24_訓練場

琥太郎は床に膝をついて苦しそうにしているムギとミックの周りの「気」もコントロールして、酌威の強烈な妖気が彼らに直接触れないようにしてやった。琥太郎がフォローしたおかげで、まだ肩で息をしてはいるものの壁に手をつきながらなんとか彼らも立ち上がっていた。


「人間のくせに、これだけの妖気を浴びても問題ないか。」


酌威はそう言って妖気を発するのを止めた。


「ちょっと酌威さん、俺を試すのは構わないけど、これじゃあムギとミックがもろに巻き込まれててかわいそうじゃないですか。せめてこいつら逃がしてやるか、俺を試すのであればどこか他の場所にしてくださいよ。」


自業自得とはいえ、つい先ほど琥太郎にコテンパンにやられた上にこれでは、ムギとミックにとって今日が厄日であるのは間違いなさそうだ。


「おい、ムギ、ミック。お前ら人間の兄ちゃんでも平気にしてるのに情けねえなぁ。しまいには人間の兄ちゃんに助けられちまってるじゃねえか。もうちっと鍛えてやんなきゃなんねえな。」

「兄貴、すんません。だけど兄貴、琥太郎兄さんは特別っすよ。」

「そうっすよ兄貴、並の妖じゃ琥太郎兄さんには全く敵わないっすよ。」

「なんだおめえら、そこの兄ちゃんにずいぶんと入れ込んじまってるじゃねえか。まさかこの兄ちゃんの方が俺より強いとでも思ってんじゃねえだろうな。」

「いやっ、さすがに酌威兄貴に敵うとは思いませんけど、そこいらの妖よりは確実に強いっすよ。」


ムギとミックは酌威にギロリと睨まれて竦んでいる。


「おう坊主、琥太郎っつったか。お望みどおり場所を変えて試してやるからついてこい。」


酌威はそう言って立ち上がると、琥太郎についてくるよう促す。


「「……いや別に、試される事を望んでるわけじゃないんだけどなぁ…。この流れって、たぶん模擬戦だよね。」」


琥太郎は、あまり気乗りはしないものの、仕方ないかとあきらめて酌威についていく事にした。


「カミリさん、さすがになんだか危ないかもしれないから、ここに残っててもらっていいですか。」

「えぇっ、ちょっと琥太郎君、私一人で待つの?!」

「ムギ、ミック、悪いけどカミリさんの事頼むよ。問題ないでしょ?」

「へい、承知したっす。カミリさん、一緒に留守番してましょう。カミリさんはコーヒーでいいっすか。砂糖とミルクも入れます?」

「えっ、えぇっ?! え~っと、それじゃあ、コーヒーいただきます。お砂糖とミルクもいただいていいですか… なんだかすみません。」

「エニシさんも、カミリさんに手を出したりしないでくださいね。」


琥太郎はエニシに向かってそう言うと、先ほどよりも軽い殺気を一瞬エニシにぶつけた。


「ひえっ!」


ふたたび琥太郎に殺気をぶつけられたエニシは一歩後ずさりして、琥太郎を凝視したまま震えている。


「おいっ、琥太郎、あんまり虐めんな。エニシ、もしも他の連中が来たら、そこの姉ちゃんには手を出すなって言っとけ。」


酌威にそう言われたエニシは、琥太郎からは視線を外さずに、震えながら小さく数度うなずいていた。


 酌威に連れられて部屋を出た琥太郎達は、部屋の前の廊下を一番奥まで進んで、「非常口」と書かれた扉の前で止まった。ビルの外にある非常階段に出る扉のようだ。

酌威はその扉の取手に手をかけると、そのまま取手に妖気を流し込んだ。すると「非常口」の文字が消えて扉の雰囲気が先程と変わった。妖の妖気が込められたせいか、ちょっと邪悪な感じのおどろおどろしい雰囲気が漂っている。

そこで酌威が取手をひねり扉を開けると、外の非常階段には出ずに、そこは下へ向かう内階段になっていた。


「下に訓練場があんだよ。まあ、どちらかと言うと、他の組のスパイなんかをまとめて拷問にかけたりすんのに使う事の方が多いけどな。」


内階段の通路自体も妖気を纏っており、何かしらの強化がなされているようだった。琥太郎には、妖気を込めて変化する扉や、妖気で強化されている通路など、どれもが興味深く映る。


「「……あの扉の仕掛け、俺も同じようなの作れないかなぁ。あんな感じの扉を使って、秘密基地とか秘密の隠れ家的なのが作れたらかっこいいんだけど…。じっくり観察してみたいけど、さすがにそれは難しいか。んっ、だけど、これが終わったら酌威さんに聞いてみようかな…」」


酌威に続いて内階段をビル5階分位はくだっただろうか。そこには鉄製に見える大きくて頑丈そうな扉が閉まっていた。酌威が扉の真ん中にあるハンドルを回して扉を開けると、テニスコートが10面は取れそうな位の大きな空間が広がっていた。高さは5階建てビル程で、琥太郎達が入ってきた扉は、その空間の一番上についていた。そこから下の地面までさらに壁沿いに階段がつながっている。


「ここなら何も気にせずに暴れて大丈夫だからな。ここはちょっとやそっとじゃ壊れねえぞ。」


酌威はそう言うと、更に壁つたいの階段を下に下っていった。もちろん琥太郎もそれについて降りる。

訓練場の下まで降りると、地面は土がむき出しになっていた。周りの壁と天井はコンクリートになっていた。しかし、この壁と天井は妖気の結界のようなもので強化されているようだ。

訓練場の中程まで進むと、琥太郎と15m程離れたところに立った酌威が琥太郎に言った。


「さてと、始めるとするか。」

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