後編: 新たな世界、幼き精霊術師
あぁ……こりゃ、なんとかギリギリ間に合ったってところか。
でも、まぁ、完全に手遅れにならなかったことだけは喜んで良いと思うが。
「動かないでね、クリス。
と、火の精霊に願えば、
当然、クリスは頭から地面へ落ちそうになるものの、僕の
「ごめん、もう少しそのままでいてくれる?」
「うん……でも、あちこち痛いから早くしてちょうだいね……」
「すぐ済ませてくるからさ」
風に乗って浮いたまま、僕は
うわぁ、これはベトナム戦争なんかで猛威を振るったと言われるブービートラップの一種だよ。
足で踏むと
ホントに悪知恵が働くな、ザコオニどもは。
あっちの子は……複数匹を一人で相手にしたのか。よく頑張ったな。
「よし、出血は酷いけど、まだ息はある。
地の精霊に願い、長い草に覆われた地面を
いや、いちいちチートスキル【
今の僕の体格じゃ、こんなに深い草原の中に入れないし、子どもたちを運ぶ力もないんだから。
……ふむ、深い草原か。他にも何か潜んでるかも知れないな。
念のため、風の精霊に願うと、敵の侵入を防ぐ結界となる逆巻く暴風が吹き荒れ始めた。
ひとまず緊急なのはこんなところだろう。……それじゃ。
「悪いけど、さっさとやらせてもらうよ、ザコオニたち」
新たに現れたのがこんな小さな幼児だったからだろう、三匹のザコオニに逃げ出す様子はない。
先ほど旋風で吹き飛ばした二匹は
乾いた草原だから火はちょっと怖いか? 地と風は使ってるし、ここは――。
「
その
一滴の
そして一転、前方のザコオニたちへ向かって細く長く、まるで
目標へ襲い掛かっていく三本の水の鞭は、ウォータージェットを思わせる勢いと速度である。
ザコオニたちはろくに反応さえできず、鞭に直撃された頭を後ろへ弾けさせるが、そこまではこの水の精霊術【
当たった鞭はそのまま形を崩し、今度は膜状に広がりながら命中箇所の周りを水で覆い尽くす。
水塊に覆われた頭をバシャバシャとかきむしりながら暴れるザコオニたちを見れば、金魚鉢を被って踊る悪ガキめいた
「
僕は持っている小さなスコップに炎をまとわせ、一匹ずつザコオニの首を切断していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
低木
「
大地からゆらゆらと湯気のようなものが立ち上り、徐々に子どもたちの身を包み込んでいく。
すると、意識を失いながらも苦痛に固く強ばっていた彼らの表情が、穏やかに
地の精霊術【
その効果は、自然治癒力の促進である。
「ショーゴ……じゃなくて、シェガロ! もういいかしら?」
「ん? どうかした、クリス?」
少年たちの出血が止まってきたところで、既にかすり傷一つ無くなったクリスが僕を呼ぶ。
「んっ!」
「んっ?」
睨むような目をして縦に小さく首を振る……けど、何が言いたいのか分からない。
「何? どうしたの?」
「気が
えっと……あぁ、なるほど。
「そうか、
「どアホ! レディになんてこと
……杖で叩くことないじゃないか。
小さい女の子なんだから、別に恥ずかしがることじゃないと思うけどな。
衣服が破けてパンツ一丁と言ったって、この陽気なら
とりあえず、水の精霊術【
強い
それをぐるぐると
「それにしても、みんな無事で良かったよ」
いや、無事と言うには際どい場面だったし、少年たちは瀕死の重傷である。
が、こうして誰一人として死ななかったことは大きい。
結果としては、数が増えて群れが出来てしまう前にザコオニどもを退治できたことでもあるし。
「けど、大目玉は覚悟しておきなよ?」
「ふぇっ!? それは、だってファルが――」
「うん、そりゃファルは大事だけどさ。別にクリスたちが追いかける必要なんて無かったんだ」
「でもノブ爺は酔っぱらってて、パパたちは隣村だし、大人たちもみんな酔っぱらってたし……」
ああ、この子は……やっぱりちゃんと話を聞いてなかったんだな。
「パパたちがなんで朝早くから隣村に出掛けていったと思ってるのさ?」
「なんで? あ、遊びに? とか?」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあなんなのっ!? 早く教えなさいよ。って言うか、いつまでクリスって呼んでんのかしら? ナマイキですわよ、シェガロのくせに! 弟のくせに! 団子っ
いきなり逆ギレで
あと人の身体的特徴をあげつらうのも……ほんと傷つくので……。
「……ちょうど冒険者たちを捜しに行ってたんだよ。
「うそ!? 冒険者が、ざこ……ゴブリンを?」
「本当。
クリスに説明しながら、僕は
まるでミイラのように布でグルグル巻きにされ、乱暴に担ぎ上げられたまま運ばれた挙げ句、地面に放りだされたりしたっていうのに、何事もなかったみたいにすやすやと寝ている。
物事に動じない大物とかいうのを通り過ぎて、ちょっと鈍すぎるんじゃないかと心配になる。
栗色の髪と淡い褐色の肌をした五歳の女の子、名前はファルーラ。愛称“ファル”。
「それに、ザコオニはさらった子どもをすぐ殺したりはしないからね。それが小さな女の子なら
なんとなしに、眠りこけているファルの顔に掛かった髪を掻き上げる。
そして、耳の後ろへと
長く尖ったその耳は、
「ファルは
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ひとまず序幕はここまでとなります。
松悟=シェガロの現状を始め、いくつかの説明もしておきたかったのですが、本編の方へ回すことにしました。ちょっと長くなりすぎてしまい……。
第二部、お楽しみいただけたら嬉しいです。
★★★/レビューは以下のリンクからどうぞ。いつでもお待ちしています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330663201292736/reviews
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