第11話 ―僕と予兆と防衛と―

 11 ―僕と予兆と防衛と―



 その後を語ろう。

結局、朝方まで付き合わされた僕と西澤は、早朝に地元公園に降ろされ、「あばよ!親友!!」なんて言いながら去りゆく柏原一同を見送って各々帰宅することにした。

 今日は勘弁してくれ…、ということで、本日は弁当を作らず、登校の時間まで束の間の仮眠をとった後、起きてきた両親の心配を躱し、ジト目の妹に何か嫌な予感を覚えながら、家を出たわけだ。


 夜中に喧嘩して、朝方まで暴走族と一緒にドライブしてたので、今日は学校休みます!なんて、普通に言えるわけもないので、眠たいまなこを擦りながら、登校したのだが、色々とあったせいか、昨日、西澤がとんでもない爆弾を学校に放りなげたことを忘れていたために、朝のアニ騒ぎ中、眠そうな僕を見たモッチが余計な騒ぎをぶり返してきた。


「な~んか眠たそうにしてるじゃん?岩谷。さっき西澤さんを見たけど、彼女も眠そうだったね~。夜に待ち合わせ…。おい、何があったんだい?」

 途端、南さんからどす黒いオーラがあふれ出した。

まずい…。誤魔化さないと…。

「いや、ね。西澤がアニメを見たいと言ってきてね。レンタルビデオ店をね。巡っていたんだよ。ちょっと興が乗ってね。だから、何もないよ。」

 演技下手だな。僕。けどこれで納得してくれ、モッチ。あと南さん…、頼む…っ!

