第9話 船内の異世界問答


今、俺たちは香澄カスミのクルーズ船にのって、一路竹島を目指している。

数時間程度かかるということだった。


オレは最下部の船室で休ませてもらっている。

船の操舵は香澄が、亜衣アイさんは上の部屋で休んでいると思う。


今なら時間がある。その間に色々と考えてみたい。

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「…ちょっとまて。今、ラストバードって。王族…? しかもこいつら、元人間の罪人なのか? シーラン、どういうことだ?…ネイツってお前らの国の名前なのか」

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少なくとも、このことは、今シーランに直接確認しておきたいと思った。


「…なあ、シーラン」

「なあに、タクヤ」


「まだ到着までに時間がある。いくつかきたいことがあるんだが、いいか?」

「いいよ、わかることなら」


「おまえ“王族”って言ってたよな、自分のこと」

「うん」

「ネイツってのがお前らの国の名前で、そこの王族ってことなのか?」

「ちょっと違う。シーランたちは王族の代弁者」

「代弁者?」

「そう。プログラムされた内容を正確に説明する係」

「プログラムされた…ってことはシーランって一体…」

「説明ムツカシイ」


「そこから先は我が話そう」


冷たい風と共に、大きな青白いカラス『クロカ』が現れる。


「我もシーランも、渡航者を導くガイドなのだ。

 名前を渡航者から直接もらうことで、プログラムが起動することになっている」


「じゃあ香澄も」

「その通り。我を見つけ命名した。彼も渡航者の一人となった」


それから、クロカは一つずつオレの疑問に答えてくれた。


実は既に、異世界ネイツには、こちらの世界からの“渡航者”が存在していたという。

彼の名は「長老ダゴバ」。

彼は、聖地からゲートをくぐって亜空間を渡り切った唯一の人間とのことだ。

彼は、地球の文明を彼らに可能な限り教えたが、それが良くなかった様だ。

創造主は異物に怒り、世界の崩壊を望み始めてしまった。


王族「ラストバード」たちは創造主へ祈りを捧げ、怒りを鎮める様に願ったが、

世界の荒廃は始まってしまった。


ダゴバの処刑も吟味されたが、彼の功績は皆の為のもので、王族は彼をかばった。

そんな中、ダゴバから進言があった。

創造主から逃れ、ゲートを渡って、向こう側の世界へ転移するというもの。


だが「ゲート転移」は、ゲート発見当初より実験が繰り返されたが、成功例は無い。

肉体と精神が分裂し、まともな人格を維持できないからだ。


---しかし、ダゴバは続けた。「転移」ではなく「転生」であると。


確かに「転生」というスキル自体は、

「王家の力」と呼ばれる技術の一つとして存在する。

精神体だけを送り、向こう側の世界で肉体を得るというものだ。

だが、転移より難易度が高く、使用が躊躇されていた。


そんな中でも、ネイツという世界の荒廃は刻刻と進んでいくため、

王族は、罪人たちにリスクを伝えた上で、この地球への転生を提案したのだという。


罪人たちは喜んでその話に乗ったそうだが、実際は人間ではなく植物という器に入ってしまった。ドライアンデッドだ。


王族たちは途方に暮れたが、ドライアンデッドからはネイツ側にも届く微弱な信号が観測された。

こちら側に置き去られた元々の肉体が生きている限り、信号は送られ続けることが確認された。


この信号を辿れば、転生ではなく転移、つまり渡航することが可能となる。

そこから数年。

王族は、残った「王家の力」を『本』という形に封じ込めることに成功した。

全部で6冊、「炎」「氷」「雷」「地」「水」「風」という6カテゴリーだ。


彼らは一斉に、この世界に向けて『本』を放った。


………。


「ちょっとまった、クロカ」


思わず、話を止めてしまった。


「この本の正体は少しずつ見えて来てるんだけど、じゃあ『帰還プログラム』って何だよ。こっちの世界にゴソってやって来られるのも問題だけど、荒廃した世界に戻る必要ってあるのか」


「ある。『架けブリッジ』が必要なのだ」


クロカはそう言って、続きを話し始めた。


………。


6冊の本は、あくまで封じ込めたエネルギーを送ったに過ぎない。

それだけではネイツの人々は救われず、現に今も荒廃と戦って苦しんでいるという。


「渡航者」、つまりゲートや亜空間の干渉を最小限に、ネイツに渡れる人材の確保が必要なのだ。


渡航者が『本』を携えてネイツに渡れれば、二つの世界の間に『架けブリッジ』と呼ばれる安全な道が出来るということらしい…。

双方の世界エネルギー代謝理論、とクロカは言うが、オレにはさっぱり良く分からん。


とにかく、ネイツが滅ぶ前に『本』を持った渡航者が現れるのを心待ちにしている状況だそうだ。


彼らは、この世界にやってくるために。


………。


「答えになったかな」


クロカは淡々と説明を終える。


「あぁ、ありがとう。一応、流れ的なところは。だけど、話が大きすぎるよ」


「タクヤならだいじょうぶ。ちゃんと『本』使えてる」

「…行き当たりばったりの、一か八かだよ、ふぅ」


とにかくスケールが大きすぎて、キャパオーバーだ。

これ以上聞くのは、やめておこう…。


まだ、しばらく船に揺られていそうだ。

休める時に休んでおかなくちゃな。


そう自分に言い聞かせて、オレは船室内の隅で横になった。


--------明け方になると、見知らぬ島が見えて来た。香澄が船室に降りて来る。


「よし、ここから飛行機だ。いよいよ日本を離れるぜ」

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<次回予告>

竹島に着いたオレたちは、改めて休息と補給を受けさせてもらう。

とにかく一刻も早く日本を出て、聖地とゲートを見つけなければ、

ドライアンデッドからの襲撃は終わらない。


そして、ここでもまた新しい人物に出会い、助けられる。


次回、『伝説の女トレジャーハンター』

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