第10話 伝説のトレジャーハンター

それから、数時間続いた船旅がようやく終わり、

俺たちは見知らぬ島「竹島」に上陸した。

空気がとても澄んでおり、朝日もまぶしい。


竹島ってのは、女島(東島)、男島(西島)と呼ばれる2つの小島とその周辺の総計37の岩礁からなり、総面積は約0.21平方キロメートル(東京ドーム約5個分)である。

日本の国土ということになっているが、実質韓国の支配下にある島だ。


船は、男島の南岸部へ着岸した。

いつの間にかシーランはリュックの中に入り、クロカはどこかへ姿を消している。


まずは島に上がり、辺りの様子をうかがう。

先に香澄は一人偵察に出て行った。

それから、30分くらいたったろうか。


「よぉ、またせちまったな」


神妙な面持ちで、香澄が帰って来た。


「こっちだ」


香澄に連れられて、海岸線をぐるっと回り、岩壁の洞穴(ほらあな)から島の内部へ入っていった。…ここも秘密基地みたいな洞窟だな。


ひんやりする感覚。島ってのは火山の爆発などで出来るというが、

ここも自然に出来上がったといった洞窟だった。


≪ゴゴゴゴゴゴオ≫


少し進んだ岩壁を香澄がノックすると、岩壁が回転して、

向こう側に軍事施設が現れた。

そこは、飛行機、ヘリに数々の爆薬。

倉庫、というよりは秘密基地といった印象だった。


「…なにかあったのかい? おそかったじゃないか」


タバコをふかしながら、奥の階段をゆっくりと降りてくる絶世の美人。

香澄が一歩前に出る。


「カリカリしなさんな、マイカちゃん」

「あんたの母親だよ。ふざけた呼び方はやめな」


出迎えてくれたのは「真堂舞花」(しんどうまいか)さん。

彼女も、また香澄と同じくトレジャーハンター。

彼女が香澄にトレジャーハンターのノウハウを教えた様だ。

まさか、親子2代に渡ってトレジャーハンターだとはね。

…そうだ、思い出した。真堂家っていえば、オヤジが確か…


「あんたが拓弥くんだね。航大から話は聞いてるよ。

 へぇ…。あんたも“渡航者”とはね…」


眼光が急に鋭くなり妙にジロジロ見回してくる。

だが、直ぐに踵を返し、


「あまり時間がないよ。デッドたちが急速に増えて来てる。

 早くしないとサフランへの道も塞がれてしまうからね」


「サフラン?」


思わず聴き返してみる。


「聞いてないかい? 『聖地サフラン』。その本はもともとサフランに収められるべき文献なんだよ」


「舞花ちゃんよ。あまりベラベラ話さないでくれよ。こいつがどこまで信用できるかまだ吟味中なんでね」


「いいじゃないか。航大の息子でしょ。本と出会った時点でもう決まっていたことなのさ」


「! おばさま! 島の警報が」


亜衣に言われて、舞花さんは大きなモニターに目を移す。

無数の木人たちが海から上陸を開始していた。


「やっぱり、その本がレーダーになってしまっている様ね。厄介だわ」

「とにかく急ぐしかないわ。亜衣ちゃん、離陸準備、手伝って」

「わかりました!」


そう言うと、女性2人は奥の格納庫へと消えて行った。


「おい拓弥、ひとつハッキリさせておくぜ」

「?」


「俺は、向こう側の世界に渡る。

 お前がどうするのか知らないが、聖地に着くまでに身の振り方を考えておきな。

 航大さんからは、聖地へ連れて行くところまでしか依頼されていないからな」


「オヤジは、一体何者だったんだ…?」


「考古学者なんだろ?…表向きはな。実際は俺らと大差ねぇ。発掘屋さ。いつも俺らの先を行っちまって、頼れるが何とも悔しい存在さ」


「今、どこにいるんだ?」

「航大さんは聖地に居る…いや居た、かな。多分もう…」

「え?」

「いや、なんでもない。とにかく…聖地にはゲートがある。俺はそうにらんでいる」


ゲート? 日本でも戦後に発見されたという、異次元への扉か。

亜空間が広がっているが、その先には別世界があるという。

…世界に何か所かあるというウワサだったが、サフランにもあるっていうのか。


「なんで、聖地に行きたいのさ」

「血が騒ぐんだよ。トレジャーハンターとしての血がウズウズしやがる。本のチカラは魅力的だ。まだまだ未知のとんでもない可能性を感じる。舞花ちゃんには悪いがな。先に聖地から異世界にトンズラさせてもらうぜ」


