第8話『ドライアンデッド、再び』
オレは再び目隠しと耳栓をされ、罪人の様に手を引かれる。
もちろん、いい気分はしない。
だけど、香澄も亜衣さんも、今のところ敵じゃない。
オヤジのことも知っていたし、何より同じ『本』を持っていた。
きっと、色々ヒントが聞けるはずなんだ…。ん?
4~5分も歩いたところで、ふと足が止まる。
まだヘリまで距離があるはずだが、どうしたんだ?
目と耳が塞がれてはいるが、誰か人の気配がする。…それも何人も!?
そう思った瞬間、突然後ろに突き飛ばされた。
「うわっ!」
そのまま穴に落ちたらしく、急降下を始める。
「わーーーーーーーーーーーー…」
≪ドスッ≫
何やらクッションのような感触。ケガはしなかったようだ。
両手は自由なので、さすがに目隠しを取る。
「ここは…」
古い鍾乳洞のような薄暗い洞窟の中。
一面に水が張っていて、深さもそれなりにありそうだ。
落ちて来た上を見上げる。
高すぎて見えないが、どうやらこれは脱出する為の穴だったみたいだ。
リュックは登山タイプで耐久性も十分、身体に巻き付けてあったので無事だった。
そういや、シーランは? まさかつぶれてしまっている??
リュックを空けると、勢い良く飛び出してきた。
「タクヤ、大変」
「あー、無事だったか。全くわけが分からんぜ。
ヘリに乗るって思ったら突然突き飛ばされて」
「カスミたち、戦ってる」
「なんだって?」
「あいつら、襲ってきた」
「あいつらって、まさか、あの木のバケモンか」
「10くらい」
「…!まじかよ。やられちまうんじゃないのか」
「…多分、大丈夫」
「え?」
「クロカ、強い」
クロカって、昨日見たあのドデカイ鳥か。
「タクヤ、シーランたちも行こう」
「行くってどこへ」
「出口。そしてカスミを助けてサフランをめざす」
「サフラン…それが聖地か?」
「シーラン、よくわからない。でもサフランであの人が待っている」
「あの人? 審判者か…とにかく、まずはここを出なきゃな」
そう言って、改めてあたりを見回して光が差してくる方角を見つける。
抜けるには、水面を潜って向こう側に行く必要がありそうだ。
「しゃーねー。本、濡れちまうかもだが、かんべんな」
「大丈夫。シーランが守ってる」
そういうと、リュックの隙間からスルスルと入り込んで、光を放つ。
光は本をすっぽりと覆い隠した。…これで防水効果ってか?
よし。意を決して、勢いよく飛び込む!
≪バシャーン≫
泳ぎは得意ではないが、カナヅチって訳でもない。
そんなに深くもなく、難なく向こう側へ上陸出来た。
「ふー。びしゃびしゃだぜ。…にしても、どこだここ」
辺りを見回すが、見たこともない風景だ。
山梨の研究所からヘリに乗っていたのは、おおよそ60分ほど。
どこかの山岳地帯だとは思うんだが。遠くに山も見える。
「うー寒いぜ。もう11月になるってんだ。朝からの天気でこりゃキツイ」
そうすると、シーランがひょこっと出て来る。
「タクヤ、さむいの?」
「あー。見りゃわかるだろ。ビチョビチョ。とにかく火を起こして乾かさないと」
と言いながら、シーランを見てハッとする。
こいつ、火の精霊なんだよな。こいつにやってもらえば簡単じゃね?
「そうだよ! シーラン。ちょっと火を起こして俺を温めてくれ」
そういって、可能な限り衣服を脱いで、木の枝に掛ける。
「あたためるの得意」
そういうと、シーランは小さい身体ながら大きく息を吸い込んだ
シーランの身体がぐんぐん膨らんで大きくなっていく。
まるで、クマかライオンくらいの大きさまで膨らんだシーランは、
息をフーッを吐き出した。
「うぉっ、あちィーーーーーーーッ」
熱いといってもスチームサウナ程度。やけどはしない。
しかし、熱めの風呂くらいには感じる温度で、結構な熱風だ。
慣れてきたころ、30秒もしないうちに衣服はほぼ乾燥したのだった。
「ふう。サンキュ。すげーなお前」
「シーラン、熱いの好き。とくい。」
「よし、じゃ、とりあえず日の出ている方へ進むか…って、ヤバイ!」
気が付くと辺りに、例の木の怪物が囲まれていた。
さっきのシーランの熱風で気づかれたのか!?
