中編: 蹂躙される小人たち
首尾良くゴブリンを仕留めた銀髪の少女と三人の少年たちだが、本来の目的は別にある。
「ねえ、ファルはどこ行っちゃったの?」
「さっき、ゴブ野郎が倒れた拍子に投げ飛ばされてましたわ」
「うん、その辺の草の中に転がってるはずだよね。早く探さなくっちゃ」
そう、彼らの目的は、ゴブリンが運んでいた
周囲に見渡す限り広がるこの
その中へ潜っていくように、それぞれ草むらを掻き分け、根元の地面を確認していく。
しかし、どうやら誰も探し物を見つけることができないらしい。
「……おかしいな。そこまで遠くへ放り出されたわけはないと思うんだが」
と、彼らが疑問に思い始めたとき――。
「ね、ねえ! みんな、あっち見て! あれって!」
茶髪の子が声を上げて指さす方向には……。
「別の奴に持っていかれちゃってるじゃん!」
「いつの間に!? 急いで追いますわよっ!」
「まずいぞ……あの丘を越えられたら、向こうはもう
彼らが言う大枯木とは、この広大な
そこから向こうには、ただの獣だけではない凶暴な魔物たちも
「だったら、なおさら急げって話ですのよっ!」
「確かに、今ならまだ追いつけるな」
再び駆け出していく少女たち。今度は先ほど以上の全力疾走である。
かなり遠くにポツンと見えていた小さな人影がぐんぐん近付いてくる。
それは、やはり別のゴブリンだったようだ。
しかし、奇妙なことに、荷物を担いだそのゴブリンは、追いかけてくる子どもたちを気にする様子もなく、のんびりとしたペースで草むらの中を歩き続けていた。
そのことを彼らは不審に思わない……。
ただ追いつこうと必死な幼い子らに、違和感を覚える余裕などありはしなかった……。
そして、惨劇が始まる。
広い
その一本の
「きゃあああっ!」
いきなり、その小さな
「
「え!? ……ぎゃっ!」
やや遅れて走り込んできた茶髪の二人組は、少女の異変に気を取られたところで
しかも、柵の前面には何本もの鋭い杭が生やされており、子どもたちの脚から腹までに数ヶ所、柔らかな皮膚を
「あああああっ! うわああああああぁん!」
「……いだいよぉ……う゛ぅう……」
ようやくその場へ追いついた赤毛の少年は、突如として降って
「くっ、罠か!?」
頑丈そうなロープに足を
草の間に倒れ、だらだら血を流しながら苦痛に
前方で足を止め、ニヤニヤしながらこちらへ振り返った荷物持ちゴブリン。
そして、深い草むらの中から身を起こし、こちらへ近付いてくる
「……俺一人でやるしかないってわけか」
そう呟き、覚悟を決めた赤毛の少年は、他の子どもたちの
「かかって来やがれ! ゴブリンども!」
しかし、体格に優れ、武装しているとは言え、彼もまた単なる子どもに過ぎなかった……。
多勢に無勢、草むらに身を隠しながら襲ってくるゴブリンたちに対し、大振りな
「ちっ……く、しょお……」
「キッヒヒヒ……」
「ヒャッヒャッヒャッ!」
「ヒィーヤッ! ハーッ!」
腰布だけを身にまとった半裸の
血を流し、小さな
にたついて舌なめずりを繰り返すその様子を見れば、
「……いや、いやよ」
逆さ吊りとなっている少女の顔は、血が
「ちか、近付くんじゃないわよ! 私を誰だと思ってるの! お前らなんか……すぐ……っ!」
幼いながらも、少女は【
だが、罠により跳ね上げられた直後、彼女は手に持っていた杖を取り落としてしまっていた。
専用の魔法杖かそれに準ずる魔道具がなければ、その魔法術を行使することはできないのだ。
何も持たない手を振り回し、地面に着くほど垂れ下がった銀髪を振り乱し、少女は暴れる。
……それは、ゴブリンどもの
「「ヒャア!」」
荷物を担いでいない二匹のゴブリンが、もう我慢できないといった風に飛び掛かる。
逆さまになった幼い少女の細い手足を押さえ付け、半ばめくれ上がったスカートを引き裂き、未成熟ながら美しく艶やかな白い肌を
汚らしい爪が一筋、二筋、少女の肌にひっかき傷を作り、
「やだ!! この、なにする気っ!? やめなさい! やぁ……やめてぇ……」
この場は広大な
見渡す限り、他に人影などありはしない。
「だれか、たすけ……たすけて……っ!」
どれだけ悲鳴を上げようとも、流れる風が起こす
「いやぁあああ! たすけてぇ!」
ただ、風だけが……救いを求める少女の声を聞いていた……。
「助けて、ショーゴー!!」
――
瞬間! どこからともなく響く声!
同時に、何の前触れもなく樹上より猛烈な突風が吹き下ろされ――。
「「ビギャヴ!?」」
少女を
そうして、木に吊されたまま、ただ一人その場に残された少女は見る。
涙で
「ごめん、遅くなったね」
やや長めの灰色の髪が風になびいている。
それは、この場の誰よりも小柄な、せいぜい
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