≪ドゴーン≫ ≪ドゴーン≫


衝撃音が鳴り始める。地上では戦闘が始まったか。

香澄は慣れた手つきで着々と装備の点検、準備を始める。

格納庫から、舞花さんの声が上がる。


「さぁ、ジェット機の燃料補給が終わったよ」

「いそくぜ。タクヤ」


ブーーーーーーーーーーーーーーブーーーーーーーーーーーーー


けたたましくサイレンが鳴り響く。

どうやら、基地の中に侵入されたらしい。


「早いね、ったく。この基地は放棄する。早くのりな」


そういって、俺たち4人は小型ジェット機へと乗り込む。


だが一歩遅く、行く手には既にドライアンデッドたちが待ち受けていた。

数十…いや百体いるかもしれない。


「クケケケ…にがさんぜ。『森羅風林(しんらふうりん)』!」


一体が叫んだかと思うと、ものすごい逆風が機体に吹き付ける。

これは…、木々が起こしている風だってのか!? 機体が軋む!


「だめだわ! これでは十分な離陸速度を維持できない」


舞花の声に亜衣が反応する。


「どうするの、香澄?」

「チッ。毎度毎度ジャマしやがる。クロカ、出るぞ」


そういうとリュックから本を取り出す。

陽炎のように、巨大な鳥クロカも姿を見せる。


『カスミ、気を付けろ。今までの奴とは違うぞ』

「そうか? ま、やってやるさ」


軽くそう言うと、勢いよく機体から飛び出す。


『タクヤ』


シーランを見ると臨戦態勢だ。


「そうか、俺らも加勢しないとな」

『タクヤ強くなってる。たたかう』

「よし。いくぞ」


「タクヤくん。こっちはギリギリまで待機するわ。離陸出来るようにスキを作って!」

「タクヤ! 香澄をお願い」

「わかりました!」


香澄の動きに倣って、オレもバッグから本を取り出し、シーランを肩に乗せて機体を降りた。

嵐の様な風はまだ吹き荒れている。


「くっ、視界が見えない。香澄は?」

『タクヤ、あそこ』


タクヤは青白い槍を片手に、相手の木人と対峙していた。


「フン、真堂香澄か。お前も渡航者だったとはな」

「俺を知っているとは光栄だね」

「真堂家といえば、代々の盗人、墓泥棒の家系だからな」

「ひどい言われようじゃねーか。トレジャーハンターって言ってくれよな」


「大人しく本を渡せ。2冊ともだ。そうすれば引き上げてやる」

「頭わりーな。ネイツに渡るアイテムをそうそう手放すわけねーだろ」

「…やはり渡る気か」

「渡るさ。向こうの世界からあらゆるお宝や英知を持ち帰ってやる」

「甘い幻想だ。お前らが渡っても何もできることはない」

「へぇ。向こうを知ってるような口ぶりだな」


「くっくっく、そうとも。我々ドライアンデッドは、もともとネイツからやってきたのだからな」

「なんだと?」

「我々は長らく向こうからの助けを待っていた。だが何十年待てど、来なかった」

「渡航者の帰還プログラムがスタートすることは知っていた。あとはそれに合わせて、本を奪う算段を整えていたのだ」


「1冊でも本があれば向こうへ帰れる。我々はその方法を知っている」

「へえ、どうするんだい?」

「バカめ、教えると思うのか。本を渡さねば消えてもらうだけだ。『森羅風牙!(しんらふうが)』


暴風がキリキリ音を立てて、まるでかまいたちの様な刃に形を変えた。


「…おせーぜ。クロカ!合わせろ!『渡航者カスミの名の元に!…3の章、5の節』ジャベリン・アンカー!!」


そう叫んで青白い槍をひと振りすると、空気中に無数の氷のカケラが現れ、虚空を描いた冷気の刃がアンデッドの風の刃を打ち落とす。


≪カキ≫≪カキ≫≪カキーン≫


「おのれ、使いこなし始めているな。だがページが燃えている。付け焼き刃の使い手だな。


そう言われてみると、香澄の『氷の書』からは先ほど開いたページが焼け落ちている。もしかして毎回…なのか?


