4_共同生活

「ちょっと、ちょっと! 2人とも喧嘩はしないでって言ってるでしょ! あれっ、ところで流伽さんがもともとここに住んでたのはわかったけど…」

「流伽でいいよ。」

「えっ、あっ、ありがと。じゃあ流伽がここに住んでたのはわかったけど、美澪は今はどこに住んでるの?」

「私は今でも十兵衛(とおべえ)爺ちゃんと一緒に君津に住んでるよ。」

「うわっ、懐かしい! 十兵衛爺ちゃん元気?」

「うん、相変わらず子供達に武道を教えてる。」


 琥太郎が美澪と一緒に遊んでいた頃も、美澪の育ての親である河童の十兵衛爺ちゃんは子供達に武道を教えていた。琥太郎もそこに何度か参加した事があった。「気」の操作が出来る琥太郎には十兵衛爺ちゃんの武道の技術も全く通用はしなかったのだが、まわりの子供達や美澪が参加していたので、琥太郎もそこに混ざって一緒に練習したりしていた。それに、十兵衛爺ちゃんから武道の技術を学ぶのは純粋に楽しく感じられた。


「だけど十兵衛爺ちゃんと一緒に住んでるなら、美澪がここに住むのまずいんじゃないの?」

「大丈夫だよ。今回は琥太郎の様子を見てくるからしばらく帰らないって言ってあるし。それで今回初めて琥太郎についてこっちに来ちゃった。」

「そっ、そうなんだ。だけど本当に一緒に住むなら、きちんと伝えとかなくちゃね。」


「「……あれっ? それだと完全に一緒に住む話の流れになっちゃうのか?? もう、なんか突然いろいろあって疲れたし、面倒くさいからなんでもいいや…」」


 その後、流伽がまだちょっと文句を言っていたが、美澪の勢いに押されて結局3人一緒に生活する事になった。

 流伽はもともと押し入れの中に住んでいたらしく、今後も押し入れの中が良いとの事。昼間、明るい空間に出てくる事も問題ないらしいのだが、それでも暗い場所が落ち着くらしい。生前から昼間でもカーテンを閉めて生活していたと話していた。霊だから暗い空間を好むのか、それがもともと生きていた頃からの体質なのか、そのあたりはよく判らなかった。


「あのぉ~、今後押し入れを開ける時は必ずノックしてね。もちろん覗いたりしたら絶対だめなんだから。」

「のっ、覗かないよ!」


流伽ももう疲れたと言って、そのまま押し入れに入って休んでしまった。


「「……だけど霊とはいっても、あんなにかわいい子が同じ部屋にいるんじゃ、やっぱり落ち着かないというかドキドキするな。」」


「美澪もここに住むとなると、布団を買わなきゃいけないな。うちには来客用のとか置いてないから。ネットで注文しとくか。」

「いいよ別に。琥太郎と一緒に寝るから。」

「いや、それはさすがに駄目だよ。美澪もそろそろお年頃なんだし。っていうか、そもそももう23歳だけど。」

「いやだ。琥太郎と一緒に寝る!」

「駄目だってば。もう見た目はちゃんと女の人だし。」

「女の人の体だから駄目っていうの? だったらこれならいいでしょ。」


パフッ!


15~16歳の女の子の姿だった美澪が、一瞬で小さい虎になった。サイズはちょうど柴犬くらいだ。


「どう、琥太郎。これならいいでしょ。」

「えっ、う~ん、まあこれならいいのかなぁ… だけど相変わらずこの姿、なんかかわいいね。」


 幼い頃にも、美澪は時々虎の姿になる事があった。その当時は今よりもっと小さくてチワワくらいの大きさしかなかった。

 虎の姿とはいえ、サイズが柴犬程度であれば、それは虎模様のちょっと大きめのネコだ。モフモフしていて思わず触りたくなってしまう。たまらずアゴの下をコチョコチョしてみる。


「ゴロゴロ ゴロゴロ」


美澪が気持ちよさそうに喉を鳴らす。


「こりゃ完全にネコだな。」

「ネコじゃなくて水虎だよ。強いんだからね!」


ズドンッ!


美澪が虎の姿のまま、口から妖気の炎弾を琥太郎に向けて撃った。だが、やはりそれは琥太郎には当たる直前で弾かれ、空中で一瞬静止したのちに周囲に散らされて消失した。


「だから、それ危ないってば!」

「琥太郎には絶対に当たらないもん。くやしいけど。」


ある意味凄い信頼感である。そんな信頼はちょっと危なくて怖いけど。


「ところで美澪、そろそろ何か食べに行かない? お腹空いてきたし、冷蔵庫には何も入ってないからさ。近くに何か食べに行こう。」

「行くっ~!」

「流伽にも声をかけてみようか。」


コンッコンッ


「ねえ流伽、俺たち何か食べに行ってくるけど、流伽も一緒に行く?」

「私はいいよ、行かない。外に出るのはあんまり好きじゃないし。」

「そっか、わかった。じゃあ行ってくるね。」


 どうやら流伽は所謂引きこもりのようだ。引きこもりの安息の場である自分の部屋の中に、強力な魔除け結界を纏った琥太郎がこれまで居座っていたのだから、流伽にとってはやはり相当辛い生活だっただろう。


「「……今度流伽にはちゃんとお詫びしとこう。」」

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