12_居酒屋ミーティング

 琥太郎達はお店に到着すると、店員さんに広めの個室に入りたい旨を伝えた。美澪は店員さんの目には見えないので、店員さんから見ると2人客という事になる。しかし2人用の部屋では狭くて美澪が座れない。この日は平日の月曜日という事もありお店が空いていたおかげで、琥太郎達は掘り炬燵になっている6人用の個室に入れてもらう事が出来た。


「それにしても琥太郎先輩にあんな能力があるなんて驚きました。私、小さい頃から陰陽術の練習を続けてきて、恵味企画に就職してからも毎日式神のベレーさん達を召喚して練習を続けてたんです。それなのに琥太郎先輩に初見で術が発動出来ないようにされちゃったの凄くショックなんですよ。」

「琥太郎はめちゃめちゃ凄いんだよ。私は琥太郎よりも強い妖なんて見た事がないもん。」


美澪は琥太郎が褒められると嬉しいようだ。褒められているのは琥太郎なのに、なんだか美澪がドヤ顔をしている。


「まあ、俺の場合は特に何か練習とか訓練をしたっていうのとは違って、物心ついたら自然に出来てたんだよね。だから、あんまり凄いって言われても、なんだかピンとこないというか、いまいち褒められても実感ないなぁ。」

「なんかそれうらやましいです。だけど、ちょっとずるいです。」


確かに、幼い頃からずっと練習を続けている風音さんからすれば、特に努力もせずに風音さんの術を封殺するほどの能力を身に着けた琥太郎をずるいと感じるのも仕方ないだろう。


「ところで、まだ私には琥太郎先輩の能力の事がピンときてないんですけど、琥太郎先輩って具体的にどんな事が出来るんですか。」

「俺の場合は、妖や幽霊、神様などといった人ならざるものが見えるのと…」

「えぇっ、神様?! 琥太郎先輩って神様も見えるっていうか、見たんですか! やっぱり神様って本当にいるんですか?!」

「うん、たぶん見間違いとか勘違いとかじゃなかったと思うんだけど、お地蔵様とか、田んぼの隅っこにあった小さな祠の神様とかは見かけた事があるよ。お釈迦様とかキリスト教の神様とかイスラム教の神様とか、そういう有名な神様は見た事ないけど。妖とか霊が纏っている「気」とはあきらかに違う「気」を纏っていて、うまく説明は出来ないんだけどどことなく神聖な「気」なんだよね。ただ、神様に直接関わったりなんかしたら、きっと面倒臭い事しかなさそうな気がするから、神様の事なんて気づかないふりしてたけど。」

「琥太郎先輩凄い。それと、以前から時々感じてはいたけど、琥太郎先輩ってやっぱりちょっと罰当たりな人ですよね。」

「そうなのかなぁ。だけど神様に対しては、宗教や宗派などを問わず敬意は払ってるつもりだよ…。それより風音さんこそ、陰陽師なのに神様を信じてないの?」

「あっ、私は陰陽師ではないです。陰陽師ではなくて、陰陽師見習いから落ちこぼれた人です。長い間修行はしたけど使い物にならないから、戦力外で破門に近い感じですけど…。とはいえ陰陽道が家業ですから、神道とか仏教の神社仏閣とは何かと縁がありますね。神様については、信じてないわけではないです。だけど、だからといって特別信仰心みたいなのが厚いわけではないです。神様を見たり神様のご加護を感じたりなんて事もないですから。あっ、だけどこんな考えだから一人前の陰陽師になれなかったのかなぁ…」

「ははは、そうなのかなぁ。陰陽師の事はわからないけど、神様って、いちいち一人一人の信仰心とか、その人の神様に対する考え方なんて気にしてないというか把握なんかしてないだろうなって感じがするなぁ。まあ、それは俺の考えなんだけどね。で、神様の事は置いといて俺の能力だけど、妖や霊、神といった人ならざる物が見えるだけじゃなくて、彼らが纏っていたり発生させたりする「気」も見たり感じたり出来るんだ。「気」に関しては妖気、霊気、神気などといった発生主による違いだったり、怒気や覇気、殺気などといった感情からくる違いもあったりするかな。そういうのが見えたり感じ取れたり出来るのと、そうした「気」を集めたり移動したり圧縮したり燃やしたりする事が出来るんだよね。そうすると、それが攻撃とか防御とかに使える感じかな。たとえば人魂ってこんな感じだよね。」


ボワッ


琥太郎の両肩あたりに2つの青白い炎の玉が出現した。それらが琥太郎の脇でフワフワと浮かんだまま静かに燃えている。琥太郎が周囲の「気」を圧縮して燃やしたのだ。


「わあっ、凄い。本物の人魂なんて見た事ないけど、まさにそんなイメージでした。」

「それ、1人で夜の山の中を走ってると浮かんでるのをたまに見かけるよ。なんだかよくわからないからすぐに吹っ飛ばしちゃうけど。」

「なんかそれ、美澪らしくて目に浮かぶよ。」

「何それ、なんかバカにしてる?」


美澪が琥太郎をジト目で見てる。


「ははは、別にバカになんかしてないってば。怪しいものとか気配にはすぐに対処しておかないと、妖の世界って危なそうだしね。」

「もし美澪がよければ、私は美澪が出来る事もいろいろ教えてほしいな。結構たくさんの妖怪を見てきたけど、美澪からはなんだか凄く強そうな雰囲気を感じるんだ。」

「陰陽師に私の能力を教えるのは嫌。だってまだそこまで信用してるわけじゃないし、風音の仲間達から滅せられたりしかねないもん。まあただ、普段の攻撃は妖力を使った炎弾と斬撃だよ。それくらいなら、一緒にいればすぐに見せられる。」

「そっか、そうだよね。落ちこぼれとはいえ私は陰陽師の家の人間だもんね。お父さんとかお兄さんも別に悪い事をしていない妖をむやみに滅する事はないはずだけど、妖の美澪からしたら、そんなにすぐには信用できないよね。」


「じゃあそろそろ風音さんが出来る事も聞いてみたいな。」

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