「しゃらくせぇ。ネイツに渡るまでの辛抱よ! …って、オマエは!?」

「ムッ、これはリュズさま」


≪カツンカツンカツン≫


奥から、この爆風をものともせず歩み寄ってくる影が。

こいつ、どこかで見たことがる気が…。


「香澄くん。それに、拓弥君も。久しぶり」

「お前は!? あの時の長身の黒服!!」

「拓弥、奴を知ってるのか」

「あぁ、竜条の研究所で騙された」


「誤解ですよ。本をお渡し頂けば、その場でお帰り頂いたものを」


「ヘっ…リュズ。また邪魔しに現れやがったな。しかも、そいつらとつるんでるとは面白れーじゃねーか」

「フッ。あなたなら、いずれ本を手にするかと思っていましたよ。十分泳がせてみた甲斐がありましたよ」

「よくいうぜ。さっき知ったんだろうが」

「誤算は、二つの書が揃ったということだ。より真実に近づいてしまう」


「真実? ゲートをくぐる通行証なんだろが」

「バカが。それだけではない」

「こちらの世界に本が渡って来たのには理由がある。そこに二冊に、私たちのもつ一冊、それ以外にも数冊ほどある本を全て集める必要があるのだ」

「…何が起こるってんだ?」

「言う訳がないだろう。おろかもの」


「…そいつは、ラストバードを創り出した存在にアプローチしたいのさ」

舞花さんが割って入る。


「チッ、真堂舞花。きさまも居たのか。面倒なことになってきたな」

「どういうことだよ、舞花ちゃん」

「今回のラストバードって呼ばれている本は6冊と言われているが…おそらくもう2冊ある」


…え? シーランやクロカから聞いた情報とも違う…?


「そもそも、これらの本は強力な念の入ったお札みたいなもんさ。

 50年ほど前に、地球上の空間に穴を開ける形で入って来た。

 その穴…ゲートは一定の間隔で地球上に点在していて、強力なエネルギー網になっている」


…魔法陣みたいなものか…?


「航大がずっと研究してきた内容さ。竜条側も知っているだろうが、エネルギー点、つまりゲートは世界に8つあることが確認されている。

 ラストバードの伝記や、航大の著書には“6冊”とあるが、あと2つ無いと、辻褄があわないのさ。

 これらゲートは、強力な推進力を持っている。まるでブラックホールのような吸引力なんだろうね。

 これは推測なんだが…向こう側の世界ネイツは、こっちの世界、つまり地球をネイツに引っ張り込もうとしているのさ」


「!!!!!!!」


「なんだって? ネイツの方がやってくるのでは無くて? 地球がネイツに吸収されるってこと?」

「代案…プランBってやつなんだろうな」


香澄が割って入る。


「見えて来たぜ。各地のゲートはその大きさを増してきていると聞く。

 最悪、渡航者が現れない、もしくは非協力的だったときに備え、

 ゲートをデカくして地球ごと亜空間に引っ張り込もうって算段だった訳だな」


「…そこまで掴んでいるのであれば、隠す必要もないな。

 その通りだ。ネイツの旧王家は、地球に渡れないのであれば、地球を亜空間に引きずり込む算段だ。

 乱暴な代案だが、そこまでネイツの危機は迫っているということだな」


「お前たちの目的とも違っているようだけど…?」


おそるおそる質問してみる。


「そうだな。我々はネイツ旧王家の事など、どうでもいい」

 地球がネイツにアプローチすること自体に意味がある。


「…それが、ラストバードを“創り出した存在”ってやつに結びつくのかい?」


香澄が眼光鋭く問いかける。


「…そこの女狐がどこまで掴んでいるかは知らんが、概ね想像通りとだけ言っておこう」


次第に、ドライアンデッドたちが騒ぎ始めた。


「リュズ様! 我々にとってはどうでも良いことです。早く元の姿に戻りたい!

 1冊でもあれば、ゲートを逆行することが出来ることは分かっているのだ。我々はそのために協力している」


「分かっていますとも。本とゲートを押さえれば、あなた方の望みは叶えられます。頼みましたよ」


「…インチキ臭い敬語に戻しやがって。いくぜ拓弥」


香澄が再び身構える。


キーーーーーーーーーーーーーーーーーン


突如甲高い高音が鳴り響く。これってシーランが変身するときの…?


…音が解けると、そこには人型になったシーランと…クロカと思える青年が立っていた。


『帰還プログラムを完遂させる。先住達には悪いが…急務なのだ』

『シーランもそう思う』


…この後、2体の守護者としての本当のチカラを思い知ることになる。


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<次回予告>


謎が深まる、本、ゲート、そして異世界。

渡航者に選ばれた俺たちは、一体なにを為すべきなんだろうか。

多数の木人に取り囲まれる中、シーランとクロカがその本性を現す。


次回。『王家の力』へ続く。

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