鐘の音かき消す友の声
神を
私の目の前に
俺とコイツとのファーストコンタクトは、B級映画よろしくのテンプレートに
「転移者…………ですか?」
青年の声は
「そういうあんたは?」
転移者は問う。
「わ、私は………。お願いします、私を助けてください!!」
話の通じない奴だと思ったが、あちこち砕けた鎧からコイツが
「お願いします!お願いします!私に力を、力を貸してください!」
「わかった。わかったから。まずはお前の名を言え、名乗りも無しじゃ会話にならないだろ?」
青年の瞳があまりにも悲しそうに見えたので、つい
頼みごとを断れないのは悪い癖なんだと自分でも思う。
「は、はい。えっと、私の名はダミナ。王国騎士団所属の元騎士です」
元、というのが少し引っかかるが、向こうが名乗ったのだこちらも名乗らなくては。
「そうか。俺の名前は翔也だ。お前の言う通り転移者ってのになるんだと思う。」
「や、やっぱりそうなんですね。あの、改めてなんですが………私を助けてほしいんです」
こうも素直に頼まれてはとても断りづらい。
「助けるのはいいが、状況がよくわからねぇ。何があったんだ?」
青年、ダイナは自身の今置かれている状況について一つ一つ語りだした。
その言葉一つ一つが妙に重く、俺はこの異世界がアニメや漫画のフィクションではなく、
ダイナ曰く、自分は魔族から
始めはスパイとして魔族の為に力を
人間からの
だが、運命は
彼と恋仲になっていて女性が魔族との繋がりを
期日は明日の夕暮れ。
仲間の魔族に助けを求めるべく集会場であるこの
魔族、ダミナのカミングアウトはかなり
目の前の人間そっくりな青年が魔物であるという事実が上手く
「今話したのが私の全てです。お願いします!もう頼れる人がいないのです!彼女を助けるのを手伝ってください!!」
目の前の魔族はその響きからは想像できない程、
「…………わかった。手伝うよ」
翔也から出た言葉は、泣きわめく赤子を
「いいんですか?私、魔族なんですよ?人間の敵なんですよ?」
まるで信じられないものをみるような目でダミナはこちらを見つめる。その瞳が黒から深紅に変わっているに気づき、本当に人間でなはいことを知った。
「面倒くさいぞ、お前。手伝ってほしいんだろ?ならここは『ありがとう』だろ」
「は、はい!有難うございます!この恩は決して忘れません!」
感情表現がずいぶんと豊かな魔族だと思った。
「なら、こっから本題だな。その女の人をどうやって助ける?何か策はあるのか?」
「正直、トラップを仕掛ける時間も、
「国相手に正面突破かよ」
「えぇ。今はそれしか」
「ハハハ……よくそんな計画力でスパイが出来たな」
「返す言葉もありません」
「わかった。それしか方法がないならそれでいこう」
「すいません……………助かります。」
こうして人間と魔族は夜の暗闇に
人間と魔族の戦いの歴史は、神話の時代から続いているらしく、隣の
失敗作でありながらも、人間よりは
「人間にとって魔族は自分達の領土を荒らす侵略者でしかないんですよ」
ダミナは背中の剣を
「でもお前の恋人は人間を裏切ったわけではないんだろ」
「そうなんです。それに彼女は私が魔族だってことも知らないはずなんですよ」
「じゃあ、なんで
「魔女審問は『疑わしきは殺せ』をモットーに掲げるような狂信者たちがやってるものですから。いままで審問に掛けられて無実を証明できた人を私は知りません」
「酷い話だ」
「私もそう思ういます。さて、そろそろ王都ですね。本当に覚悟はいいんですか?」
「それはこっちのセリフだ。さっさと助けるぞ。
王都への道すがら、改めて様々な作戦を考えたが現実的なものは何一つなく。結局、処刑台に上がったところを正面から救出するということになった。
ダミナはスパイ任務を任されるだけのこともあり、腕にも自信を見せていたが、俺は特に
戦闘では役に立てなさそうだとダミナに話すと、一時的に自分と契約を結ぶことで魔族の力を貸すことを提案してきた。
悪魔の上位に
「魔族になれば
