27_模擬戦好き
「いやっ、あの…、俺は焔琥太郎です。世話になったなんてそんな…。今まで俺の結界のせいで、このあたりの妖のみなさんに迷惑をかけちゃってたみたいなんで、たまたま街中で知り合ったムギとミックに頼んでお詫びにうかがってました。そしたら、なんか酌威さんと力試しみたいになっちゃって…。酌威さんにも怪我をさせるつもりとかなかったんですけど、酌威さんが結構強かったんでちょっと力を入れすぎちゃったみたいで、ごめんなさい。それと、天井の件も、酌威さんの妖気を天井に向けて弾いちゃったんですけど、まさかこんなになるなんて思いませんでした。本当ごめんなさい。」
「「……だめだ、なんだか話せば話すほど言い訳がましくなっちゃうよ。」」
流石に歌舞伎町界隈の妖を纏め上げているヤクザの親分というだけあって、間近で対面すると、その威厳とか貫禄になんだか気圧されてしまう。
「琥太郎といったか。酌威が結構強かったから、ちょっと力を入れすぎちゃったと…、ワハハハハハハッ。うちの酌威をしてこの扱いか。なんとも愉快な人間がおったもんじゃの。のお酌威。」
「親分、面目ありません。」
「せっかくじゃから琥太郎、儂とも軽く手合わせしてもらえんかのぉ。」
「えぇっ?!」
子供の頃から妖に囲まれて育った琥太郎は、妖が人間に比べて、戦闘や腕力での上下関係に興味を示しやすいというのを以前から感じていた。しかしここへきて、まさかヤクザの親分にまで手合わせを望まれるとは思わなかった。
「あの、天井がこんな事になっちゃってますし、ここで親分とまで手合わせなんてしちゃうのってまずくないですか。」
「うむ、そうじゃのぉ。これ以上天井に穴を開けられてしまったのでは困ってしまうがのぉ。というか、このまま穴が開いた状態を放置しておくのはさすがにまずいのう。」
あらためて曖然親分と一緒に天井の穴を見上げていると、ふたたび穴から何かが落ちてきた。
ストンッ
今度落ちてきたのはなんと美澪で、琥太郎の横に着地した。
「美澪?! なんで美澪がここに来てるの?」
「琥太郎大丈夫? 琥太郎の帰りが遅いから会社の方に探しに行ってたんだよ。そしたら遠くで爆発が起きて強い妖気が流れてきたんだけど、その妖気と一緒に琥太郎の「気」が混ざってたからびっくりして見に来た。」
「あっ、ごめん。いろいろあって、ちょっと模擬戦してただけだから俺は大丈夫なんだけど、ここが大丈夫じゃないっていうか…」
「模擬戦? 琥太郎だけずるい!」
そういって美澪は近くにいた酌威と曖然親分を見た。
「んっ、強い…」
曖然親分と酌威の纏う妖気からその強さを感じ取った美澪は身構えた。
「ちょっと美澪待って、悪い人達じゃないと思うから。それに、そもそも俺、ここには封印の結界のお詫びに来たんだからさ。」
「随分と威勢のいい嬢ちゃんじゃのう。」
「曖然親分、彼女は俺の幼馴染で同居人の美澪です。美澪が勝手におじゃましちゃってすみません。」
「う~む、しかし早速外部から訪問者が入ってきてしまうようでは、こりゃあ早々に天井の方をなんとかせにゃならんのう。残念じゃが模擬戦はまたの機会じゃの。」
「私も模擬戦したい!」
「わははははは。おう、嬢ちゃんもそこそこやるようじゃしのう。うちの若いもんのいい刺激になるじゃろ。どうも最近はちょっと腑抜けとるように感じる事が多いからのう。のう、どうじゃムギ、ミック。」
曖然親分はそう言って、下まで降りてきていたムギとミック達に声をかけた。
「へっ、へい。だけど琥太郎兄さんの幼馴染って、兄さんほどじゃないにしても明らかに強そうっすね…」
どうやら美澪は花園組の皆さんと模擬戦をさせてもらえるようだ。ムギとミックはちょっと困惑しているようだが。そして琥太郎も…
「「……俺は模擬戦とかそういうの望んでないんだけどなぁ…」」
「エニシや、ぬりかべの屏次(へいじ)を至急呼んで、天井の補修をさせといてくれるか。」
「かしこまりました。」
「補修が終わり次第、儂が結界を張りなおして強化しなおしじゃの。模擬戦はそれからじゃ。しかし、これまでの結界で酌威と琥太郎の模擬戦に耐えられなかったとなると、更に強化するのはちと難儀じゃのう。」
エニシは曖然親分に軽く頭を下げると、早速階段を昇って出て行った。
その後琥太郎達も、今日のところはいったんお開きという事で、あらためて曖然親分と酌威に軽く挨拶をして事務所を出た。
琥太郎と、突然現れた美澪と一緒に事務所を出たカミリさんが、事務所を振り返ったり美澪と琥太郎を交互に見たりして、完全に挙動不審になっている。
「ちょっ、ちょっとぉ、琥太郎君!」
「あっ、カミリさん、突然こんな事に巻き込んじゃってすみませんでした。それと、さっきも曖然親分に話しましたけど、彼女は幼馴染の美澪です。って、そんな事よりも、カミリさん!最初に路上でアカとアオに攻撃された時のカミリさんの術、あれ何ですか!」
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