シーン45 残滓

 高嶺さんに聞かれるとマズいということで、僕らは半壊した部室を後にして、食堂付近の屋外喫茶スペースまで足を運んだ。


 道中、僕はガシャンガシャンと足音踏み鳴らすいろはに向かって尋ねた。


「なぁ、いろは」


『ナンダ』


「……浦原のことだが、」


『アイツ ハ キエタ モウ イナイ』


 こちらを見ることもなく、淡々とそう告げる。


 「死んだ」とか、「殺した」とかではなく、「消えた」と彼女は言う。


 浦原を、文字通り跡形もなく消滅させた彼女の力は、明らかに、人知を超えた超次元的なものだった。


 決して、誇張された武力などではなかった。


『アイツ ハ コノ モノガタリ カラ セッテイ ゴト ケシタ』


「やっぱり、そういう次元の話なのか」


『セッテイ ノ サクジョ ソレガ ワタシ ノ メタ ノウリョク』


 『メタ能力』。


 新しく開示されたキーワードを、僕は、浦原の消滅という、重い事実ごと飲み込んだ。


『ウラム ナラ ウラメ』


「別に、僕だって殺されそうになったんだ。あんなヤツ、いなくなったところで、」


 そこで僕は言葉に詰まる。詰まってから、自分の目頭が熱くなって、下手に喋ると涙が零れ落ちそうだったことに気づく。


 浦原の、最後の言葉を思い出す。


『いつまでも、止まってンじゃねぇぞ』


 うるさい。それは誰に向けての言葉だ。最後の最後に人を気遣いやがって。


 僕は止まってるつもりもないし、ここから引き返す気持ちだってさらさらない。


 僕は気持ち斜め上を見て、精一杯の虚勢を張った。


「ああ、今日も暑いな、チクショウ」


 早く、瞳よ乾けと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る