魔族との契約なんて怪しさしか感じなかったが、それをしなければ足を引っ張るだけになることも目に見えていたので、俺はダミナと魔族の契約を行った。
「これで、ショウヤさんは今日1日、丸々24時間魔族の力が使えるようになったはずです。なので、ショウヤさんはこの力を使って王都で
「わかった。騒ぎの方は俺に任せろ。教科書に
「期待してます」
この会話を最後にして俺とダミナは王都で別れた。
2人と国との
魔族の力はとても使いやすいモノだった。念じるだけで体のどこからでも火・風・水を発生させることができ、その勢いや規模も思うがまま。
手始めに翔也は国の騎士達が寝泊まりをする
俺は俺に
「やぁやぁ愚かなる人間よ!」
風の魔法を使い声を
全ての視線を
「俺は魔族の従順にして忠実な
まとわりつく視線を
ダミナは騎士を引き付ければいいと良いと言っていたが、騎士だけではダメだ。
民衆に混乱を与えることはそれだけで行政機関へのダメージとなり人員を
別にダミナのために全人類を敵に回す必要など俺にはないのだろう。
ダミナの願いを
だが、今俺はここに立っている。
友情とは何も時間が全てではない。
ダミナの話を聞いて俺は心が動いた。ここに誰かの意見や一般論なんていらない。俺が動きたいと。尽くしたいと思ったことが全てだ。
だから俺はお前の力になるよ。
全人類を敵に回してお前の味方になるよ。
だから早く助けに行け
「さぁ。 行くぞ!!」
疾風のごとく王都を駆け抜けた悪魔付きの
鐘の音。それと友の声が聞こえる。
私は彼に
この世界に来て1日も経っていないような、右も左もわからないのに、それでも私の為に命を
私は
あぁ、処刑台に足をかける彼女が見える。彼女は私のことをまだ愛してくれるだろうか。
わからない。彼女の気持ちも。友への
わからない。わからないから。今はとにかく動く事に決めた。答えがわからないから。問題の裏に書かれた『答え』を覗き見るのとは違うけど、動けば答えが見えるようになるんじゃないかと思った。
「いま
処刑場に集まった人をかき分けながら、真の姿を
「グゥウォオヲォオオウオォオゥウウゥ!!!!!!」
背中から生えた
「怖がらせてごめんね。迎えに来たよ」
手首を
良かった。こんな姿でも私だと伝わった。
彼女の
騎士団の放つ矢が牙を立てて肉を
しかし、
「待てよ化け物」
空中でこちらに
風の魔術により空に足場を作ったソイツは
「遅いな、俺から逃げ出した時はもっと早かっただろ?そんな人間を
騎士団長の
切り
段々と高度が下がっていき一般兵の弓の勢いも増してくる。
ここまでなのかもしれない。
悔しい。
せめて、せめて彼女だけは逃がしたい。
「つまらん。血の高ぶりも、死への恐怖も、この戦いからは何も感じない。」
騎士団長が剣を
「これで終わりにしよう」
「魔族よ。地獄へ帰れ」
―騎士がなに諦めてるんだよ―
目を開けると、まだ出会って1日も経たない友の背中がある。
「悪い。待たせたな、追手がしつこくてよ」
軽い手間だとでも言いたげな顔を彼はするが、その姿は実に痛々しくこれまでどんな戦いをしてきたのかを物語っていた。
「俺さ、一度言ってみたかったセリフがあるんだ」
彼はこちらを振り向かずに声をかける。
『ここは俺に任せて先に行け』
彼はそう言うと私に向かって風の魔法を放ち後ろへ突き飛ばした。
「ダミナ!もう言葉はいらないぞ。」
彼はそう叫ぶと
彼があの後どうなったのかを私は知らない。
彼女を安全な場所まで
私と彼女はその後、魔族の領土でひっそりとした暮らしをした。
幸福にも
転移者は
だからもしも。私がこの世を去った後に彼がここを訪れても、彼に全てが伝わるよう、私の息子にはあの時の話を良く聞かせようと思う。
〈追記:〉
五十嵐翔也(22)
また、同じ路地裏で確認された大剣を所持した
1話完結の異世界転移物語 栗眼鏡 @hiro2022
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます