34_やるべき事

「まあ、今まで何年もかけて練習して出来なかった事が、今日は完全で無いとはいえ確実に出来るようになってきたわけだし、それだけでも物凄い進歩なんじゃない。」

「もちろんそうなんですけどね…。だけど、ここまできて完成させられないのは悔しいです。」

「風音さんの話を聞いてると、霊気を集めるのも回転させるのも感覚の問題みたいだから、もうあとはひたすら練習を重ねて霊気を扱う感覚を磨いていくしかないんじゃない。今までって、霊気自体をまったく感じられていなかったんでしょ

。」

「はい、今までこんなに体の中で動く霊気を感じた事なんでありませんでした。そうすよね、一日で全部出来るようになりたいなんで甘いですよね。」

「気晴らしも兼ねて、今度は自分で霊気を圧縮してダディを顕現させてみたら?」

「あっ、やってみたいです!!」

「目立つから可視化させずにお願いね。」

「はい。むふふふふぅ…」


なんか風音さんがちょっと気持ち悪い笑い方をしながら肩を回している。とにかくダディを顕現させるというのは風音さんにとって嬉しいみたいだ。


「じゃあ、琥太郎先輩、よろしくお願いします。 ฉันจะร่ายคาถา」


風音さんが祝詞を唱えると、先程とは微妙に違う感じの霊気が風音さんの全身から噴出する。それをすかさず琥太郎が風音さんの丹田にむけて流しながら、回転させる。霊気の回転が落ち着いたところで琥太郎が操作を解くと、それを風音さんが更に加速させて圧縮していった。


「「……おぉ、ダディの顕現でも問題なく霊気を圧縮出来てるな。」」


「ふんっ!」


琥太郎の見た目にも霊気が風音さんの丹田を中心に強力に圧縮されたところで、風音さんが圧縮した霊気を右手から形代にむけて放出した。

放出された霊気は、螺旋状にうなるように回転しながら一直線に形代に向かう。


ドーンッ!!!


すると、可視化されていない状態のダディが顕現した。


「ヨシっ!」


風音さんが両手を胸の前でグーに握って小さくガッツポーズしている。


「やっぱり、霊気を丹田で圧縮して、まわりに散らさずに形代に届かせる事さえできれば、風音さんの陰陽術は問題なく発動できるみたいだね。」

「はい。これはもう、絶対に最初の霊気の回し始めから自分自身で出来るようにしたいです。なんか、最近は陰陽術の練習も行きずまっている感じだったんですよね。ようやくはっきりとやるべき事が見えた感じです。本当に琥太郎先輩ありがとうございます。よ~っし、明日から早速猛特訓です!」

「だけど風音さん、俺が風音さんの霊気を圧縮する時に凄く辛そうにしてるでしょ。あんまり無理し過ぎないでね。」

「あ、それは…、なんていうか、それは大丈夫なんじゃないかと思います。琥太郎先輩に体の中の霊気を動かされてる時は、なんていうか、痛かったりはしないんですけど、もぞもぞするっていうかくすぐったいっていうか、とにかく凄く変な感じなんですけど、自分自身で霊気を動かす分にはなんともないんですよね。そうですね、例えば、脇腹を他人にくすぐられると、くすぐったいですけど、自分で触る分にはなんともないですよね。なんかそんな感じです。」

「へぇ~、体の中の霊気を強制的に動かされるとそんな感じなんだね。知らなかった。まあ、それでもあんまり無理し過ぎないでね。」

「ねえ琥太郎…」


琥太郎が後ろを振り返ると、美澪が顕現したダディを見ながら琥太郎の袖を引っ張っていた。まわりのキャンパーがバトニングをしてたり焚火で料理をしてたりするのを見学してまわっていた美澪が、ダディが再び顕現したのを見て戻ってきたようだ。


「ダディと模擬戦したい。」

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