第六試合:凶器攻撃と酒

 プロレスとは、時に性別を越えて戦う時もある。

 確かに軽量級と重量級、性別の違いはあるが、リングの上では、レスラーとして平等である……と俺の中では思っている。

 アメリカでも女性レスラー戦った事があるが、彼女らの蹴りや軽さを活かした飛び技は美しさを感じた。

 とはいえ、試合中間違って胸を触ってしまい、その女性レスラーに蹴られまくった際は命の危険を感じた。

 オマケにその彼女は、当時タッグを組んでいた怪奇レスラーと婚約しており、そのレスラーからもうらみを買い、俺はリングの外でも付け狙われる事となった。

 まさかそれを団体にネタにされ手錠をかけられた上で牢獄からの脱出デスマッチをする事になるとは思わなかった。正直暗闇の中で投げ合いをしてもどこに何があるか分からず、試合としてあまりにも不甲斐ない終わり方をした。

 数年後二人は結婚したが……残念な終わり方をした。

 だが、その後の二人の距離を離しながらの付き合い方を見ると男女の付き合い方というのは、人それぞれなのかもしれない。


 □◆□


 さて、今日も別のリングにお呼ばれしてきたわけだが……

「よ、よろしくお願いします!!」

 深々と礼をしながら、彼女は手を差し出す。

 今日の対戦相手の彼女に俺は戸惑った。

 ……細くね?

 プロレスをする事にとやかくは言わないがリングにあがるなら、もうちょっと筋肉をつけるとか、脂肪をつけるとかコンディションを

 ……って、いかん。

 説教臭くなってきた、やめよう!

 こういうのが、老害ろうがいと言われそうだしな。

 とりあえず、口に出すのはやめとこう。

 まぁ、リングに上がった以上は容赦はせんがな。

 さ、今日はどんな試合だ?


『今回は、男女ハンデ戦のためお客さまによるアンケート結果による技攻撃となります!』


 おい、聴いてないぞ!!

 ここの団体はいつも面白い仕掛けをしてくるとはいっていたがなぁ。

 仕方ない、プロレスラーのプライドってものがある受けてたってやろうじゃないか!!


『それでは、先攻女子』

 ……何で言い方が昔っぽいのだろうか?まぁ、それはいいが何になるのだろうか?


『決まりました、それではマイク攻撃お願い致します!!』

 おっ、マイクか。

 あおりもまたプロレスのウチだ。どんなのが来るのだろうか?


 女性レスラーが、マイクを息を吹きかけ出るのを確認する。

『本波さんは、Vtuberガチ恋勢と聴きました』

 またそれか!?

 いいかげんその噂も、うんざりしたぞ。

 もう、そろそろ消えてくれないかなぁ……。


『何で私を推してくれないんですか!!』

 は?

『私も配信してるの、ヨソのところばっかり行って……この浮気者ー!!』

 ……知らん。

 俺は別にオマエのものでも無いし、最近知ったが動画配信者ってのはリアルもバーチャルも山ほどいるからどこの誰だか分からんぞ!?

 確かに登録とか書いてたから、数合わせぐらいにゃと思って登録しまくってたが、キリがないから俺がキレて消しまくって、また分からなくなったしなぁ……。

 え、チャンネル登録ってやつをすりゃいいのか?


『カタストロフ本波に、6のダメージ』


 ってオイ!!

 俺はダメージを受けていないぞ!?

 ふと、周りを見るとバックビジョンに俺と相手の女子レスラーの絵が描かれており、ゲージがあった。

 俺は確かに、昔ゲームキャラにもなったが……またもやゲームキャラになるとは思わなかった。

 これ、どうすりゃいいんだ?


『後攻、男子ー』

 だから、何で昔っぽい?

 え?ゲームキャラだから命令コマンドを待てばいいのか?

 スマートフォンでも出てくれりゃ、チャンネル登録して丸く収まるがなぁ。


『スマートフォン……』

 を、さっそくだ。これで登録すりゃ、この子に大ダメージがいくだろう。


『で、SNS口論攻撃!!』

 ……そっちか。

 人生うまくいかないモンだな。くそ!

