30_キャンプ場

 週末、風音さんと約束していた本栖湖へはレンタカーを借りていく事にした。

 風音さんが一人で本栖湖まで行く時は、なんと原付バイクで行っているらしい。風音さんの話では、途中で休憩しながらのんびり行っても4時間はかからないですよとの事だった。風音さんの自宅から本栖湖までだと100km以上あるはずだが、あらためて風音さんのアクティブさに琥太郎は驚かされる。

 レンタルしたコンパクトカーを琥太郎が運転し、助手席に美澪が座る。当初は後部座席に風音さんとダディが座ろうとした。しかし、ダディの体が大きすぎてあまりにも窮屈だったので、本栖湖まではダディの顕現は断念する事になった。風音さんはかなり残念そうにしていたが、代わりに小さなベレーさんを1体だけ顕現させて一緒に座っていた。ちなみに先日初めてダディを顕現させた際にはダディさんとさん付けで呼んでいたが、琥太郎達もさんは付けずにダディと呼ぶ事になった。風音さんの話では、式神を使って戦闘する際に、式神の名前が長いと一つ一つの指示に余計な時間を取られてしまうので、戦闘で使用する式神の名前は短い方が良いとの事だった。そうなると、ベレーさんは何故さん付けなのかと疑問が残る。琥太郎が風音さんに訊ねたところ、ベレーさんは「ベレー」だけだとなんだか変だからという返事がかえってきた。なんだかわかるような気がしなくはないが、まあそういう事になっているらしい。

 朝6時に風音さんの自宅がある分倍河原駅前のスーパーで待ち合わせをして、国立府中インターから高速に乗ってしまえば、朝8時前には本栖湖キャンプ場に到着する事が出来た。

 風音さんが話していたとおり、そこは林間の大きなキャンプ場だった。しかも、道路を隔てて本栖湖の湖畔にもすぐに出る事が出来る。何より、キャンプブームでなかなか予約が取れないキャンプ場が多い中で、予約なしで利用できるというのも確かに便利だ。

 琥太郎達は、混雑を避けて、受付から比較的遠い場所を選んで、風音さんが持参したタープを張った。今日は天気もよくて風もたいして吹いていないので、どちらかというと周りからの目隠しが目的のタープだ。


「琥太郎先輩、早速ですけどダディを顕現させてもらえませんか?」

「うん、いつでもいいよ。とりあえず最初は、周りからは見えない状態で顕現させてみようか。」


琥太郎が答えると、風音さんは早速大型の形代を地面に置いて祝詞を唱えた。

同時に風音さんの全身から噴出する霊気を琥太郎が纏めて、風音さんが地面に置いた形代に集中させる。



ドーンッ!!!


爆音とともに、うっすらと白煙が立ち上り、ダディが顕現する。先日居酒屋の個室で顕現させた時にはその爆音にかなり驚いたが、外で顕現させる分には個室の時ほど音は気にならなかった。今回は可視化はさせていないため、美澪と同じ見え方になっている。

ダディが顕現すると同時に美澪も妖気を纏い、瞬時に臨戦態勢になった。


「ちょっと美澪、周りにこんなに人がいるところで戦闘とかしないでよ。風音さん、ダディも美澪に攻撃したりしないよね。」

「はい、ダディは大丈夫です。ダディ、美澪はお友達だから攻撃なんてしないでね。」

「問題ない。」


ダディは美澪に視線を送りつつ風音さんに軽く頷いていた。


「風音さん、じゃあ今度は俺の補助なしでもう一度やってみよう。」

「はい。ダディ、出てきてもらったばっかりで悪いけど、今日はダディに顕現してもらう練習だからごめんね。」


そう言って風音さんは、今顕現させたばかりのダディを形代に戻した。その上であらためて風音さんが祝詞を唱える。


「ฉันจะร่ายคาถา」


今度は琥太郎が何もしていないため、風音さんの体から噴出した霊気は風音さんを中心に全方向へと広がった。もちろんダディも顕現しない。


「どう風音さん、俺がコントロールした時と、今の何もしていない時で、風音さんは何か違った感覚ある?」

「いいえ。私自身はまったく同じ感覚です。」

「そうだよね。風音さんから放出された後に霊気を弄ってるだけだから、そりゃ風音さんは何も変わらないよね。う~ん…」


そう言って琥太郎はしばらく考え込む。

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