22_睨めっこ
雑居ビル風の入口のドアを入り、ムギとミックの後について正面の階段を上っていくと、2階の部屋の前には一つ目小僧がいた。
「おうムギ、お前早く集金終わらせちまわねえと、会計を閉められないってエニシ姐さんが怒ってたぞ。って、おい、その後ろに連れてるのって例の兄ちゃんじゃねえのか。バカお前、なんでこんなところに連れてきてんだ。その兄ちゃんが傍に来ると目の奥が痛くてしょうがねんだよ! って、あれ?今日はなんともねえな…」
「今日偶然見かけたらよ、なんだかいつもの結界が無くなってたんだよ。それで、まあいろいろあってよ、この琥太郎兄さんが今までのお詫びをしたいって言うから案内してきたんだ。兄貴と親分はいる?」
「兄貴は中にいるよ。親分はちょっと前に出ちまったけどすぐ戻ってくると思うぞ。散歩がてら団子屋に行ってくるって言ってたからな。」
「そうか。じゃあ琥太郎兄さん、兄さん達はちょっとここで待っててもらえますか。親分は留守みてえですが、若頭の酌威(しゃっくい)兄貴がいるみてえなんで、俺は兄貴に話を通してきますわ。」
ムギとミックはそういうと部屋の中へと入っていった。最初の戦闘でバテバテになっていたアカとアオはビルに入ってすぐにどこか他の部屋に行ってしまった。今は目の前にいる一つ目小僧と琥太郎とカミリさんの3人だけになった。
目の前にいる一つ目小僧は、じぃっと琥太郎を見ている。琥太郎もその一つ目小僧の目をじぃっと見返してみる。すると、一つ目小僧の目から妖気が琥太郎に向けて発せられはじめた。普通の人間が一つ目小僧と目が合った状態でこの妖気を浴びれば、それだけで気を失ってしまうかもしれない。しかし、もちろん琥太郎にそんなものは効かない。琥太郎は一つ目小僧の目をじぃっと見返したまま、一つ目小僧と同じ程度の「気」を自身の目に込めて、逆に一つ目小僧に返してみた。
「んっ?!」
一つ目小僧は驚いたように一つだけの目を見開いたが、すぐに目に込める妖気を強めて更に琥太郎を睨んできた。琥太郎はそれに合わせて、また一つ目小僧と同じ程度の強度の「気」を自身の目に込めて一つ目小僧を見返す。
「うぐっ」
一つ目小僧は歯を食いしばるような表情をして更に目に妖気を込めてきた。既に一つ目小僧の目は充血してきている。もちろん琥太郎はそれにも併せて自身の目にこめる「気」を更に強める。
「うぐぐっ」
両足を開いて床に踏ん張り、両こぶしを握り締めながら歯を食いしばって琥太郎に妖気をぶつけてきた。すると一つ目小僧のその大きな目のからは、うっすらと血の混じった赤い涙がこぼれはじめた。
「うわっ、ごめん、ちょっとやり過ぎた! なんかついつい睨めっこにつきあっちゃったんだけど…。ねっ、ねえ、血が出てきちゃってるけど大丈夫?」
「こっ、こんなの問題ねえ。おめえもなかなかやるじゃねえか。まあ、今日のところは勝負はおあずけだな。」
「おっ、おう。おあずけか…。」
目から血が出てきちゃってたのは本人曰く大丈夫らしい。まあ本人が大丈夫と言ってるんだから大丈夫なんだろう。勝負がおあずけって事は、今日は勝負がつかなかったって事になってるらしい。一つ目小僧はポケットから目薬を出すと大きなその目玉に目薬を大量に振りかけていた。なんだか凄い光景だ。
そうこうしているうちに、再びドアが開きムギが出てきた。
「琥太郎兄さん、どうぞこちらへ。」
ムギに連れられて部屋に入ると、応接セットのようなテーブルの向かいに2匹の妖が座っていた。テーブルの上には書類の束と電卓が置いてある。妖といえども、組織になると人と同様に事務仕事があるようだ。ミックは彼らの向かいのソファの横に立っていた。
「こんにちは。突然お邪魔しちゃってすみません。俺は琥太郎っていいます。なんだか今まで皆さんに迷惑かけちゃってたみたいなんで、一応お詫びの挨拶にきました。」
「おや、人間で私らのこの姿が見えるなんて珍しいねぇ。隣のお姉さんも見えてるようだね。」
「はい。私も見えてます。私はカミリです。」
「なんだい、驚いたね。あたいは飛縁魔のエニシだよ。それとこちらが若頭の酌威(しゃっくい)さんね。」
エニシと名乗った妖は一見すると人間風の女性の姿だった。サイドにスリットが入った短めの黒のタイトスカート。白いワイシャツの胸元は大胆に開いている。そこに覗く大きな双丘の狭間には、くっきりと縦真一文字に結ばれた深い境界線が閉じられたワイシャツのボタンの奥へと続いていた。双丘にかかるゆるふわロングの黒髪が艶めかしさをさらに際立たせている。黒のタイトスカートに白ワイシャツといういで立ちではあっても、とても普通の事務員には見えない。
若頭だといって紹介された酌威には2本のツノがあった。先程ミックが酒呑童子だと言っていたので、一応鬼ということになるのかもしれないが、アカとアオとは比べようもない次元の違う威圧感がある。その酌威が蔑むような冷たい目で琥太郎達を見ながら口を開いた。
「こら坊主、お前らここがどういった場所かわかって来てんのか?」
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