16_ダディ
琥太郎が大男の体を覆う霊気を操作した。テーブルについて踏ん張っている大男の手には、テーブルと逆向きの頭の方へと力を加える。同時に上半身は尾てい骨側へ、重心を後ろ側にずらすように下向きに押さえつけた。こうして大男を強引に元の位置に座らせた。
更に琥太郎も掘り炬燵から立ち上がると、美澪の纏う妖気を操作して、個室の角に立って構えていた美澪を一気に引き寄せる。そして小柄なその肩にそっと手をまわした。
「美澪、大丈夫だから落ち着いて。ねっ。」
美澪の肩をポンッ、ポンッと優しく叩きながら、安心させるかのように語りかけた。
その時、強引に座らせた大男の全身から更に強力な霊気が噴出した。
ドンッ!
大男が琥太郎の「気」の操作に強引に逆らい、無理矢理立ち上がろうとしている。
「えっ? それでも動けるんだ…」
琥太郎は、先程の自身の「気」の操作に大男が抗えるとは思っていなかったので、強引に立ち上がろうとしている大男に驚いた。。このままではテーブルが掘り炬燵ごと壊れてしまいそうだ。そうなれば、いよいよ収集がつかなくなってしまう。
「フンッ!」
琥太郎は更に「気」の操作に力を加えた。
テーブルについたままになっていた大男の手の平をテーブルから引きはがし、少し浮かせた状態にする。足の裏も掘り炬燵の底から浮かせた状態にして、そのまま全身を先程よりも強い「気」の操作で動けないように固定してしまった。
大男はそれでもなんとか立ち上がろうと、琥太郎を物凄い形相で睨みながら全身に力を入れて踏ん張っている。
「あのぉ、突然乱暴な事をしてすみません。美澪の事は俺も謝りますから、式神さんも落ち着いてくれませんか。」
「ダディ、琥太郎先輩はいい人だから、ダディも落ち着いて。美澪もお友達だから大丈夫。」
未だ強力な妖気を身に纏い構えていた美澪が、風音さんの友達発言に一瞬怪訝そうな表情を見せる。その後、琥太郎の顔を見て目が合うと、フッと肩の力を抜いて纏っていた妖気を解いた。
「琥太郎がいれば絶対に大丈夫だもんね。琥太郎の力に歯向かえる奴なんているわけないもん。」
「なんかちょっとプレッシャー感じるけど、信頼してくれててありがとう。」
美澪が纏っていた妖気を解くと、それに合わせるかのように大男も全身から発していた霊気を納め、琥太郎の「気」の操作に抗うのを止めた。
「式神さん、本当に突然すみませんでした。お店の中で争われちゃうとお店が大変な事になっちゃいそうだったんで、ちょっと強引に止めさせてもらっちゃいました。」
琥太郎はあらためて式神の大男に謝りながら、大男を固定した「気」の力を緩めていった。大男は自身の腕を曲げたり伸ばしたりしている。足も少し動かして、全身が再び自由に動くようになったのを確認しているようだ。自由に動けるようになっているのを確認すると、大男が再び琥太郎の方を見た。その目は思いっきり琥太郎を睨んでいる。
「「……うぅっ、やっぱり怒ってる…」」
「ダディ、琥太郎先輩を怒らないで! 琥太郎先輩は騒ぎになりそうだったのを助けてくれたんだよ。琥太郎先輩もどうもありがとうございました。私、咄嗟に何も出来ずにすみませんでした。」
風音さんがそう言うと、なんとか大男はこちらに敵意を向けるのをやめてくれたようだ。
「ねえ風音さん、えーと、さっきから式神さんの事をダディって呼んでるけど、そのダディって、お父さんって意味のあのDaddy?」
「はっ、はい。えーと、そのダディです。」
風音さんが顔を赤くして答える。
「えっ、なんでダディなの?」
「強い式神を顕現させるには式神が強くなるように、「念」を霊力に込める必要があります。この時、自分自身の意識の中に「強い」という概念をより鮮明に描き出せるほどに、顕現する式神が強くなるんです。そのために、通常は自分の思う強い何かをイメージして念を送る事が多いです。そのイメージは実在しているものでもいいですし、想像上の何かでもかまいません。霊力に強くなる念を込められるのであればそうした具体的なものがなくても一応構わないんですけど、実際には自分の中で強い「何か」を思い描いた方が強い念を込めやすいので、そうした具体的な強い何かをイメージして顕現させてる陰陽師が多いんじゃないかと思います。それで、私の中ではその強いイメージの象徴がドウェ〇〇ジョンソンだったんです。」
「ドウェ〇〇ジョンソンってそんなに強いのかなぁ。」
「本物がどれだけ強いかというより、大事なのはイメージですね。プロレスチャンピオンだし、どの映画でも、いつだってめちゃめちゃ強いですよね。それに、本物だってきっと、凄く強いに違いないです!」
「そっか。だけど、それでなんでダディになるの?」
「うぅっ……、えぇ~と……、それは…、私ちっちゃい時から、めちゃめちゃ強くて、めちゃめちゃかっこよくて、しかもいつだってとっても優しいドウェ〇〇ジョンソンみたいな人がお父さんだったらいいなってずっと思ってたんです。いつもベレーさん達を顕現させる時は、あの人をイメージしてました。これまではちっちゃいベレーさん達しか顕現させられなかったけど、いつか本物のドウェ〇〇ジョンソンみたいな式神を顕現させられる事が出来たら外国っぽくダディって呼ぼうって決めてたんです。」
恥ずかしそうに風音さんが答える。そして風音さんは大男の方を向く。
「だから、あなたの名前はダディね。よろしくお願いします。」
そう言うと風音さんはペコリとお辞儀をした。
「ふむ。わかった。問題ない。」
「じゃあ、名前がダディさんだったら、俺らもダディさんって呼ばせてもらっていいですか。」
「問題ない。」
風音さんが琥太郎と親しく話しているのを見て、ダディさんも琥太郎との会話に応じるようになってくれたようだ。
「ところで、風音さんの本当のお父さんもやっぱり筋肉ムキムキなの?」
「いいえ。ガリガリに痩せてて体はすごく細いんですけど、なんだか骨太でゴツゴツした感じです。色白で身長はたしか174cmって言ってたような…。あっ、もちろん本当のお父さんの事も嫌いじゃないですし、好きですよ。」
痩せてて色白でって、やっぱりそっちの方が陰陽師っぽい感じがすると琥太郎は思った。
その後は普通に飲んで食べて、そろそろ帰るという段階で、この後ダディさんをどうするのかというのを風音さんに聞いてみた。
「このままずぅ~っと一緒にいたいです! とにかく一緒にいられる限り、ダディにはこのままずっと顕現していてもらいます。だってだって、今までずっと夢にまで見たダディの式神なんですから。いいよね、ダディ?」
「俺は問題ない。あとは風音の霊力の問題だろう。風音から感じる今の霊力であれば、戦闘などせず顕現しているだけであれば、まだ1~2日は大丈夫だろう。」
「本当は風音さんが自分でダディを自由に顕現させられるようになるのが一番いいんだろうけどね。」
「琥太郎先輩、お願いがあります!」
「何?いきなりかしこまって。」
「ダディを自分で顕現させられるようになるまで、私の特訓に付き合ってください。」
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