「タクヤ、いくよ」
こいつは全く動じていない。こうなるのが分かってるみたいだ。
「あぁ。一度経験済だしな!」
そう言って、俺は両耳を塞ぐ。
「コーーーーーーーーーーッッッーー」
例のカン高い遠吠え(?)が鳴り響く。
相変わらずすごい爆音だ。全身に痺れが来る。
そして現れたのは、前も現れた少年の姿。既に短刀を両手に持っている。
「タクヤも戦うよ」
そういって、両手に持っていたうちの一本の短剣を俺に放り投げた。まじかよ。
咄嗟に掴むと、
「ッッ!」
痛みとも痺れともつかない衝動が手のひらから四肢に伝わる。
だが、次の瞬間、今までにない様な気迫が満ちて来た気がした。
何だか知らないが、ありがとよ。何とかなりそうな気はしてきた。
シーランはニコッと笑ったかと思うと、次の瞬間、バケモンに向かって突進していった。
速ッ…。バケモン…か。
たしか西園寺先輩は「ドライアンデッド」とか言ってたっけ。
こいつらもそうなんだろうか。
「クケケケー! 本よこせ。本よこせ。俺たちの願いかなう。よこせ。」
ものすごいスピードで枝をまるでムチのようにしならせて、
襲ってくる。
「ッ、当たる!」
≪カキィィィィィン≫
「グェェェェェェぇぇぇ」
「痛くない…というか、相手がダメージを受けている?
よし、ひるんでいる。今だ!」
そういうと、不慣れながら短刀を両手で持ち大きく振り下ろす。
≪ガキィィィィィン!≫
「クッ、ダメだ。オレの生身のチカラじゃ」
「タクヤ! 本を呼んで」
「読めって? 今、そんな状況じゃないだろよ!」
「ちがう、呼ぶ。呼べば助けてくれる」
…なんだろう、頭の中に言葉が浮かび出した。
『ファイの書! 我を導け!!』
すると、リュックから例の本が飛んできて、勝手にページを開いていく。
あぁ、また口が勝手に!
『第一の章、1節、弐の段。炎の継承者ファイに代わり命ずる』
『
身体も自然に動いて、もう一度短剣を振り下ろす。
≪ズガガガガーーーーン≫
まさに一刀両断。
無我夢中で振り下ろしたその短剣からは赤い光がほとばしっていた。
こいつぁ、まるでオーラブレードだな。
「グ、、ガガ、、ガ」
木人は燃えながら消えて行った。
「なんて威力だ。しかもこの短剣、手に吸いつくように重さが全くない」
「エンリューケン!」
≪ズバッ≫
向こうでシーランも健闘している。
よし、オレも向かうぞ。
「グレレレレレ」
襲い掛かってくる連中は、この短剣で簡単に退けられる様になっていた。
短剣にまだ赤い光が灯っている。さっきの技がキッカケで力が解放されたのかな。
こいつが勝手にレーダーになって、次の手を教えてくれている様だった。
背中合わせにシーランと合流する。
「シーラン、大丈夫か」
「大丈夫。タクヤも強くなったね」
「いや、この短剣のお陰なんだが」
「グルグルグルグル。お前が“渡航者”か」
本を渡せ。わが一族の悲願をかなえさせよ」
またそれかよ。そういや、こいつらの声も音じゃなく、直接頭ん中に入ってくるな。
「お前らの目的は何なんだよ」
「クキクキクキ…。俺たちの世界に帰るんだよ。あの美しかった『ネイツに』」
「ネイツ?…なんか、どこかで聴いた気が…。
「ネイツ…ネイツ…。! そうだ! 『ネイツ源初聖典』オヤジの著書だ」
少年姿のシーランが吼える。
「下がれ、木人。お前たちは、我ら王族から処罰を受けた者たち。
今回の『ゲーム』への参加は認められていない」
「ダマレ!ラストバード。貴様らの戦争が、世界を、ネイツを狂わせたのだ!」
我々は本の力を辿ってネイツへ戻り、再び人間として転生蘇生するのだ」
「…ちょっとまて。今、ラストバードって。王族…? しかもこいつら、元人間の罪人なのか? シーラン、どういうことだ?…ネイツってお前らの国の名前なのか」
「うるさい、渡航者。お前を向こうには行かせない! 行くのは俺たちだ」
「タクヤ、構えて!」
「え!?」
とっさに本を前方に掲げるが、遅かったか!?
