第3話 碓氷さんはやめてくれない
碓氷さんの眠たげな目が少しだけ見開かれた。
とってもセンシティブな話をしているはずなのに、碓氷さんはずっと詰まらなさそうな顔をしていたから、一泡吹かせられたみたいで嬉しくなる。
だけど浮かれるわけにはないかない。まだ何も解決していないのだ。
「私を買うって……え、なに? 天ヶ瀬ってそういう趣味あんの?」
とんでもない勘違いをされていた。
「違います! 碓氷さん、お金が必要なんですよね? なら、私が出資します。そうしたら、お父さんと売春する理由もなくなりますよね」
我ながら素晴らしいアイデアだ。そのつもりだったのだけれど、碓氷さんは相も変わらず怪訝そうな顔をしていた。
……いいえ、これが碓氷さんのデフォルトの表情なのかもしれない。
「あーまあ、そう……なのかな?」
イマイチ響いていないのか、碓氷さんはボンヤリとした返事しかしてこない。
「いやでも、私天ヶ瀬のお父さんから結構な額貰ってるよ。同じくらいのお金、天ヶ瀬が払えんの?」
いったい何を悩んでいるのかと思えば、お金のことだったらしい。
……お父さん、いったい碓氷さんにどのくらい渡しているんだろう。
気になるし、もしかしたら私には払えない金額かもしれない。だけど、ここは虚勢でもいい。とにかく碓氷さんを頷かせるのが先決だ。
「大丈夫です。私、お小遣いたくさん貰ってるので」
「お小遣いって……それ、結局お金の出所一緒じゃん」
「お金は問題ではないので」
そう、大事なのはお父さんと碓氷さんの関わりを絶つこと。
それ以外のことを気にしている余裕などないのだ。
「う、うーん」
「何かこれ以上悩むことがあるんですか?」
「いやだって天ヶ瀬、私のこと買うんでしょ?」
「はい。そうですけど?」
「私、女の子とセックスできると思えないんだけど……」
「しませんし、私だってできません!」
何を言い出すのかと思えば、私とセックスだなんて。本当にこの人は、どこまで脳みそがピンク色なのか。
「え、じゃあ私のこと買って何すんの?」
「別に何もしませんよ。私はただ、お父さんと会って欲しくないだけなので」
「つまり私は天ヶ瀬から何の理由もなくお金を貰うことになると」
「ええ。願ったり叶ったりでしょう?」
「うーん、どうだろ。何の対価もなしにお金貰うのはちょっと」
売春をしておきながら、どうしてそこは普通の価値観なのか。
疑問に思わないこともなかったけれど、今はいい。
碓氷さんが私から無償でお金を貰うことに抵抗があるのなら、対価を要求するまでだ。
「なら、私のお願い事を聞いてください。それに対しての報酬として、碓氷さんにお金をお渡しするので」
「はぁ。ちなみに、お願いって何されるの?」
「それは……追々考えます」
いきなり碓氷さんにお願いしたいことを聞かれたって何も思いつきやしない。
それもそのはずで、碓氷さんと会話をしたのはこれが初めてなのだ。
今までは正直言って意識することすらない、取るに足りないクラスメイトの一人だった。
それが一転、今やお父さんが援助交際で買っている女の子だ。
そんな人に頼みたいことがおいそれと浮かんでくるはずもない。
「あっそう。なら、早めにね。あんまり遅いと、またあんたのお父さんと会うことになるかもだから」
「……っ、わかってます!」
人の親と援助交際をしておいて、全く悪びれる様子のない碓氷さんに苛立ちを覚える。
本来の予定なら、
『天ヶ瀬の父親だったんだ、ごめんね。それは知らなかった』
と手を引いてもらうはずだったのに。
あろうことか碓氷さんは、この話を漏らせばお父さんが社会的に死ぬと脅してきた。
やはり売春をしているだけあって性根が腐っているようだ。
だけど、私はそんな碓氷さんを飼いならす必要がある。
いつ終わるのかわからない戦いが、今日この時から始まるのだ。
パパ活女子、クラスメイトに買われる。 能代 リョウ @kashi_kashima
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