46_だるまさんがころんだ?

 倉庫の建物に向かって右端にある出入口ドアの横の、隣の倉庫と壁の隙間からほんの僅かに妖気が漏れている。そこから、こっそりとこちらを覗く何かが見える。

 琥太郎がジッとそちら見ていると、壁の隙間の何かはそぉっと奥に引っ込んだ。


「「……隠れちゃったか。」」


 琥太郎は倉庫に背を向けると、上体を起こして体育座りになっていた美澪に囁いた。


「美澪、ちょっと待ってて。」


 琥太郎は倉庫には背を向けたまま、壁の隙間に潜んでいる何かの妖気に意識を集中させる。すると、しばらくして再び壁の隙間の何かが僅かに顔を出してこちらを伺いだしたのが感じ取れた。


「そぉ~っと…」


 琥太郎がゆっくりと後ろを振り返ると、壁の隙間の何かもまた、ゆっくりと奥に引っ込んでしまった。


サササッ


 壁の隙間の何かが奥に引っ込んでしまったのを確認した琥太郎は、静かに、そして素早く倉庫の方へと4~5歩近寄った。そこで再度倉庫に背を向けてじっと待つ。すると、やはりしばらくして壁の隙間の何かもまたゆっくりと顔を出した。


「そぉ~っと…」


 琥太郎がゆっくりと後ろを振り返ると、壁の隙間の何かは、振り返る動きに合わせてゆっくりと壁の奥にひっこんでしまう。


サササッ


 琥太郎も再び倉庫の方へと素早く4~5歩移動してから、倉庫へ背を向けてじっと待つ。

 このやり取りを3回ほど繰り返し、倉庫のドアまで10m位の場所まで琥太郎が近づいた。

 美澪はこのやり取りを、地面に座ったまま興味深そうに見ている。

 またしてもそぉっと顔を出してきた壁の隙間の何かの方へと、琥太郎もゆっくり振り返った。相手が同じように壁の奥へゆっくりひっこんだのを確認した琥太郎が、ここで「気」による身体強化を発動する。そして一瞬にして、先ほどから何かが顔を出している壁の隙間のすぐ横へと移動した。

 するとしばらくして、再び壁の隙間から例の何かが顔を出してきた。


「こんばんは。」

「ウワッ、ワーッ」


 壁の隙間から顔を出してきたのは間違いなく妖だ。

 もちろん、琥太郎は先ほどからずっとその妖気を感じ取っていたので、壁の隙間に潜んでいるのが妖であることは判っていた。


ボンッ!


 いきなり真横から声をかけられた妖は、咄嗟に結界を張ったようだ。

 しかしその結界は、既に妖の真横にいる琥太郎の外側に張られていた。つまり、琥太郎は妖と一緒に結界の内側にいる状態だ。妖は結界で琥太郎を拒絶するつもりだったようだが、あまりにも慌てていたために、咄嗟に張った結界は距離感を誤ってしまったようだ。


「アワ、アワッ」


 妖は結界の内側に琥太郎がいる事で、更に慌てて、アワアワしながらアワアワ言っている。


「「……リアルに慌ててアワアワ言ってるの初めて見たな…」」


「あのぉ、なんだか驚かせちゃってごめんなさい。」


 目の前の妖があまりにも慌てふためいているので、琥太郎はとにかく落ち着いてもらおうと、妖に謝りながら様子を伺う。


 その妖の身長は130cmくらい。

 足元まで伸びた髪の毛で全身が隠れてしまっており、まん丸に大きく見開かれた目が顔のあたりに覗いて見えている。

 妖は、背中を後ろの壁につけて、琥太郎を見つめたまま驚いて固まってしまっていた。


「「……なんか気になって見に来ちゃったけど、ちょっと悪いことしたかなぁ…」」


バンッ!

パリンッ!


 琥太郎がどうしたものかと思案していたところ、突然、妖が張った結界が琥太郎の背後で崩壊した。同時に美澪が琥太郎の横に歩いてやってきた。どうやら結界を破壊して入ってきたようだ。

 妖は、今度は突然結界を破壊して入ってきた美澪を見て固まっている。

すると、美澪が目の前で立ちすくんでいる妖を見てつぶやいた。


「んっ、蔵ぼっこ?」


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