26_親分

「「……凄いな…」」


琥太郎も初めて目にする程の濃密な妖気の塊を前に身構えた。妖気の塊なので、もちろんこの状態で琥太郎がそれをなんとかしようと思えばどうにでもなるだろう。しかし、その酌威の攻撃を受けてみたいという好奇心が勝ってしまう。

酌威は腰のあたりに引いていた両拳をそれぞれ胸の前とへその前持っていき、拳を開き掌を前に向けると、両手を水平に戻しながら双手突きで突き出した。


ドゴォーーーー


その瞬間に超圧縮された2m以上ある妖気の塊が、激しく横回転しながら琥太郎に向かって打ち出された。


「「……うわっ、回転まで加えるって、破壊力とか貫通力がやばそうなんだけど…」」


とはいえ、いかに濃密で巨大で回転まで加わっていようと、「気」を自由に扱える琥太郎にとって、それが脅威になる事など無い。琥太郎は飛んできた酌威の巨大な妖気の塊を、片手でひょいっ頭上へと弾いた。


ドッガーーーーン!!!


爆音とともに大量の土砂と瓦礫が地下訓練場に落ちてきた。土煙が収まるのを待って上を見上げると、天井には直径3mほどの穴が開いて空が見えてしまっている。酌威の妖気が天井を突き破ってしまったようだ。


「えぇっ、やべっ!」


琥太郎が酌威の方を見ると、酌威は片膝をついた状態で同じく天井を見上げていた。琥太郎の攻撃でダメージを負った体には、今の妖気の攻撃は、かなり無理があったようだ。


「ちょっ、酌威さん、大丈夫ですか?」

「だっ、大丈夫じゃねえよ!」

「気休めかもしれないですけど…」


そう言うと琥太郎は、地下訓練場内に散ってまだ残っている酌威の「気」を集める。それを少しづつ酌威の体に戻していった。妖は自身の妖気が減ると弱り、全て無くなると死んでしまう。逆に自身の妖気で体が満たされていると怪我の治癒や疲労回復が早まる事を、琥太郎は幼い頃の経験で知っていた。


「おっ、なんだ、お前がやってくれてんのか? っていうか、大丈夫じゃねえのは俺じゃねえ。その天井に開いちまった穴の方だ! 俺はこの程度、ちょっと休めば問題ねえよ!」

「すみません、だけどこの穴、やっぱりまずいですよね…」

「俺もついムキになっちまったけどよ、なんでおめえはあれを片手で弾けんだよ。」

「上に弾いたのがまずかったですよね。受け止めて散らしちゃうか、燃やしちゃうべきだったな…」

「いや、そういう事じゃなくってよ…、っていうかおめえは本当何者なんだよ。」


そう言いながら酌威は、まだ少し辛そうにしながらも、膝に手をついて立ち上がり、足についた土を払っていた。


「兄貴! 今のは何事っすか?!」


見上げると事務所で別れたムギとミックが、訓練場に降りる階段へ様子を見に降りてきていた。更にその後ろからはエニシとカミリさんまでもが恐る恐るといった感じでついてきている。


「なんでもねぇよ!! とは、この状況じゃ言えねえか…」


酌威がそう言って、顔をしかめながら天井を再び見上げた。

琥太郎も一緒になってあらためて天井に開いた穴を見上げる。すると天井に開いた穴から突然何かが落ちてきた。


ストンッ


穴から落ちてきたのは背の低いおじいさんだった。

おじいさんは何事もないかのように立ったまま、琥太郎と酌威の斜め前に着地していた。


「おっ、親分!」

「何事じゃこれは。事務所の近くまで帰ってきたら突然道路が爆発して驚いたわ。先程のは酌威、お主の妖気じゃったようだが何をしておった。」


酌威の鬼化はいつのまにか解けていた。それでも身長は190cm位ゆうにある。対しておじいさんの身長は150cmほどだ。そのおじいさんの前で、酌威が小さくなっている。おじいさんは左手に白いビニール袋を片手に下げていた。中にはみたらし団子の包みが見えている。


「以前から時々表のとおりで見かけていた、嫌な結界を纏った人間の小僧をムギとミックが事務所に連れてきたんす。なんだか今まで迷惑かけてたみたいだから詫びを入れにって。それで、話の流れで力試しって事で地下に連れてきたんっすけど、こんなんなっちまいました。すみません。」

「酌威、お主、そのボロボロの様子だと、この人間の若者に負けたのか。」

「いや、あの…、まだ負けたつもりはないんすけど…、まあ確かにあっしじゃ歯が立ちませんでした。」


酌威は自分の負けを受け入れる事にまだ葛藤しているようだ。

親分は、口元から血を流し、服も体もボロボロになっている様子の酌威をもう一度一瞥した後、琥太郎の方を向いて口を開いた。


「人間の若者よ、自己紹介が遅くなってしまい悪かったな。儂はこの花園組の組長の曖然(あいぜん)じゃ。これはまた、随分とうちの連中が世話になってしまったようじゃな。」


「「……えっ、世話になったって、もしかして俺が花園組に喧嘩しにきてるみたいに思われてる?? それと、この頭の形ってぬらりひょん?! やっぱりヤクザの親分って本当にぬらりひょんなんだ。」」


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