最終話: 疲れた勇者と迎える美姫
「おかえりなさい。お
澄みきった綺麗な声は、寒々しい風雪の音と恐ろしげな猛獣の
心身に負った細かな傷が、急速に癒やされたかの如くリフレッシュした気分となり、自分でも子どもっぽすぎると思える満面の笑顔を浮かべ、声の主――
「あぁ、ただいま。楽勝だった……とは言えないが、見ての通り、
「くすっ、本当にご無事で何よりです。狩猟、おつかれさまでした」
洞穴の入り口を岩で塞ぎ、その美貌に柔らかな微笑みを浮かべて歩み寄ってくる美須磨。
「
「このヒョウがストーカーの正体だったんですか」
「驚いたろう。こいつが透明になったり空を飛んだりするんだから異世界の動物って奴は……」
目を丸くしてストーカーの死体を眺める彼女に、その驚くべき能力を語っていく。
感心しながら合いの手を入れてくれるので、しばらく話が盛り上がるが、このままだと延々と話し続けてしまいそうだと思い、一段落したところで打ち切って次へと移る。
「さて、ひとまずこいつをある程度のところまで解体してしまおうか」
「私は準備をしておきますから、下でお風呂とお着替えをなさってきてはいかがですか?」
「そうさせてもらおうかな、すぐ戻るよ」
岩屋に【
そして、軽く休憩した後、再び岩屋へと上り、美須磨と共にストーカーの解体に取り掛かった。
既に一度、巨大グマで経験したとは言え、まだたったの二度目だ。
前回同様に悪戦苦闘し、されど前回よりは少しだけ効率よく解体を進め、内臓を抜く段階までなんとか行程を終わらせることができた。
「よし、ここまでにしておこうか」
「はい、待っていてくださいね。片付けてしまいますので」
「ははは、もちろん待っているよ」
珍しいことに、
だが、その気持ちは僕にもよく分かる。
ストーカーの毛皮は、口元から片耳の辺りにかけて焼け焦げてしまっているものの、こうして見ると非常に美しかったし、肉質もクマと比べて柔らかそうで、新鮮なこともあってか何となく
皮と肉に加え、気になるのはやはり特徴的な長い牙だ。これほどの硬さと鋭さがあれば、僕が使っているサバイバルナイフをも
うんうん、苦労して倒した甲斐があったというものである。
「お待たせしました、先生」
「ん、それじゃ下に行って休むとしよう」
解体途中のストーカーを氷漬けにし、岩屋内の汚れを洗い流して換気まで済ませた美須磨が、足早に僕のすぐ
手伝わせてはくれなかったため、後片付けを全部彼女に任せてしまった。
だが、お
「ところで、美須磨」
「なんでしょうか」
「改めて思ったんだが、その……、もう教師でもない僕が、いつまでも先生と呼ばれているのは、
「確かにおかしいかも知れませんね。どうしましょう?
「ああ、好きなように呼んでくれて構わないが……」
奥の通路に続く壁の方へ、二人揃って歩き出す。
しかし、すぐに美須磨は、僕を先導するかのように
「
彼女の
なるほど、今日はもう何一つ仕事をさせてくれない気だな……と、嬉しさと微笑ましさの入り交じったような気持ちを胸の中に湧き上がらせながら考え、少しだけ顔をにやけさせてしまった。
すると、前にいた美須磨がごく自然に僕の手を取って歩き出す。
ん? 何故、手を? おや? あれか? えっと、足場が悪いからか?
「参りましょう、
「え? な、あ、僕か……?」
え? 名前を呼ばれたよな、今……なんで? それに手が? んっ?
元より良くはなく、少しばかりハイになっていた頭の中が、混乱の渦によってかき回される。
その後のことは、実を言えば、ほとんど記憶に残ってない。
暗い洞窟の中、僕は自分の身に何が起きているのかさえ分からず、ずっと雲の上を行くが如く
そして、玄室に戻った後、再びとなる
「ふふっ、本日はお疲れさまでした。ゆっくりお休みになってください、
『ああ……おやすみ、みす……つ、つ、つきこくん……』
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当初は雪山を出るまでを第二章とするつもりだったのですが、長くなりすぎてしまったので、ここでひとまず章を切ることにします。
読んでくださった皆さんに感謝を。
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