31_試行錯誤

「ねえ風音さん、風音さんがダディを顕現させる時に、手の平を形代に向けて祝詞を唱えてたでしょ。風音さんのイメージでは手の平から形代に向けて霊気を流してる感じなのかなぁ。」

「はい、そうです。体の中で練った霊気を手の平から放出して形代に霊気を注いでいます。」

「そうか…、という事は、それが現時点で全く出来ていないって事なんだね。」

「うぅっ、全く出来てないですか…。うまく出来てないのはなんとなく自覚してるんですけど、全くですか…。あらためて指摘されるとやっぱりちょっとショックですね。あんなに練習してるのに…」

「う~ん、こないだも言ったけど、風音さんが祝詞を唱えると、風音さんの全身から全方向に向けて霊気が噴出してるんだ。手だけじゃなくて、頭とか背中とか足なんかからも。見た感じだと、形代に向けてる手の平も、他の場所と比べて放出されてる霊気が特に濃いわけでもなさそうなんだ。本当に全身から均一に全方向に向けて噴出されてる感じなんだよね。」

「うぅっ、そうですか。本当に全く出来てなかったってわけなんですね…」


風音さんがあからさまに肩を落として落ち込んでいる。


「風音さん、ダディとかベレーさん達を顕現させる時みたいに一瞬だけ霊気を放出させるんじゃなくて、もうちょっと長い時間継続的に霊気を放出させる事って出来る?」

「そうですね…、浄化の術であればある程度継続的に霊気を放出している状態になると思います。まあ、私の場合には浄化の効力も凄く弱くて使い物にならないんですけど。」

「じゃあ、今度はちょっとそれをやってみてもらってもいい? そうだなぁ…、この石を浄化するみたいなイメージで。あっ、この石には俺は何もしてない、ただの石だからね。」

「わかりました。บรรลุพุทธภาวะ」


琥太郎が置いたちょっと大きめの石に向けて風音さんが手の平を向けて祝詞を唱えると、再び風音さんの全身から霊気が噴き出した。先程ダディを顕現させた時と比べると霊気の勢いが少し弱いが、風音さんの言ったとおり今度は霊気がすぐに収まらずに噴出し続けている。しかしその霊気は、先程同様に石に向けた手の平から出ているわけではなく、やはり風音さんの全身から均一に放出されていた。


「風音さん、ちょっとそのまま頑張っててね。」


琥太郎はそう言うと、風音さんから放出されている霊気の流れを石に向けている風音さんの右手の平を経由するように動かしていく。風音さんの全身から放出されようとしている霊気を風音さんの体の外には出さないようにしながら、右腕を経由させて右手の平から出ていくように調整する。しかし、そうして風音さんの右手の平から放出された霊気は、右手の平から放出された瞬間にまっすぐ石には向かわずに拡散しながら周囲に広がってしまっている。更に、琥太郎が霊気の調整をやめた瞬間に元通り全身から放出されるように戻ってしまった。


「う~ん、やっぱり駄目か…」

「琥太郎先輩、今のは何をやったんですか。なんだか体の中心から右手にかけてすごくゾワゾワしたんですけど。」


風音さんが浄化の術を解いて琥太郎に話しかけてきた。


「霊気が風音さんの全身から放出されるのを止めて、その霊気を石に向けていた手の平からのみ放出するように流してみたんだ。だけど、それだけじゃ結局拡散しちゃうんだよね。う~ん、やっぱり簡単にはいかないね…」


そう言って琥太郎が再度考え込む。


「風音さん、さっき体の中で練った霊気を手の平から出すみたいな事を言ってたでしょ。体の中で練るってどんな感じなの?」

「そうですね…、おヘソの下の丹田と言われる場所あたりのお腹の中に霊気をためて圧縮してるようなイメージですかね。それを手の平から対象に向けて放つ感じです。」


風音さんが祝詞を唱えて術を発動している時の霊気の流れを見る限り、特にお腹の中にため込んだり圧縮されたりしているような動きは見受けられなかった。やはり風音さんの言う練るという処理が実際には出来ていないようだ。

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