第19話「転移者が選ばれる基準」

「よかった……」

「~~~~~っ!」


 白羽が嫌じゃないと言うので、もう一度ギュッと抱きしめると、白羽は言葉にならない声をあげた。

 小学生の高学年くらいからは手すら繋いでいなかったし、刺激が強いのだろう。

 やっぱり、放したほうがいいだろうか?


 そう思って白羽の顔を覗き込むと――。


「うきゅぅ……」


 グルグルと、目を回していた。


「白羽!? 大丈夫か!?」

「だ、だいじょばない…………」


 一応意識はあるようだが、頭に血が上ってしまっているようだ。

 学生時代は男子からの誘いを断り続けていたし、あまりそういうのに慣れていないんだろう。


 俺はどうしようか、悩むが――。


「まぁ、無理はさせられないよな……」


 このまま、寝かせておくことにした。

 これからは一緒なのだし、何も焦る必要はないだろう。

 それよりも、ここ二年ほど満足に寝られていないようだし、今日はゆっくりと眠ってもらいたい。


 そう思った俺は、半分意識を手放している白羽を放し、寝息が聞こえてくるのを静かにジッと待った。

 そして、彼女がスヤスヤと寝息を立て始めたのを確認すると、ソッとワープホールを使って離脱をする。


 目的は――天界だ。


「――女神様」

「もぎゅっ!? ~~~~~っ!」


 大広間に行った後、女神様がいなかったので彼女の部屋に飛ぶと、彼女が驚いて餅を喉に詰まらせてしまった。

 パタパタと苦しそうに両手両足を振っている。


「だ、大丈夫ですか!?」


 俺は慌てて駆け寄り、背中を勢いよく叩く。

 それによって、女神様が息を吐きだした。


「ぷはっ――し、死ぬかと思いました……!」


 女神様でも死ぬんだな、というお約束はさておき。


「か~ず~き~さ~ま~?」


 おかしいな。

 優しい笑顔のはずなのに、俺を見てくる女神様の背後には、メラメラと揺れる炎が見えるぞ……?


「な、なんでしょうか……?」

「わざと、ですよね? 数時間前に注意したばかりですもんね?」


 俺はまるで、処刑台に送られる前かのようなプレッシャーを感じる。

 よほど怒ってらっしゃるようだ。


 だけど、言わせてくれ。

 なんでこの女神様、またおやつを食べてるんだ……?


「決して、わざとではないです……!」

「では、どうしてまた私のお部屋に飛んできたのですか……!」

「お、大広間にいなかったからです……! 連絡手段も知りませんので……!」

「そもそも、女神に気軽に会いにくるのがおかしいのです……!」


 それはごもっともなのだが。

 こう、力があると、何か相談ごとがあったら来たくなるわけで……。

 前に、禁止されなかったし。


 そんなことを言うと怒られるってことはわかっているので、俺はなんとか飲み込む。


「すみません……」

「私が着替えている最中でしたら、本当に地獄に送りますからね……!」


 やはり、神といえど羞恥心はあるようだ。

 この様子だとまじで地獄に送られかねないから、気を付けておこう。

 とはいえ――。


「何か、女神様と連絡を取る手段ってないんですかね? そうしたら俺も、わざわざ女神様の部屋に行かなくて済みますし」

「…………」


 思っていたことを尋ねると、凄いジト目を向けられてしまった。

 女神にこんな目を向けられる人間って、俺くらいなんじゃないか……?


「もちろん、気軽に連絡を取ろうというわけじゃないんで……! ただ、心配ごとがあったりすれば、相談したいですし……!」

「前にもお伝えしましたが、私は女神という立場では、下界のことに関与できませんよ?」


 まただ。

 どうして、わざわざ『女神という立場』と前置きをするのだろう?


