23_エニシと酌威

「ムギ達から、ここは花園組というところで、人間でいうところのヤクザみたいなもんだと聞いてます。」

「ヤクザだと聞いて事務所に乗り込んでくるとは、度胸だけはあるみてえだな。それともただのバカなのか。」

「なんか俺に張られてた結界の影響で、妖の皆さんには嫌な思いをさせちゃってたんですよね。それでこの界隈でかなり目をつけられてるって聞いたんです。さっきムギ達にも突然攻撃されちゃったりしたんですけど、今後もそういった事になると困るんで、素直に謝りに来てみました。」

「はぁ、なんだムギ、ミック、おめえらこの坊主に勝手に喧嘩売ったのか。しかもその様子だと負けて帰ってきたってわけか?」

「へい。俺達とアカとアオの4人だったんすけど、この琥太郎兄さん強くて、俺達じゃ全く歯が立たねえっす。兄貴、面目ねえっす。だけどこの琥太郎兄さん、話してみると悪い人間じゃねえっすよ。」

「兄貴達にも謝っときたいとか言ってたんで、連れてきちゃいました。ムギが言うとおり、いい人そうっすよ。」


なんだかムギとミックがフォローしてくれてる。さっきは痛い目に合わせちゃったにも関わらず、こいつらこそ良いやつのようだ。


「まあ、そこに座れ。」


琥太郎達は酌威に促され、酌威とエニシの向かいの椅子に座った。するとエニシが、品定めをするかのような視線を向けながら話しかけてきた。


「お詫びって…、琥太郎って言ったかい?確かに今日は以前と雰囲気が変わっちまってるようだね。」

「子供の頃に、人ならざるものが見える俺の能力を心配した両親が神主さんに頼んで、俺は神主さんから能力を封印されてたんです。それで、その封印が結構強力で、俺のまわりに魔除けの結界が張られたような状態になってました。そのせいで妖の皆さんが近づくと不快な影響が出てたみたいです。その封印がつい最近解けたんで、今後はこれまでのような事はないはずです。」

「ふ~ん、その封印が解けて魔除けの結界が無くなったって事は、あたいらも今までのお礼が出来るようになったってことね?」


バシュッ!


突然エニシの腕が伸び、エニシの手刀がまっすぐに琥太郎の首へと飛んできた。その手刀は琥太郎の喉仏の前で琥太郎の「気」に弾かれ、軌道を変えて後ろの壁に当たり止まった。琥太郎が座っている場所は、本来ならエニシの手は全く届かない位置だ。エニシは椅子に腰かけたまま、2メートル程に伸ばした腕を元に戻した。琥太郎の隣に座っているカミリさんが驚いて琥太郎とエニシを交互に見ている。


「あら、なかなかやるようだね。ムギ達がやられちまったってのも納得だね。」

「今の、俺を殺そうとまではしてなかったっぽいですけど、話し合いでお詫びして終わりってわけにいきませんか。」

「ふんっ、殺そうとまではしてなかったって、ずいぶんと呑気な事を言ってくれるじゃない。」

「エニシさんの手は邪気を纏ってましたけど、相手を殺そうとしているような強い殺気はありませんでしたから。」

「そういうのも判るってのかい。あたいは別にあんた達をこの場で殺しちゃっても構わないんだけどね。」


エニシがそう言ってカミリさんの方をチラっと見た。


「あっ、彼女は今日たまたま一緒に帰っていて巻き込んじゃっただけで、これまでの事と関係ないですからね。それと、俺に何かしてくるのは仕方ない部分もあると思ってますけど、俺の友人や知人に危害を加えるようであれば俺も容赦しませんよ。」


琥太郎はそう言うと、エニシに向けて全身から殺気を放出した。その殺気を更に圧縮しながらゆっくりとエニシに当てる。


「ひゃっ!」


圧縮された濃厚な殺気がエニシに触れたとたん、エニシは小さな悲鳴のような声を上げた。先程まで嘲るような笑みを浮かべていたエニシだが、今は恐怖に大きく目を見開き、体を硬直させたまま青ざめた顔でワナワナと震えている。


「坊主、何をしやがった。」

「エニシさんがカミリさんに敵意を向けたんで、ちょっとだけ殺気を当てさせてもらいました。それだけで他には何もしてないですよ。」


ゴォッーーー


琥太郎の言葉を聞いた酌威の体から強烈な妖気が噴き出した。

琥太郎の体は琥太郎がコントロールしている「気」で纏われているので、酌威の妖気が琥太郎に直接触れる事はない。さらに琥太郎は「気」をコントロールして酌威の放つ妖気がカミリさんに直接触れるのも防いだ。

しかし、琥太郎達の斜め後ろに立っていたムギとミックは、酌威の強烈な妖気に当てられて床に膝をついてしまっていた。妖とはいえ、弱い妖では酌威の放つ強烈な妖気に耐えられないようだ。

酌威の隣に座っているエニシは、少し顔をしかめてはいるものの問題なく耐えている。ムギやミックよりは強い妖のようだ。しかし、先ほどの琥太郎の殺気からは立ち直れていないようで、今も琥太郎を怯えるような目つきで見ている。

琥太郎の隣に座っているカミリさんは目の前で起きている事を把握しきれていないようで、驚いた表情でキョロキョロしている。


「ムギ、ミック、大丈夫か?」

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