シーン49 オムニバス・イメージ

 夢の中にいるようだった。


 自分がどこにいるのか。なにをしているのか。周囲には誰がいて、どんな景色なのか。


 それらを認識しようにも、陽炎のようにイメージがコロコロ変わるせいで、具体的な記述が何一つままならない。


 曖昧模糊。支離滅裂。意味不明。ぐちゃぐちゃ。


 そんな表現でしか、僕は、今の状況を言い表すことができなかった。


「手塚くん!」


 しかし、あのやかましい胴間声が、鼓膜ではなく、脳に直接響いて、僕はそこではっとする。


「しっかりするんだ! 高嶺くんは、この『物語』の設定を認識した! 彼女の世界改変能力が無差別に働き、世界そのものが大きく変わってしまったのだ!」


 拷問器具めいたヘッドギアを装着した真城目が、冬虫夏草の日記をつける。


「これはただの心象風景に過ぎません。理解しようとしても無駄なので、無視して、意識を、しっかり保って、元の世界をイメージしてくださぁい」


 人語を解するベニクラゲ型の妖精に不当な契約を結ばされた馬場園が、鏡を割っては踊って歌う。


『クライマックス ダ キアイ イレロ』


 薄暗い倉庫の中で幼子と共に一夜を過ごしたいろはが、十二単で鎧を作る。


 イメージの奔流。時間軸の湾曲。設定の烈破。捏造の乱立。


 めちゃくちゃだ。自分でも記述していてまったく意味がわからない。


『オチツケ マズハ ジブン ノ タチイチ ヲ ミサダメロ』


「慌てないで。深呼吸して。展開を、ただ、受け入れてください」


「手塚くん。君は、君にしかできないことを、するんだ」


 千変万化する心象風景の中、唯一理解できたそれらの言葉を信じ、僕は流れに身を委ねた。


 意識が、ぷつんと途切れた。

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