―― 第一章: 南の端の開拓村にて ――
第一話: 熱帯の朝、目覚める幼児
窓から吹き込んできた爽やかな風に顔を撫でられ、気持ちよく朝の目覚めを迎えた。
元が日本人だからなのか、雨上がりのほどよく湿った風が肌に合うように思われる。
まぁ、生まれ変わって
まだ寝ている
現在、この地はちょうど雨季の
と言っても、日本で言う
また、夜と昼の寒暖差も激しく、夜中には体感で十度以下の寒さに震え、日中は三十度を超す暑さにうだるといった具合なので、こうした空気を感じられるのは朝方の
地球の気候帯に照らし合わせるなら、明らかにサバンナ気候の特徴だな。
この昼夜の気温は、年間を通して、さほど大きくは変わらない。
ほとんど湿気のないサウナとでも評すべき乾期を思えば、一年を通して最も過ごしやすい時間。無駄に寝て過ごすのは勿体ないと言うものだろう。
「さて、まだ肌寒いけど、とっとと着替えちゃおうか」
寝巻である厚手の衣を脱いだ僕は、
その上からカフタンと呼ばれる前開きのゆったりとしたガウンを羽織り、
顔と手くらいしか肌が見えない、こんなスタイルが、ここいらでは外出時の普段着となる。
ゴテゴテとした
手足の動かし方にさえ慣れてしまえば意外と動きやすく、なかなかに洗練された民族衣装だ。
「……んゅ? ショーゴ? まぁだ、起きてんの? はやく寝なさぃ……すぅ……」
二段ベッドの上で朝とは思えない寝言をぬかしているクリスは無視しつつ、着替えを済ませて子供部屋を出る。丸太を組み合わせた壁に片手を突きながら細い廊下を進み、キシキシと
見れば、ガッシリとした体付きの老人が一人、椅子に腰掛け、暖炉の残り火に当たっている。
外見的には年寄りの印象などなく、まだまだ老人と呼ぶには
「おはよう、ノブさん」
「ああ、おはよう、シェガロ
シェガロ、それは僕の名前だ。
今年で五歳となった男の子で、髪の毛は灰色、肌の色は日焼けしていても割りと白い。
顔立ちは……自分で言うのは少々
いや、身の回りに質の良い鏡がないため、おそらくになるのだが、成長したら前世とそれほど変わらない容姿で落ち着きそうな気がする。
言うほどコンプレックスを感じているわけではないものの、正直に言えば、愛すべき団子鼻と
……せっかく生まれ変わった
ああ、うん、お察しの通り……それとも、知っての通りか? 実は僕には前世の記憶がある。
地球という世界、日本という国で三十年
これは、
――ヒュン!
「と!?」
反射的に手で受け止めてみれば、それは大粒の豆だ。
「おっ!? なんだ……
「もう! びっくりさせないでよ」
「昨夜の雨は
なるほど、ぼ~っとしていた僕のことを心配してくれたのか。
ノブ爺さんが滅多にしないような忠告をしてきた。
「うん、
「そうしとけ。まぁ、
このご老人は、うちで雇っているノブロゴさん。毎晩、ここで不寝番をしてくれている。
若い頃は腕利きの
って、ひとまず今は詳しく紹介しなくても良いか。
貴重な朝のひととき、のんびりとしていられるほど時間に余裕はないのだ。
「じゃ、行ってきます。
「待て! 後ろの二つはクリスタ嬢を起こしてやらせろ」
「あはは、それだと日が昇っちゃいそうだからさ」
「チッ、あんまり甘やかしてやるなよ」
振り向かずに手を振りながら、僕は扉を押し開いて家の外へと出た。
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