 もしかして――いや、今は余計なことを言わないほうがいいか。


 もし、俺が考えていることが正しいとしても、本人が認めるわけがない。

 いや、仮に認めたところで、どうなんだっという話だ。

 女神様にその意思がなければ、結局現状と変わらない。


「関与は難しくても、情報を持っておられる可能性が高いので……」

「たとえば、何をお知りになりたいのでしょうか? 今もそのためにこられたのでしょう?」


 どうやら、話していて女神様の怒りは少し収まったようだ。

 こういう器が大きいところは、やはり女神様か。


「俺の考えすぎならいいんですが……剣哉に何か起きていますか?」


 俺はあえて大きくは絞らずに、尋ねてみる。

 こちらが下手に限定的にしてしまうと、話がずれる可能性があるからだ。


「何か、とは? 和輝様にやられるばかりで、怒り狂っていますね? 今は怒りに任せて、火山のモンスターを倒しまくっています」


 しかし、女神様は俺の知りたい答えを言ってくれなかった。

 素で答えているのか、わざとはぐらかしているのかはわからない。


「元々あいつは、俺以外に本性をうまく隠していました。それこそ、実の妹である美奈にさえ。そんな奴が、あんなにも大勢の前でわかりやすく本性を現すとは、考えづらいんです」

「魔王を倒し、もう自分の力だけで全てを支配できるからでは?」

「それも考えられますが……だとしても、これは悪手と思いませんか? うまく仲間を増やしていけばいいものを、今本性を現してしまえば、多くの国を敵に回します」


 そう、いくら勇者とはいえ、それぞれの国との関わりは浅いのだ。

 なぜなら、俺たちは拠点を転々としていたからだ。

 貸しがある国々も多いし、魔王を倒した功績は凄いが、だからといってあんな乱暴で無茶苦茶な性格を見せてしまえば、誰も付いてこない。

 それこそ、ルークのように。


 ここ最近の剣哉は馬鹿だと思うが、昔はあんなに馬鹿ではなかったと思う。

 むしろ、悪知恵を働かす天才だった。

 今は、感情の制御ができていないとしか思えない。


「…………」


 女神様は黙り込み、ジッと俺の顔を見つめてくる。

 この沈黙は、いったいなんだろうか?


「和輝様は、おかしいと思ったことはありませんか?」

「何が、ですか?」


 剣哉の様子なら、既におかしいと思っている。

 だけど、それなら女神様がわざわざ聞いてくる必要がない。

 今俺は、いったい何を聞かれたんだ?


「実を言いますと、数百年に一度、私どもはこうして勇者となる者たちを転移させているのです」


 それは――意外というほどでもない。

 俺たちがこうして異世界にいて、実際に魔王がいたくらいだ。

 同じことが過去にあってもおかしくないだろう。

 それこそ、『歴史は繰り返される』という言葉があるくらだし。


 何より、過去に魔王がいたり、それを勇者が倒したという言い伝えは、旅をしていて何回か聞いたことがある。


「転生者は、性格や特徴で決めているのです。ウィザードは、思慮深く落ち着きのある大人の女性」


 んっ……?

 月夜ってそうだったか……?

 確かに落ち着いた性格をしているとは思うが、思慮深いかは疑問だ。

 それなら、なんで剣哉にいいようにされているんだ――と思うが、凄いイケメンだからか。

 元いた世界でも、イケメンって何しても大抵のことなら許される風潮があったしな。


「次に、テイマーは無邪気で純粋な少女」


 まぁ、これは納得か。

 純粋すぎて、剣哉にいいように扱われていたが。

 悪に染められていたのも、剣哉の言うことをそのまま信じていたからだろう。

 おかげで、すっかりクソガキ化している。


「そして、シールドマスターは、自分よりも他者を優先し、大切な人のために命を投げ出せる優しい青年」


 それは……まぁ、うん。

 自分より他者を優先するかどうかはともかく、俺は白羽を守って死んだ。

 そこで、判断されたんだろう。

 そういった事故ってそうは起こらないしな。


「最後に――」


 女神様は、一旦そこで言葉を止めてしまう。

 深呼吸をし、普段まとっている優しい雰囲気ではなく、思わず気を引き締めてしまうような、怖さすら感じる真剣な雰囲気になった。


「ソードマスターは、自分勝手で他者を傷つけることもいとわない、しかし周りの目は気にしてうまく立ち回る、心が汚れた頭のいい青年を選出しています」





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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)


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