 まぁ、いい。暇つぶしに作ったSNSアカウントを何年ぶりにか動かすか。ゲーム制作者の呟きが面白いから作っただけなんだかな。

 えーと、何を書くかな。

 ……あ、いいのが浮かんだ。

『試合中に謎のあおられ中、なう』

 会場が静まりかえる。

「語尾が古いぞ!」

 ヤジが飛んで来るが、手を振って大きくあおる。

 何言ってんだ、いいものは古くても使っていいものだろうに。

 古い新しいで良さを決めるモンでもねぇよなぁ……。

 まぁ、最近の奴らは慣れているそうだからダメージはあまりないと思うが。


 って、アレ?

 何か場内がざわついてないか?


『本波のアカウントが動いた……だと!』

『生きていたのか!』

『なりすましじゃなかったのか!』


 オイオイオイ、何か騒ぎが大きくなってないか?

『煽られ中とは、奴らしい』

『女子プロレスラーにやられてんの?ダサ!!』

『何を言っている!アイツは色々あったんだよ!!』


 何か、俺悪い事したかな?

『相手の女子レスラーあの子だったのかよ!』

『え?身バレしていいのか?』

『確か、百合営業とメンヘラとか言ってたのは……』

 おい、何か連鎖反応を起こしてないか?

 オマケにトレンドに乗ってるが、

 あ!指が滑った。

 ……何だ、俺の周りだけか。

 今日はサッカー大会があるからな。

 にしても、何か変なのがいるが……何だコレ?

 サッカーに関係ないイラストじゃねぇか。

 面倒くせえなぁ、文句つけてやろう。

『おい、そこ。ちゃんと応援しろよ』

「インプレゾンビを相手にするなー!」

 あ、やべ。俺も試合中だった。

 にしても、ってゾンビの新種か?

 ゾンビ映画最近見てないからなぁ……。

「あ、あうあ………」

 ん?あ、何か女子レスラーが目が回ってるぞ。

 大丈夫か、オイ?

 思わず手を差し出そうとすると、

「来ないでぇ!」

 急に蹴りが飛んできた。

 ……痛てぇ。

 不意をつかれ俺は倒れたが、この程度なんてことはない。

 ……って、懐から紐を出してきやがった、何をする気だ!?

「ヴォァァァァ!!」

 ウオオ!

 ガチで首を締めるな!ガチで!!

 息ができないどころか、首の骨が痛い!

 ……あ、意識が落ちて、ゆ……く。


 その中、ゴングの音が聞こえるのだけは分かった。


 □◆□


 結局、試合は無効試合となった。

 相手の女子レスラーは身バレしたのが、まさかここまでSNSで回るとは思わず、パニックに陥ったらしい。

 彼女がVtuberをやってることは、公然の秘密とはいえ騒ぎになりすぎたのは問題となり、今後動画配信は自粛後、団体の管理下のもと、リアルとバーチャルの両方を行うそうだ。

 俺にはあんまり関わりないとはいえ、試合は釈然としない終わり方だった。

 こういう時は久々に、アルコールを飲もうか。

 酒は絶っていたが、たまにはいいだろう。


『いただきます』


 ……うん、美味い。

 たまにならいいかもしれない。

 安酒だが、何かを忘れされてくれるようだ。

 体を熱くさせるのと、果物のような味が何かを忘れされてくれる。


 しかし、酔いが早いな。

 アルコールの強さ……ってのもあるかもしれないが俺の体が受け付けなくなってきているのかもしれない。

 だめだ、もう寝よう。


 □◆□


 夜中、携帯の電話が鳴った。

 眠いから勘弁してくれと思いながら見ると国際電話だ。

 前に詐欺が流行ってると聞いたので警戒してたが、よく見るとアメリカのヤツからだった。

『おい、何だ?日本は夜だぞ』

『モト、助けてくれ!カミさんに追いかけられてる!』

『あれ、お前ら離婚したんじゃなかったっけ?』

『復縁したんだ!だが、いつもの癖で女の子がいたのでちょっと声をかけたら……その』

 俺はため息をついた。

『知らん、お前らで話し合ってくれ。日本から無事を祈ってる』

『そんな!あ!待て、待ってくれー!!』

 電話越しに何かが蹴破られる音がして、電話は切れた。


 付き合いきれん。

 しかし、あまり女に縁の無い俺に相談されても、困るんだがな。


 今日は遅くなっちまった。

 さっさと寝ないと明日にさわる。

 寝よう。

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