13_実験

「私に出来るのは今朝会社で使った式神のベレーさん達の使役だけです。あとは、いろいろ練習はしてるんですけど、ほとんど使い物にならないです。」

「あのベレーさん達って凄かったね。めちゃめちゃ統率がとれてて、なんだか本当の軍隊みたいだった。何よりあの人数には本当にびっくりしたよ。陰陽師が同時に使役出来る式神って漫画とかでせいぜい5~6体っていうのを何度か見かけたけど、あんなにたくさん使役出来るものなんだね。」

「使役できる式神の数については、私は特別みたいです。兄が使役出来るのは1体で、お父さんも2体だけです。ただ、私の場合、顕現する式神の数はたくさんなんですけど、とにかくそれぞれの式神が弱いんです。今朝もあんなにあっさり美澪にやられちゃったし。」

「私は何もしてないよ。戦う前に勝手に消えちゃってたもん。その後にちょっとだけ手ではたいちゃった位だよ。」


たしかに、ベレーさん達は美澪に近づいただけで美澪の妖気に耐えられずに消滅してしまっていた。


「だけど、あれは美澪が強すぎるんだよ。私が見てきた他の妖と比べても、なんだかめちゃめちゃ強そうな雰囲気を感じるもん。」


風音さんがちょっと弁明している。妖をたくさん見てきたであろう風音さんから見ても、美澪は強いと感じるらしい。


「うん、私は結構強いんだよ。琥太郎には勝てないけど。」

「琥太郎先輩ってそんなに強いんですか?」

「うん、私は1回も琥太郎に勝ったことがないよ。ベレーさんと私の力量差と同じくらい、琥太郎は私より強いと思う。」

「いやいや美澪、そこまで大きな差はないでしょ。」

「ううっ、なんだか私のベレーさん達が軽くディスられてる気がする… だけど、琥太郎先輩ってそんなに強そうには見えないのに、実は凄い人だったんですね。」

「う~ん、別に俺の場合はそんなに凄いって感じじゃないと思うんだけど…」

「何言ってるの! 私が全くかなわないのに凄くないわけないでしょ!」


勝気で負けず嫌いの美澪だが、琥太郎が強いという事に関しては、どういうわけか美澪も誇りに思っているようだ。


「あ~あ~、美澪がとっても強い妖で、身近な存在の琥太郎先輩までめちゃめちゃ強いなんて、私また劣等感を感じちゃいます。実家にいた時も父や兄と比べて私だけ才能が無くって、いつも劣等感に苛まれていたのに、東京に出てきても同じような気持ちになるなんてショックだなぁ。」

「風音さん、今朝みたいに1度にたくさんのベレーさんを顕現させるんじゃなくて、1人だけを顕現させてもベレーさんって強くならないの?」

「はい。もちろんその練習をしてるんですけど、1人だけ顕現させても、300人位いっぺんに顕現させても、ベレーさんの強さが変わらないんです。原因がわからなくて困ってるんですけど、とにかくもっともっと霊力を高めるしかないのかなぁって思って練習してます。父や兄からは、私の霊力は既に凄く強くて霊力の量も相当多いはずだって言われるんですけど、何故だかベレーさんをこれ以上強く出来ないんですよね。」


風音さんが少し悲しそうに笑う。


「風音さん、今ここでベレーさんを顕現させてもらう事って出来る? 1人だけでいいよ。」

「はい、問題ないですよ。」


そう言うと風音さんは、今も肩からかけているポシェットから今朝も使っていた3cm位の大きさの形代を取り出すと、その形代を目の前のテーブルの上の厚紙製のコースターに置いた。


「ฉันจะร่ายคาถา」


風音さんが祝詞を唱えると、風音さんを中心に霊気がボワッーと一気に部屋中に広がる。その風音さんの霊気に触れた形代は、小さくポンッと音を立てて30cm位の大きさのベレーさんが顕現した。ベレーさんはコースターの上に立ったまま、風音さんの顔をじっと見上げている。

琥太郎はその様子を無言でうなずきながら見ていた。


「風音さん、悪いんだけど今のをもう1回やり直してみてもらえない?」

「えっ、別にいいですよ。ベレーさんごめんね。せっかく出てきてもらったけど、もう1回やり直すからいったん戻ってね。」


そう言うとコースターの上のベレーさんは再びポンッと小さな音を立てて形代に戻った。

風音さんはコースターの上の形代の位置を軽く手で整えて、あらためて祝詞をを唱えた。


「ฉันจะร่ายคาถา」


祝詞を唱えた瞬間、先ほどと同じように風音さんの全身から一気に「気」が噴き出す。しかし今回琥太郎は、この「気」を操作して周囲には拡散させずに、全てテーブルの上の形代に向かわせた。


バンッ!!!


「「「うわぁっ!」」」


するとベレーさんは顕現せずに突然形代が爆発した。形代をのせていたコースターは軽く茶色に焦げてしまっている。


「えっ、何! どうして?!」

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