35_湖畔の模擬戦
琥太郎がずっと風音さんと二人で練習を続けていたので、美澪は退屈していたらしい。
「えっ、ここで美澪とダディが模擬戦なんか始めたらさすがにヤバいんじゃないかなぁ…」
「模擬戦って、戦うって事ですよね。」
「そうだね。相手を殺したり必要以上に痛めつけたりはしない程度に戦闘をする感じかなぁ。」
「ダディは大丈夫?」
「ふむ。問題ない。」
風音さんがダディに訊ねると、ダディは軽く頷きながらそう言った。
「えっ、だけど風音さん、さすがにこんなところで美澪達が模擬戦なんて始めたら大騒ぎになっちゃうと思うよ。実際まわりに人がいたら危ないし。」
「そうですね。だけど、本栖湖の湖畔をちょっと移動したら、この時間ならほとんど人もいないと思うし、そこなら大丈夫かもしれないです。それに、私もダディの戦い方とかをきちんと把握しておきたいです。」
大丈夫かもしれないと言う風音さんに連れられて、琥太郎達はキャンプ場前の道路を渡り本栖湖湖畔に出た。そこから湖畔沿いを少し歩くと、風音さんの言うとおり誰もいない少し開けた場所があった。湖畔の岩や木などに隠れて、まわりからも隠れた場所になっている。
「ちょっと狭いけど、確かにここならちょっとした模擬戦くらい出来そうだね。」
「んっ、ここで充分。」
美澪はそう言って首と肩をコキコキと軽く回す。そしてその直後、美澪から強力な妖気が噴出し全身にその妖気を纏った。
「いつでもいいよ。」
「うわっ、美澪って強そうだなとは思っていたけど、こんなに凄いんだ…」
風音さんが臨戦態勢に入った美澪を見て、あらためて驚いている。
「風音さんって、妖気を感じるだけでその強さとかレベルみたいのも判別出来るの?」
「判別できるというか、お父さん達が陰陽師の仕事で妖を祓いに行くのに何度か同行した事があるんですけど、そうした時に見たり感じたりした妖達の妖気の強さが基準になってる感じですかね。お祓いの依頼がくる程の妖達なので、中にはそれなりに強い妖もいたはずなんですけど、私が同行して祓われるのを見てきた妖達よりも美澪の方が断然強そうです。」
やはり美澪は、陰陽師見習い(?)だった風音さんから見ても相当強いようだ。
「ダディはいける?」
「ふむ、問題ない。」
風音さんに声をかけられたダディからも一気に霊気が噴出する。こちらもかなり強烈だ。美澪とダディの強力な妖気と霊気によって、湖の水面が細かく波打っている。
「じゃあ二人とも、あんまりやり過ぎないでね。その斜面の上はすぐに道路だから、道路を壊すような事なんて絶対にだめだからね。」
琥太郎が美澪とダディの二人に注意を促すも、二人は向き合ったまま既に臨戦態勢で返事をしない。
「「……こりゃ注意しても無駄そうだなぁ。俺が気を付けて周りを守っとかないとヤバそうだよね…」
「風音さんも準備はいい?」
「はい、いつでも大丈夫です。」
「よし、じゃあみんないいね。 始め!」
琥太郎が試合開始の掛け声を放つと、直後に美澪が妖気による4本の爪の斬撃をダディに放つ。同時に斜め前に駆け出した美澪は、ダディの斜め45度の位置あたりで直角に急ターンしてダディへと迫った。
バンッ!
ダディは美澪から放たれた妖気の斬撃を事もなげに片手で払うと、斜め前から迫ってきた美澪を裏拳で迎え撃った。
妖気を纏った拳をダディに叩きこもうとしていた美澪は、ダディが裏拳を放ってきたのを見て咄嗟に上空にジャンプして裏拳をかわす。同時に上空に飛び上がりながら、妖気の連弾をダディの顔面めがけて放った。
ドドドドドッ
ダディは顔面に向けて飛んできた妖気の連弾を片手で防ぐ。そして美澪の妖気が飛んできた方向に向けて、手の平から強力な霊気弾を放った。
ドンッ!
しかし、ダディが霊気弾を放った方向には既に美澪の姿は無かった。上空にジャンプした美澪は、なんと空中に足場があるかのように、空中で連続して急激に向きを変えながら上空を駆けている。
タンッ タンッ タンッ!
「「……すっげー! 美澪のあんな動き見た事なかったよ。こんな事まで出来るようになってたんだ。スピードも子供の頃とは段違いだし、自分で強くなったって言ってたのも納得だな…」」
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