「…森羅雲梯(シンラ ウンテイ)!」
「!、なに!?」
≪ゴゴゴゴゴゴゴ…≫
地響きが響き渡ったと思うと、辺りの森林の木々の枝枝がまるで触手のように、俺たちを取り囲む。
「くそっ逃げられない」
「タクヤ、燃やすしかない」
そのとき…
「蓮氷斬!」(レンヒョウザン)
きしむ音と共に、行く手を塞いでいた木のバリアが砕かれていく。
見ると、空飛ぶクロカに乗った香澄と亜衣だった。
「よう、無事だったみたいだなー!」
「けがはないー?」
そういったかと思うと、香澄は何やら鎖鎌のようなエモノを手にして、とんだ!
「クロカ! 加護を!」
『わが主、氷の継承者ヒュリザより賜りしジャガロの恩恵を、かの者に!』
すると、香澄の鎖鎌が青白い光に包まれた。
香澄は左手に例の本を取り出して、ページをパラパラめくっていく。
「…第六の章、1節、弐の段。唸れ「アイシクル・ネビュラ!」
香澄が鎖鎌を振り下ろすと、無数の氷のカッターが勢い良く木人たちに突き刺さった。
「バカが。我ら木人には痛覚などない。刺さった氷の花びらなぞ、何のダメージにもならぬわ」
「そうかな? このエモノ、古代マヤ文明の遺産なんだぜ?
無数の疫病を吸ってきた毒呪いのアイテム『毒蛇の魔狩り』。
見てみろよ。溶けた氷の周りをよ。
なんだ? まるで塩酸のように、木人の身体を溶かし始めている。
「ウガグガガ! いかん、細胞が死んでいく!」
「タクヤ、エンリュウケンだよ。本を開いて!」
「え?」
「大きく横に一文字。みんな斬れる」
「お、おーし。」
俺は本を適当に開いて大きく息を吸い込むと、短剣を思いっきり横にひっぱって。。。
「炎流剣、横断!」
と、思い付きで叫んで、横一直線に斬った!
すると一気に軌跡から火の手が上がり、何十もいた木人が一気に燃え上がる。
数分もしないうちに、全焼、鎮火した。
「ふー」
思わずペタリと尻餅をついてしまう。
「タクヤ、よくがんばった」
シーランはそう言うと、シュルシュルと縮まって、元のイタチの姿に戻った。
…そういや、今は詠唱無しに炎流剣が出せていたな…。まぁいいか。助かったんだし。
大きく肩で息をしていると、亜衣さんが駆け寄ってくる。
「ちょっと、ケガしてるじゃない、どいて香澄」
ほんとだ。あちこち擦り傷だらけだ。
まあ、これくらいで済んで良かった方か。
…って考え事しているうちに、亜衣さんの的確な応急処置は終わっていた。
「あ、ありがとうございます。…すごいですね、手際」
「まぁね? カスミの世話してるうちに覚えたわ。薬の知識もあるのよ」
そう言って、香澄の方へ得意そうな視線を向ける。
「ま、オレに付き合ってれば自然とそうなるさ。職業柄、生傷は耐えなくてね」
こんな時でも、カスミは異常なくらいに冷静だ。
とんでもない場面がまるで日常かに思えてくる。
彼は沈黙を守った後、数分もかからずに荷物をチェックしまとめ上げた。
「さてと。ここからは歩きで行くぜ」
「え?」
「さっきのゴタゴタでヘリもやられてる。どこでかぎつけたんだが、俺のアジトもおじゃんだ。ま、最低限の装備は持ってきているが、もって数日、次襲われたら面倒だな」
「どうするのよー」
「うるせーな。策はちゃんとあるんだよ。とにかく森を抜けて船をゲットする。それから、ある島まで行かなきゃならない」
「島って、どこのよ」
「…竹島だよ」
---そうして、俺たちは香澄を先頭に森を抜け、どこに隠してあったのか、中型のクルーズ船に乗り込んで、夜通し船を走らせた。---
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<次回予告>
船内で揺られるオレたち一行。
少しでも休みたいところだが、どうしてもシーランに訊いておきたいことがある。
…お前は一体何者なんだ…?
次回『船内の異世界問答』
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