20_ヤクザ

琥太郎は自分の両隣に野球ボール程の大きさの人魂を出した。人魂は青い炎がゆらゆらと燃えている。琥太郎は先ほどから琥太郎に向かって怒鳴っている犬の妖の顔の前に2つの人魂を移動させた。


「どうして俺に向かって攻撃してきたかが知りたくてさっきから聞いてるんだけど、いい加減質問に答えてくれないかなぁ。」


青かった炎は一瞬赤くなると、更に黄色から青白く変わった。先程まではゆらゆらと揺れていた炎の勢いも明らかに増して、今はボッーという音を立てて炎を噴出している。そしてその人魂は猛烈な熱を放っていた。


「熱っちっー! 熱いっ!うわぁっー、やめろっ、やめろって、やめてくれっ、やめて、やめてください!」


琥太郎はいったん人魂を最初のゆらゆらとした青い炎に戻す。


「質問に答えてくれる?」

「こっ、答えます! 答えますから、とりあえずここから下ろしてください!」

「もう暴れたり攻撃してきたりしないでね。」


そういうと琥太郎は妖達が纏っている妖気に力を加えるのをやめた。すると妖達は崩れるように地面に降りて、四つん這いの姿勢で手を地面について肩で息をしている。一番下にいた鬼に至っては、うつ伏せの姿勢から仰向けになっただけで、息も絶え絶えに動けずにいた。

琥太郎は先ほどの人魂とは別に、更に6個の人魂を出すと、それぞれの妖の顔の前にその人魂を2個づつ移動させた。


「琥太郎君って人間じゃなかったの…?」


琥太郎の後ろで呆然としたカミリさんがボソっと呟いた。。


「えっ、いやっ、カミリさん、俺は普通の人間ですよ。ちょっといろいろありますけど…、とりあえずそれはあとでゆっくり話しましょう。」

「人魂って幽霊が出すものじゃないの?絶対に普通じゃないと思うんだけど…」

「俺は幽霊なんかじゃありませんよ、まだちゃんと生きてますってば!生きてる普通の人間です!」


今はひとまず、カミリさんさんの事は置いておこう。

しばらくして妖達の息が整ってくると、犬の妖がポツポツと話しだした。


「俺達はこのあたり新宿一帯を仕切ってる、花園組っていう魑魅魍魎の組織で、人間で言うところのヤクザみたいなもんです。その花園組の中で、兄さんはずっと前から目をつけられてる有名人なんすよ。」

「目をつけられてるって、俺何かした? あっ、もしかして…」


続いて鼠の妖も完全に観念して疲れた表情で話し始めた。


「兄さんが歩いてると、近くにいる妖はみんな頭痛がしたり吐き気がしたりしてたんですわ。兄さん、いつも強力な結界を纏って歩いてましたよね。それでむかついて攻撃したりした事もあったんですけど、その攻撃も兄さんの結界に阻まれて効かないし。それでたまに兄さんが歌舞伎町を歩いて通るのを見かけると、みんな遠くから忌々しく見てたんっす。今日兄さんが歩いてるのを見かけたら、いつもの嫌な結界の気配が無かったんすよね。それで、今なら兄さんに仕返しを出来るかもと思って後ろから仕掛けてみたらこのザマですわ。」

「やっぱりそれか…。なんだか今まで迷惑をかけちゃってたみたいでごめん。俺、さっきお前らにいろいろやっちゃったけどさあ、子供の頃にうちの親が俺のこういう能力の事を心配しちゃってさ、除霊とか退魔とか出来る神主さんに頼んで俺の能力を結界で封印しちゃったんだよね。その封印の結界が強力だったみたいで、近くに寄ってきた妖にはそういう症状が出ちゃってたんだ。そんな影響が出てたのは俺も最近知ったんだけどね。だけど先週、その結界がようやく壊れたから、今はもう俺が近くに来ても大丈夫でしょ。」

「はい、兄さんがこんなに近くにいても今はなんともないっす。だけど兄さんの能力って、俺達が見えるだけじゃなくて、なんだかいろいろ凄いっすね。」

「琥太郎君、だから今日プールで会った時、なんだかいつもと雰囲気が違ってたんだ・・・」


カミリさんはまだ妖達を警戒して琥太郎の後ろから出てこないが、いろいろと気になっている様子だ。


「とにかく、今まで迷惑をかけちゃってたのは申し訳なかったけど、別に悪気があったわけでもないからさ、もう攻撃してきたりしないでくれないかな。これももう消すからさ。」


琥太郎は妖達の前で燃やしていた人魂を全て消した。


「ところで今の話だと、その花園組ってところの人達から俺は睨まれてるんでしょ。って事は、これからもここにいる4匹、あっごめん、4人って言うべきなのかな? まあいいや、ここにいる4人以外の妖からは狙われる可能性があるって事だよね。」

「一応俺達から報告はしときますけど、そうっすね、血の気の多いやつが多いっすからね…」

「う~んそうだなぁ。ねえ、今から花園組の事務所に案内してもらえないかなぁ。一応これまでのお詫びをするのと、今後攻撃してこないようにお願いしに行きたいんだけど。」

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