28_黒魔術の島

幼い頃から妖気、霊気、神気といった様々な「気」を見てきた琥太郎も、先程カミリさんが使った術のような「気」は見た事がなかった。


「えぇっ、あれは魔術の一種なんだけど…、いやいや私の事なんかよりも琥太郎君こそ、本当に琥太郎君って何者なの?絶対に普通の人間じゃないよね?!」

「えぇっ、魔術ですかっ?! え~っと、俺はさっきも言いましたけど普通の人間ですってば。妖とか霊なんかを見れたり、なんだかちょっといろんな「気」を操れたりするだけです。」


琥太郎もカミリさんも、お互いに聞きたい事だらけなので話が錯綜してなかなか進まない。


「あれはちょっとなんてもんじゃないんじゃない?」

「う~ん、俺自身はそんな大した事してる自覚ないんですよね。それに、長い事能力を封印されてましたし。さっきも話しましたけど、先週封印が解けて、久しぶりにいろんなものが見えるようになったり、また「気」の操作が出来るようになったばっかりなんです。」

「もぉ、なんだか全然よくわからないけど、琥太郎君がこんなに凄い人だと思わなかったよ。あと、美澪ちゃんだって凄く強そうだし…」

「美澪でいい。「ちゃん」はいらない。」

「えっ、えっ、え~っと、なんだかごめんなさい。」


美澪は先程からカミリさんをじっと観察するように見ている。美澪もカミリさんから何か少し変わった気配を感じ取っているのかもしれない。


「あ、なんか美澪は、ちゃんづけで呼ばれると自分だけ子供扱いされてるみたいだからって嫌がるんです。一応、美澪は俺の一つ年下で23歳なんですよ。」

「一応じゃない!ちゃんと23歳で間違ってない。それに琥太郎と婚約だってしてる。」

「えぇっ~!」

「えぇっと、それはいろいろとありましてというか…、もう話が進まないので、それはちょっと置いておいて、そんな事よりもカミリさんのあのモヤモヤが魔術って、カミリさんこそ何者なんですか?! 魔術って事はカミリさんが魔女って事ですか??」

「そんなんじゃないってば。というか、私のおばあちゃんが魔女みたいな人なんだけど…」

「えぇっ!」

「琥太郎君って、フィリピンのシキホル島って知ってる?」

「いえ、知らないです。」

「そうよね。日本人にはあまり馴染みがない島だもんね。地図でいうと、セブ島のちょっと下にある、ビサヤという地域の島なんだけど、私はそこで生まれて育ったの。それで、シキホル島っていうのは、昔から凄く黒魔術が盛んな島なの。いわゆる呪いの類ももちろんあるんだけど、普通の病院で治らない病気の治療なんかを目当てにやってくる人もいるんだよ。最近はそうした黒魔術目当ての観光も盛んになってきて、フィリピン国内だけでなく外国からも観光客が来るようになってきたんだ。お土産として惚れ薬なんかは凄く売れてるみたい。」

「惚れ薬ですか?! それって、本当に効果があるやつなんですか??」

「う~ん、お土産で売ってるようなやつははっきり言っちゃうと、ほとんど効果がないようなものも中には売られてる事もあるわね。きちんと効果があるのも、漫画みたいに相手が一瞬でベタ惚れしちゃうような事はなくて、効果としては女性用の香水と同じか、それよりもちょっと魅力的に感じさせる事が出来る程度かなぁ。」

「えぇ~!、それでも十分凄いですよね。もしかしてカミリさんもそういうの持ってたりするんですか。」

「うっ…、え~っと、私も持ってるというか、島を出て日本に来る時に、おばあちゃんから本当に好きな人が出来たなら使ってみなさいって言われて持たされたのがあるけど。もちろん、まだ使った事なんてないからね!」


カミリさんが、自分も惚れ薬を持っているという事を告白するのに、なんだか狼狽している。やはりこういった薬を持つ事に対しては後ろめたい気持ちもあるのかもしれない。


「実はその私のおばあちゃんがそうした黒魔術師なんだけど、シキホル島の中でもちょっと有名な凄腕黒魔術師なの。今では一応表向きは引退してる事になってるけど、まだまだバリバリ魔術は使えるんだよね。私は小さい頃からおばあちゃん子で、おばあちゃんと一緒にいる事が多かったのね。その頃におばあちゃんから、さっき使ったような護身術的な黒魔術を教わったりしてたんだ。それと、私も一応少しは黒魔術の才能があるみたいで、普通の人には見えない妖なんかも小さい頃から見る事が出来てたの。だけど、琥太郎君もそんな能力があったなんてびっくりだなぁ。」

「じゃあ、さっきカミリさんがカバンから何か出して握ってましたけど、あれが黒魔術用の魔道具だったんですね。」

「うん、これね。魔道具っていうか、黒魔術で護身用の魔力を込めてある魔石なんだ。」


そう言うと、カミリさんはかばんから黒っぽくて丸い石を取り出した。


「これは、おばあちゃんが魔力を込めてくれた魔石で、さっき使ったのは、この魔石を媒介にした魔除けの魔術なんだ。基本的には黒魔術による呪いなんかの攻撃を一時的に防いだりするものなんだけど、日本で言う妖とか霊なんかにもある程度効果があるんだよね。」

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