最終試合:ライバルと鍋と必殺技(中)
歓声とブーイングの入り混じる中、俺は肩をあげながら、息をしていた。
「おーい、どうしたモト?へばるには早いぜ」
ナカが、コーナーポストの上に座って手招きをしている。
……何で、アイツを捕まえられないのだろうな?
始めに組み合った後、ペースは乱されっぱなしだ。
俺がロープに振って戻ってくると思いきや、急に場外に逃げたり、
コーナーに投げれば、今のようにコーナーポストに立って
そして、俺がキレて突撃すると、ドロップキックで蹴られたり、勢いをつけて投げ飛ばされたりしている。
肩を大きくあげ息をしている俺に対し、ナカは何も無さそうに口笛を吹いている。
くそっ!ヤロウ、余裕だな。
だからといって、攻め方を変えるつもりは無い!
「シャァッ!」
コーナーポストの上に立っている奴に向かい、鋭く飛び上がり張り手を入れる。
食らった、チャンスだ。
奴がふらついた瞬間に腕を持つ。
コーナー上から投げてやる!
「いや、食らわないから」
は!?
後頭部に鈍い痛みが入る。
衝撃で後ろを振り向いた瞬間、奴の両脚が俺の眼の前に見えた。
鈍い音の後、俺は倒れ込み後頭部をリングにぶつけた。
揺らぐリングの中で俺は眼の前が暗くなるのが分かった。
□◆□
『……い、モト』
ん、誰だ?
『起きろ、モト』
……えーっと、どこかで聞いた事あるような。
『てめぇ、オイラの前で居眠りたぁいい度胸だな!』
こ、この声は!?
「師匠!?」
え?何でココにいるんだ!?
海外じゃなかったっけ?
たがよく見えないが、あのハゲ頭は間違いなく師匠だ。
すぐさま起き上がり正座をして頭を下げる。
「し、失礼致しましたー!!」
『ったく、相変わらず不器用なプロレスしてんなァ』
無言で俺はうなづく。師匠は口の端をつり上げて笑った。
『ま、お前らしくていいんだけどな。
ほれ、とりあえず鍋でも食え』
……え、鍋?
『それとも、オイラの鍋が食えねえってのか?』
「いえいえいえいえ!」
『ヒビるなよ、冗談だ。
まぁ、こういうのが最近じゃ何とかハラスメントって言われて嫌われるんだろ?面倒だなあ。
とりあえず、食おうぜ』
師匠の周りには小さな鍋が置かれていた。
陶器の赤、黒、焦げ茶色のものもある。
これは師匠が作ったものだろうか?
中には色んな具が入っていた。
これは美味そうだ。おもわず、手を合わせる。
『いただきます』
□◆□
……美味い。
定番の寄せ鍋だ。魚や肉の旨みが野菜にも染みこんでいる。
お、うどん付きか。こういうのは勢いよくすするに限る。
こっちはカレー鍋か。
中辛くらいが、ちょうどいい。
もつが入っててこれは美味い。ちょっと薬のような匂いのするスパイシーさが食欲をそそる。
チゲ鍋もいいな。
カレーとは違う辛さだけでなく、納豆の混じり具合。後は、肉がピリ辛で美味い。
しかし、年を食ったせいだろうか。今は野菜が美味い。
白菜やえのき、ネギ。後は豆腐が出汁が染みてかみ応えもいいしなぁ。
そして、これにご飯をかきこむ。
あぁ……やっぱ米はいいな。
このベースがあるから具が生きている気がする。
『相変わらずオマエはよく食うなぁ』
「ありがとうございます。食わないとレスラーは体を作れませんからね」
『よく言うぜ。オイラが連れていった高級クラブで酔っ払って姉ちゃんに膝枕してもらって寝てた奴が。オマエ、酒に関してはまるっきりダメだったじゃねぇか』
「そ、それは……」
『あん時、店の姉ちゃんたちが子どもが来たのかしらって言われてたンだぜ。笑えるよなァ』
大笑いする師匠を見て、俺は赤面した。
んな昔の事覚えてるよなぁ、この人は。
『まァ何だ。今、オマエがナカとのやり合いで苦労してるからな。ちっとお節介焼きに来た』
は!?
どこで見てるんだ、この師匠。
師匠は指を一本立てると、
『オマエに教えたアレ。覚えてるよな』
俺は静かにうなづいた。
『アレはオマエのプロレスラーとしての切り札。
……とはいえども、あくまでこの素焼きみたいなモンだ』
師匠は、その指で鍋を軽く弾く。
『プロレスは見せていくらかの世界だ。
客があっと驚くくらいの色をお前が見せてやれ』
□◆□
目が覚めた。
「ワン!」
カウントが聞こえる。
体が重くて、脚しか動かせない。ナカが乗ってるのか?
「ツー!」
まぁ、いいや。
俺は俺の、
「プロレスをやる!!」
体をはね上げると同時に、俺はナカの頭を掴んだ。
「見せてやろうじゃねえか。
カタストロフ本波バージョン3.0のプロレスを!!」
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