第20話「魔王の真実」

「勇者って、聖人並に心が綺麗な人間が選ばれるものじゃないんですか……?」


 漫画やアニメなら、人々のために身を投げうってでも戦うような人間が、選ばれているイメージがある。


「勇者というのは、民がそう呼ぶようになった称号みたいなものですから、私どもが名付けたわけではありません」

「つまり、あくまでソードマスターとして選んでいる以上、聖人のような奴じゃなくてよかった、と……? その狙いはなんなんですか?」


 そう尋ねながら、俺の中ではある仮説が浮かぶ。

 しかしそれは、女神様から教えてもらうまではあくまで仮説だ。


「魔王は不滅の存在です。その意味がわかりますか?」


 女神様は俺の考えを裏付けするようなことを言いながら、試すような目でこちらを見つめてくる。

 おそらく、俺の考えはあっているだろう。


「自分にとどめを刺した相手に乗り移る、ですか?」


 俺は自分が考えた仮説を女神様に伝えてみる。

 すると彼女は、ゆっくりと――そして深く、首を縦に振った。


「道理で、剣哉の様子が変なわけですよ……」


 額に手を当て、俺は天を見上げる。

 とんでもないことに巻き込まれたものだ。

 これでは、終わりがない戦いじゃないか。


「乗り移ると言いましても、浸食はジワジワと行われていくので、一気に乗っ取られるわけではありません」


 つまり、今剣哉をおかしいと思うくらいで済んでいたのは、まだ魔王による影響が少ししかないから、ということか。


「もしかしてご褒美というのは、魔王を殺したものに対して、魔王の力を封じこめる際のカモフラージュですか?」

「ふふ、勘がいい御方は、お好きですよ?」


 思ったことを尋ねると、遠回しに肯定されてしまった。

 とても素敵な笑顔だが、こんなことで誤魔化されたりはしない。


「魔王が乗り移ったとわかっているのに、『魅了』なんて能力を渡すなど、他に理由は考えらえませんからね」


 特に理由もなく能力を渡していたら、俺はこの女神様を信じられなくなるところだった。


「生贄のために、性格がクソな奴。しかも、ただクソだと無茶苦茶をするから、周りの目を気にする奴を選んでいるというのはわかりました。それで、魔王が剣哉の体を乗っ取るのはいつなんですか?」


 この世界のために戦うつもりは一切ないが、女神様に頼まれれば、恩があるのでやれることはやろうと思う。

 この女神さまのおかげで、巡りに巡って白羽と再会できたのだしな。


 だけど、今までの歴史から考えて、俺が魔王となった剣哉と戦うことは多分ない。

 その確認だ。


「とどめを刺してから浸食は始まっていますので、結構影響は受けていますが――私が封印をかけた以上、浸食が完了するのは百年後くらいでしょうね。それから元の力を取り戻すのに、更に二百年はかかるでしょう」

「いや、それ剣哉死んでません?」


 人の体など、もって百年ちょいだ。

 剣哉が二十歳ということを考えても、魔王が乗っ取るまで体がもつとは思えない。


「生憎、魔王が乗り移った時点から、体はジワジワと魔族のものへと変化してしまいます」


 見た目的には変化がなかったが、内部で変わっているのだろう。

 まったく、さっさとくたばってくれればいいものを……。


 てか、ちょっとまずくないか?

 俺下手するとあいつに、呪術みたいなのをかけてしまってるよな……?


「もし、剣哉が呪術で殺された場合、どうなるんです?」

「それは、呪術をかけた者が魔王に取りつかれてしまいますね」

「おぉ……」


 よし、金輪際、あの馬鹿と関わらないようにしよう!

 幸い、俺は『ワープホール』ですぐ移動できるんだし。


「ありがとうございました、知りたいことは知れたので、俺はもう戻ります」

「…………」

「ん? どうしました?」

「いえ、なんでもありませんが……」


 何やら女神様が俺の手元を物言いたげに見てきたので、何かあると思って声をかけたのだが、ちょっと不満そうに目を逸らされてしまった。

 なんだったのだろうか?

 手元――あっ。


「す、すみません、俺がいた世界は夜だったんで、買いに行けなかったんですよ。次は、ちゃんとお菓子を持ってくるんで」

「べ、別に、誰も期待なんてしてませんから……!」


 頬を赤く染め、慌てたように取り繕う女神様。

 絶対期待していたな。


 今度こそお土産を持ってこようと思いながら、俺は白羽の部屋に帰るのだった。

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勇者パーティーでお荷物扱いされる俺、魔王を討伐したので異世界転移の力をもらって好きに生きることにしました~勇者に仕返した後異世界配信者になったらバズった件~ ネコクロ【書籍6シリーズ発売中!!】 @Nekokuro2424

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