 心で祈るが、そうは問屋が卸さないというのだろうか、何故か怒髪天の南さんの追及が始まる。

「いや、岩谷くんが一緒じゃなくてもいいよね?」

「…アニメ初心者には解説がいる…からさ…?」

「いや、電話でいいよね?というか夕方でいいよね?」

「…。西澤も気合入ってたしさ」

「いやいや、男女が夜中にウロウロするのは良くないよね?」

 これは非常にまずい。南さん信じる気0だ。まぁ嘘ついてるから当然なんだけど…。

「…と、ところで、南さん!アニメ研修なんだけど、南さんともう一回行きたいから付き合ってくれないかな!?」

 奥義、話題逸らし。僕が女の子に不義理をしたなんて姉ちゃん先生が知ったら土にめり込むほどのゲンコツをされそうだけど、今は許してください…。

「………」

 沈黙の南さん。だが、ここでモッチのフォローが僕を救った。

「まぁいいじゃん春子。どうせ岩谷には何もできやしないから、西澤さんとは本当に何もなかったんだよ。だから、デートしてきなよ」

 どういう意味だ。僕だってやる時はやるんだぞ!…やる時はね。

「………。放課後アニメ館の後、夜ご飯も一緒なら許す」

 と、南さんはご沙汰をおっしゃった。

ところで僕は一体何の罪を背負ったのだろうか?まぁ、ここで余計なことを言うとこじれるのは自明の理である。なので素直に受け取りま――


「あら?あれだけ激しい夜だったのにずいぶんお元気ね、岩谷くん。私はあなたに抱き着きすぎてまだ腕が疲れているというのに」


 本当に余計な奴が余計な時に現れやがった。

「っ!!ど、どういうこと!?」

 人見知り設定をぶん投げて西澤に詰め寄る南さん。

「言葉通りよ――「ちょっと来い!!」

 非常にまずいことを言われそうになったので、急遽西澤を拉致して脱兎の如くその場から逃げた。

愛の逃避行だ!スクープ!だのと騒ぐモッチと、遅いながらも追いかけてくる南さんを背に、憂鬱を馳せる。ああ、後が怖い…。



で、現在校舎裏。予鈴が鳴り、授業が始まってしまったがもういい。

それよりも、重要なことがある。

それはこの西澤の口の軽さだ。

確かに決定打を放っているわけではないが、匂わせが酷すぎるのだ。

毎回毎回ハラハラするのは面倒なので、ここら辺で釘を刺しておくことにする。


「いい加減にしろよ。バレたらどうするつもりなんだ?」

「ちょっとした冗談じゃない。すぐにムキになる男は嫌いよ、直しなさい」

「飄々としやがって…。ならその質の悪い冗談は控えろよな。まったく…」

「あら、心にもないことを。私にかまってもらえて嬉しいくせに」

「なに?いつ僕が嬉しいって言った?」

「学年一の美少女にかまってもらえるのは嬉しいはずじゃない。男子っていつもそう思ってるんでしょ?ならあなたも思ってるはずだわ」

 自惚れが過ぎる…!こいつダメだ。早く何とかしないと…。しかし、一理あると思えるのが男子の悲しい性なのかねぇ…。

「…まぁ、悪い気はしないのは確かだ。だがな、取引を無碍にするなら約束は撤回させてもらうぞ」

「それは駄目よ。…けど、わかったわ。もうあんまりからかったりはしないわよ」

 “あんまり”ねぇ?信用ならんが、信じてはやるか。

「頼むぞ?本当に…」

「ええ。…あ、そうそう。あなたに面白い話があるのよ」

 西澤の面白い話。この時点で何も面白くなさそうなのがわかる。

「なんだよ」

「盛岡さんの話よ。あなたがからかっていた」

「からかった…。まぁ、そうとも取れなくはないが、そう言わないでくれ」

「ふふふ。でね、あの人たちどうやらあなたと私に復讐を考えているそうよ」

「…は?なんで?というか、なんでお前が知っているんだ?」

「私、お前って言われるの嫌いなの。すぐに直しなさい」

「話の腰を折るな。……なんで西澤が知ってるんだ?」

「あの時の電話、あなた覚えてる?」

 あの時の電話。思い返してみると、西澤の電話を機に騒ぎが終幕したのを思い出す。

「あれか。そう言えば電話の相手って誰だったんだ?」

「大石よ」

 悪夢の初日、西澤の敗者漁りと不良の上下関係、他諸々が繋がった気がする。

「なるほどな。何か納得したよ。それで、僕らへの報復がどう繋がるんだ?」

「森岡さんたち、あの後大石のグループに無理やり加入させられたらしくてね。辛い目に合ってるのは私たちのせいだと言ってるって、大石から連絡があったのよ。復讐を考えているのは盛岡たちだけで、俺たちは関係ないからってね」

「…え?大石と連絡取り合ってるの?」

「ええ。あの時こっそり賭けしてたもの。勝った方に下るってね。色々と便利なのよ、あの男」

 本当の悪人はこいつかもしれない。良かった、姉ちゃん先生がいなくて。

無責任の僕と、悪人のこいつで、諸共ぶっ飛ばされるところだった。

「あのなぁ…。しかし、まずいことになったな。僕はさておき、西澤はどうするんだ?」

「あら?あなたが守るのよ。当然じゃない」

 サラッと言いやがる。

「…それはまぁわかってる。だが、四六時中は無理だろう」

「だから、さっさとやっつけてくれないかしら?どうせ大した喧嘩になりはしないのだから彼女たちに興味はないわ」

 何て言い草だ。どちらにも失礼過ぎる。

 だけど、確かに放置するにはいささか問題が大きいのも事実だよなぁ…。

「襲撃時刻とかはわかるのか?」

「まだわからないわ。だけど、大石いわく、襲撃メンバーを募っているらしいからもう近々襲ってくるでしょうね」

「なんとまぁ…。まぁ気を付けるとしようか…」

「そこで、私考えたんだけどね…」

 何か嫌な予感。


「今日からしばらく私たち一緒に行動するわよ。登下校は家まで同行しなさい」

 …。もうね、本当に絶句。とここで一時限目終了の鐘が鳴った。

「あら、授業を放棄しての楽しい時間とはあっという間ね」

「皮肉を言うな。…ちなみに、今日は南さんと遊ぶ予定があるんだが?」

「私も行くわ。安心なさい、ちゃんと立ち回るから」

「…不安だ」

「情けないことを言う男は嫌いよ、直しなさい。…とりあえずそういうことよ。放課後、クラスに行くから待ってなさいよ」

 と言いながら、ひらひらと去っていく西澤。

 一抹の不安を覚えつつ、僕もその背を追って教室へ向かった。


 わけなのだが、南さんへどう説明しようか…。ああ、胃が痛い。

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F.F.F〈フィーズ〉 藤﨑 涼 @ishikabo

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