第十七話: ストーカーと戦う男
前方五メートルは離れた位置にいるストーカーが徐々に雪景色と同化していく。
ほとんど透明になったとしか思えない
どうやら逃げて仕切り直す気はなさそうだ。
慎重なこいつのことだから、奇襲を防いだら一時撤退されるかも知れないという予想があった。
そうなったら少し厄介さが増すな……と若干の不安要素ではあったのだが、そうでないのなら、こちらとしては大いに助かる。
まぁ、それはそれ、相手の準備が整うまで黙って見守ってやる義理は、こちらにはないよな。
「
深く積もった雪を切り裂き、太い……いや、ぶっとい岩の杭が
ストーカーは地響きを聞いた途端、素早く真横へ飛び
どうやら、透明になるためには、しばらく動かずにじっとしていなければいけないらしい。
それならば、隙を与えず更にたたみ掛ける。
「
奴を
この【
だが、僕の
しかし、それはそれで別に構わないのだ。奴が
そうしながら少しずつ間合いを詰め、一足飛びの距離まで近付いたところで、【
――ドゴォッ!
しかし、そのスコップが奴に届くことはなかった。
いきなり真横より襲い掛かってきた何かが、僕を激しく叩きつけ、大きく吹っ飛ばしたのだ。
受けた衝撃は丸太で殴られたかと思えるほど、かろうじて視認できた見た目はまるで物干し竿。
ストーカーの長い尻尾による横殴りであった。
「――ガハっ!」
雪を巻き上げながら、ゴロゴロと雪面を転がる。
くぅっ、防具を着けていなかったら
いくらなんでも正面からまともに戦って狩れるような相手じゃなかったな。調子に乗ってた。
ごほっ、ごほっ……と咳をしながら立ち上がり、身体に異常がないか確かめてみるが、幸い、どこにも問題はなく、これといった痛みも感じられない。防具や靴も無事である。
が、正面に目を向ければ、
奴はどう出る? 僕がやられて一番困ることだよな。だとすれば?
「
間違いなく襲いかかるであろうあの攻撃に備え、じりじりと物陰へ向かって移動する、と。
――ブゥオオン!
視線を向けていた方とは逆、見えない攻撃が、しかし隠す気すらない唸りを
「――だと思ったよ!」
威力はお墨付き、僕に触れれば【
だが、こっちもなんとか読みきっており、視界外であっても不意打ちにはならない。
先ほど作り出した岩の杭を利用して身を
すかさず、通り過ぎていく見えざる尻尾の来た方向へ全力で駆け出し、願う。
「
瞬間、前方空中に出現した光の玉が、間近の
滑走しつつ、自分の目を守っていた腕を下ろして前を見れば、頭と両の前脚を振り回し
目潰しのつもりで放った光だったのだが、理由は分からずとも最高に嬉しい誤算だ。
この最大の
僕は、雪面を蹴って加速しながら、三つめの罠となる最後のカードを切る。
既に先端を後方の岩の杭に固定してきているそれを、のたうち回り、
前方へ伸びていく
「
目を潰され、頑丈なワイヤーロープに絡め取られて動きが制限された隙に、雪面を割って盛り上がり、覆い被さってきて固まった重い岩塊。全身をガッチリ
精霊罠【
まだあるかも知れない奥の手を警戒し、ゆっくりストーカーへ近付き、その頭の前に立つ。
「ギィニャアアアアア! グワァァアアアオ!」
凄まじい吠え声で
恨み言や交渉だとしても獣の言葉は理解できないし、獲物として
鋭く長大な牙を生やした口の中へスコップを突き込み、頭を押さえつけながら願う。
「
スコップから逃れようと激しく首を振るストーカー。
長さ三十センチはあろう短剣のような牙が振り回されるが、その動きは見る見るうちに緩慢で弱々しいものへと変わってゆき、口外へ突き出された舌が真っ青になったところで動きを止めた。
その口の中はスコップ
「……はぁ、はぁ、殺した。こんなに大きな生き物を……僕が……くっ……」
今になって手が震え出す……が、即座に頭を振って気を切り替える。
まだ仕事が終わったわけではない。
「すぐに血だけは抜いておかないと」
凍ったままのスコップから手を放し、サバイバルナイフを抜いてストーカーの首を切り裂く。
頸動脈からどくどくと血が流れ始めたのを確認したところで、地の精霊に頼んで拘束を解き、絡まったワイヤーも外し、再度、地の精霊に頼んで逆さ吊りとする。更に水の精霊へ凍りついた頭部の内外も含めた血と氷を液体にして残らず排出させてゆくよう頼む。
今日はもう幾度も願いを聞いてもらっている水と地の精霊は、僕との相性の悪さもあって相当渋い反応を返してくるが、何とか頼み込む。
精霊術【
そして、それは死体も同じ。
狩猟の獲物から食肉を取るなら、なるべく温度を上げずに処理するべきだという鉄則に反し、死体の温度を火の精霊で氷点前後に維持しておくことも忘れてはならない。
周囲に別の生き物が寄ってこないかと警戒しながら、一時間近く掛けて血抜きを終えた僕は、疲れた心身に鞭打って、ストーカーの巨大な死体を引き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます