第40話 恋バナと秘密
SIDE マドンナ
空ちゃんと二人で来た控室。
ちょうど聞きたいこともあったからよかった、まぁ葵君は絶望的な顔してたけど。
男の人一人であの空間は辛いよねぇ、分かるわかる。
たまーに下着を見に行くと、カップルで一緒に来店する人を見かけるけど、男性の方の人は気恥ずかしそうにしてたものね。
葵君、少し空ちゃんとお話したら行くから待っててね、あ、あといい下着も見つけたら、行くから待ってて。あとでお詫びとして谷間チラ見せしてあげるかもだから。
今は平日の昼間ということもあってか、誰もフィッティングルームにはいないから割と会話とかも出来る。
さっき店員さんにもゆっくり選んでくださいねーても言われたしね。
「ね、下着どんなかんじー?」
「いい感じかもでーす」
いい感じかぁ…………そう言われると見たいわね。
「今試着しているのはさっきのエッチな奴?」
「いや大人系のやつですね」
ああ、蒼いやつかな?
空ちゃんは普通に淡い系のものも似合いそうだけどなー。
あとでこそっと持っててみよう。
というか。
「みてもいい?」
「どうやってです?」
どうやってかぁ、まぁ方法はいろいろあるんだよね。
「上からのぞくとか?」
「思ったよりアクティブですね!ルパンですか!」
「私の事パンツ脱ぐ変態だと思ってるってことかな?」
「今の言動だけで判断するとそうなりますね!」
なかなか辛辣じゃない、空ちゃんも。
この辺幼馴染なだけあって反応が似てる。
「後は写真で送るとか?」
「誰が自撮りして送るんですか!?たとえ恋人にお願いされたとしても、自撮りした下着写真なんて送りませんよ!ネットリテラシー!」
うんうんお姉さんは空ちゃんのネットリテラシーが高くて安心したよ。
近頃の若者は低くて…………
「うんうん、好きな人でも送っちゃダメだからね?」
「なんで諭されてるんですか私、というか送らないですって」
そんな他愛ない会話をしながらも下着を変えていく。
あ、このワインレッドの下着可愛いかも。
隣では空ちゃんが試着している衣擦れの音も聞こえる。
なんというかエッチいなぁ、見たいなぁ。
…………うーんよし決めた今度空ちゃんとお風呂入りに行こうえへへ。
あ、裸の付き合い的な感じでね。
でも空ちゃんも私相手に最初みたいな緊張感は無くなってきたかな?
じゃあアイスブレイクもこれくらいにしてっと…………
「ねぇ空ちゃん?今全裸―?」
「え、ええまぁ」
「そっかそっかよきよき」
体が裸なら、今空ちゃんを覆う服という名の鎧もないよね~。
「じゃあ服もきてないし、ちょうどいいなー」
「……?」
「よし体と一緒に心も全裸に!恋話しよ!」
驚いている感じがするけど、こういうのは押したもん勝ち!
「……じゃあまずは最初の質問。……空ちゃん好きな人っているー?」
空ちゃんから息をのむ声が聞こえる。
いきなりぶっこんで来たなって思ってるよね、こういうのは意外性が大事なんだよ!本心を引き出すためにはね。
「ちなみに私は好んでる人がいます!ハイ私の番終わりー、空ちゃんはー?」
こういうのは押してく押して押しまくる。
相手に考えさせる隙を与えない。
「そりゃ先輩は好きな人がいるでしょ!」
「ふふ、まぁね~」
ちょっとずるい自覚は私にもある。
「まぁいいですけど、私も好きな人はいますよ?」
さっきまでとは打って変わって、すんなりと答えてくれた。
あら以外。
答えてくれないかと思ってた。
「へぇやっぱいるんだね」
予想してた通りだけどね。
「そりゃJDですから好きな人の一人や二人いますよ?」
「わーお、中々すごいこと言うねぇ二人もいるんだぁ?」
「言葉の綾ですよもう!それくらい先輩だってわかるでしょ?一人です、一人!私が好きなのはひーとーりー!」
「あははしってるよ?」
可愛いなぁ。
「先輩って意地悪ですよね、マドンナっていうより小悪魔みたい」
小悪魔かぁ…………べつにそんなことないけどなぁ。
どちらかというとマドンナが嘘だしね…………まぁこっちが素とも限らないんだけどね。
「ねぇ空ちゃん?」
「はいなんです?」
私は試着した下着を脱ぎ、元の服に戻す。
「実際、空ちゃんの好きな人って私の知っている人でしょー」
「さて、どうですかねー?」
同じタイミングで空ちゃんも服を着ているっぽい。
あーあ、裸のうちに聞いておきたかったなぁ。
裸の心?的な感じでさ。
「空ちゃんは葵君の事、好きなの?」
試着室を出る前に聞いておく。
今日聞きたかったのはこれでラストだから。
なんで聞くのか、もしかしたら聞かない方がいいのかもしれないけども。
でも気づいちゃったから。
彼女の目に灯るほの暗い光に。
「…………わたs──」
「──お客様ご試着はいかがですかー?」
タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど店員さんが入ってくる。
うーん大事なとこだったのになぁ。
ま、しょうがないか。
「すごくよかったです、購入しようかなって思ってます!…………空ちゃんはどうするー?」
「私もいただきます!」
「承知しましたー!」
私と空ちゃんは同時に試着室のカーテンを開ける。
空ちゃんはこちらを見て一言──
「──先輩…………秘密…………です」
艶っぽい笑みを浮かべる空ちゃん。
女の私でもどきりとした。
ただ恋をしているだけじゃない、いろんなものが混じり合ったそんな顔。
劣情を抱かせるように煽情的で妖しい雰囲気を醸し出している。
ありていな言葉で言えば、【女】って感じ。
私が男だったら惚れちゃうかもしれないそれくらい艶があった。
「秘密、ね?」
だから私も笑顔で返す。
なんだっけ、葵君に私が言ったセリフ。
あぁ思い出した。
そうだこんな言葉だ。
【A secret makes a woman woman】
「先輩私も先輩に──」
「──すいませーん」
「「はい?」」
二人同時に反応する。
「あ、すいませんお邪魔でした?」
私たちの雰囲気を感じ取ったのか申し訳なさそうに店員さんが頭を下げる。
「いえ大丈夫ですけどどうしました?もう行きますけど」
柔和な笑みで対応する空ちゃん。
先ほどまでの顔はもうない。
「…………いえ、お二人のお連れの男性がすごく居心地悪そうにされているので、急がれた方がいいんじゃないかな、と思いまして」
「「あ」」
二人して忘れてた、葵君のこと。
いや忘れてはないんだけど、今の存在を忘れてたというか。
慌てて試着室を出る。
それにしても何を言いかけたんだろう空ちゃんは。
「「…………」」
試着室の外に出たら、葵君がサングラスを掛け、腕組をして石膏のように固まって座っている。
ポーズはさながらどこかの碇総司令のようなもの。
ぱっとみで怪しい、それは店員さんも呼びに来るよね。
ポーズも相まって変態おじさんだもん。
…………本当に何してるの葵君。
気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件(改稿中) 湊カケル @kakeruminato1118
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