最終試合:ライバルと鍋と必殺技(前)

 ライバル。

 一目見た時、気に食わないとか何か気の合うとかそういう奴の事。

 ……と、俺の中だけかもしれないが思っている。


 俺にもいる。

 アレルギーを持ちながらも、病に伏せながらも奴は立ち上がってきた。

 デストロイ仲谷なかたに

 昔は、破壊神コンビとかいわれたがアイツの方が持ち上げられていった。

 ……と、いうより俺が時流に乗れなかったのもあるだろうと思う。

 プロの世界は残酷だ。

 地道にやったからとは言え報われるとは限らないし、

 一度派手に活躍したからといって、いつまでも人気が続くかは分からない。


 とはいえども、結局やったもん勝ちなところはあるし、

 リスクを背負わなければいけないのもある。


 で、だ。


 無人のリングの前で、俺は独りでたたずんでいる。

 古式ゆかしくも、

『挑戦状』

 と、何か送られて近くのイベント会場に来た。

 何度かプロレス興行が行われた場所ではあるが、今日は何も無いはず。

 入ってみると、

「こちらでリングシューズとパンツに着替えてください」

「ガウンをお願い致します」

「入場曲が流れたら、ご入場をお願い致します」

 昔の童話のように指示の紙があり、俺は料理される側かと内心毒づきながら指示に従った。


 後は準備をすまして待つ。

 ……遅いな。俺は待たされるのあんまり好きじゃないのだが。


 すると、スポットライトがリングの上に当たり独りの男が写される。

 あれ?アイツ大手団体のリングアナウンサーじゃねぇか。

 何でと、思ったら声が響く。

『光と影、上がる者、下る者。それでもなお神はこの二人を戦わせたいらしい』

 アナウンサーは一息吸うと、

『これより、ネット配信スペシャルマッチ無制限一本勝負をおこないます!!』

 そう叫ぶと、暗い画面にいくつもの顔が映ってきた。

 ウオオ!何だ、何が起こってる!?

 何か、文章を流れてるが……あ、これ動画配信マッチか!?俺は聞いてないぞ!!

 まぁ、いいや。後でギャラたんまりもらおう!それでチャラだ!!

「青コーナーより、カタストロフ本波入場です!!」

 ギターの音が響くと、激しい曲が流れてくる。

 ……久々だなぁ、フルコーラスで俺の入場曲流れるの。

 上を向き、深呼吸する。

 良くいわれたなぁ。心は熱く、頭は冷たくって。

 さ、出るのを待ちますか。

 少し、時間を取った後、まくを開く。

 さぁ、いくか!


「ウォォォォォ!!」

 ……ん?

 何か、引っ張られてるというか、動きづらいな。

 後ろを見るとガウンのヒモに幕が引っかかっている。

 こ、こんな時にまで!

 ええい、仕方ない!!

 俺は、ガウンを脱ぐと一気に走った。

『いきなりガウン脱ぎ捨てたぞ!』

『やる気だ!!』

 何か勘違いされてるコメント流れてるがいいや。

 リングにあがると、重いロープを強く握り開けると中に入る。

「シャアア!!」

 俺は、リング上で叫ぶと周りを見渡した。

 顔が周りにある。

 ……これ、結構恥ずかしいな。

 観客のお客さんの顔が目の前にあるのは、新鮮とはいえ緊張する。

 どうも違う感じだ。



 青コーナーにゆっくり背をあずけると奴の出番を待つ。

「赤コーナーより、デストロイ仲谷改め」

 お、アイツリングネーム変えたか。

 まぁ、いくらでも変えても中身が変わる事はないだろう。

「タカヤ・ナカタニ入場!!」

 急に静かになった。

 ……アイツの入場曲は確かケルト系曲とかはずだったが変えたのか?

 ん?何か聞き覚えのある声が

「~♪」

 って待て。

 アイツ、のか!?

 えぇぇぇ……カラオケ嫌いだったアイツがなぁ。

 しかも何だこの曲。最近の流行か?ようワカラン。

 おっ、奴が入ってきたな……ってオイ。本当にアイツか?

 頭は何か刈り上げて、伸ばしてる……って、髪の色が左右で違うのか。

 最近見たアニメキャラっぽいな。

 ガウンも何だありゃ?

 着物とスーツのアレンジか?よく動けるなぁ。

 リングの前にして奴は、ロープを持ち

「よっと」

 一声挙げると、一回転してリングの上に立った。

 そのまま、見栄を切るようにリングで立つ。


 □◆□


「よう、モト。元気?」

「いや、それはこっちのセリフ何だがよ……変わったなぁ」

「ま、変わらざるを得なかったってトコかな?」

 ナカは少し寂しそうな声を出した。

「まぁ、それはそれで楽しいがな。レスラーがヒールターンしたり、別勢力作るだろ?アレを自分にやってみたら何か俺にハマってな。今までの積み上げてきたの何だったんだってくらいラクだしうまくいく」

「それはそれで羨ましいがな」

「何言ってんだ。変わるのに色々と自分のを捨てるのも大変だ。

 お前のそういう変わらないトコも大事だぜ。

 ……それはそれでだ。オマエとの対決は社長に無理に作ってもらったからな」

「お、おう。そうか」

「と、いうわけで」

 真っ白な歯をで笑顔を浮かべながら、ナカは俺に指さしてくる。

「やろうぜ。を」

 その台詞を聞いて、俺も歯をむき出しにして笑う。

「やってやろうじゃねぇか。これがってやつをな」

「そうだな。って、モトさ。一つ言って良いか?」

「何だ?」

 ナカは、頭を軽くかくと

「そろそろ、お前も歯の黄ばみとか気にした方がいいぞ」

「大きなお世話だ!」

 思わず、張り手をかます。

 すると、奴はかわす様子で正座をして、一礼した。

 歓声が上がる。

 くそ、今のでお客さんがアイツの味方になっちまった。

 ええい、仕方ない!

 やるか!

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