る。


『クロカ。あれはルール違反だよ。“王家の力”ジャガロは、ゲート渡航のときまで使ってはいけないはず』


『分かっている。だが、襲ってきたあの男に本気を出させる前に先手を打つ必要があったのでな。それに、カスミが本来の渡航者ではないことはいずれ分かることだった。ゲートに着く前に白黒つける丁度良いタイミングだったのだ』


…丁度良いって…

あたりを見回すと、まさに氷の惑星。見渡す限り海まで凍っている。

それに、あれだけいたドライアンデッドが一人もいない。

おそらく、氷漬けになるか氷山の下敷きになっているんだろう。

…とんでもないチカラだな。


…って。そうだ! 亜衣さんはどうした!? 舞花さんは?

しまった! カスミに夢中ですっかり忘れてた!


「シーラン! 舞花さんと亜衣さんを探すんだ!」

『わかった』


二手に分かれて捜索する。数十分探し回るが…こっちも嫌な予感がする…間に合ってくれ!


「拓弥!こっち」

「亜衣さん!」


よかった! しかし亜衣さんの元に駆け寄ると、

その手にはぐったりした状態の舞花さんが。


「拓弥、どうしよう。息してないよ」

「シーーラーーーン!!!」


リュックに入れていた本が光る。シーランは一瞬で現れた。


「シーラン、舞花さんを何とかしてくれ!」


シーランは、あたたかな炎を出す。


『聖火によるスキャニングを開始します』


そういうと、舞花さんが炎で包まれる。


「おい!シーラン、舞花さんを燃やす気か?」

「どうするつもりよ!?」


『だ、大丈夫だよ。メディカルチェックするだけだから』


そういって、炎に包まれた舞花さんにそのまま触診しているようだ。

熱くはない(?)炎らしい。少しすると炎は消えた。


『大丈夫。直ぐに戻るよ。ショックで仮死状態になっただけ』


そうなのか? 亜衣さんと顔を見合わせていると、


「…ゴホッゴホッ」


舞花さんが息を吹き返した!! 起きると直ぐに身の回りをゴソゴソ探りだした。


「…ふー。50億の放射線バリアが一瞬でオシャカかい」


そう言って、焼け焦げたロッドを放り投げた。


「あれ? 凍っていない?」


そう言えば、舞花さんの周りだけは凍っていなかった。


「空間を切り離して隔離する防護壁だよ。予備は無いってのに」


サラリと言ってのけたが、え? そんなものがこの世に存在するのか?


「余計な詮索は無用だよ。見なかったことにしな。まあ、色々あるんだよ」


呆然としていると、


『タクヤ』


そうそう。あとは香澄だ。クロカの元に戻ろう。

…これからどうする? 状況は悪くなる一方だ。

無事に聖地までたどり着けるんだろうか…?


<次回予告>

クロカが使った“王家の力”は、島を一瞬で氷の世界に変えた。

実質リーダーだったカスミは氷漬けになって、生死が危うい。

そんな中、舞花さんは俺たちに聖地へ向かう新たな道標を提示する。


次回、『航大と舞花の傑作』へ続く。

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(仮題)📙【本】に翻弄される高校生の冒険名は『ラスト・バード』 西京功飛(さいきょう かつひ) @saikyo

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