シーン20 徒労
かくして、『主人公』と『メインヒロイン』は、危険を顧みず、エビゴン様が暴れる死地へと出向いた。
だが。なのだが。
残念ながら、公人が無能力者ながらも知力によって異能力者たちを指揮し、エビゴン様退治に成功するなんて展開は、訪れなかった。
『主人公』が覚悟を決めて事態を解決するなんて展開は、第二章でやるには、ちょっとばかし早すぎたのだ。
言ってしまえば、尺の都合でカットされた。
道中、エビゴン様から逃げ惑う避難中の人々とすれ違いながら、公人たちが現場へとたどり着いた時、事態はとっくに解決していた。
確かに、街の被害は甚大である。
エビゴン様の進行ルート上にあったと思わしき建物は、軒並み軒を潰されており、あちこちで火の手が上がっている。
しかしながら、その災厄を引き起こしたエビゴン様はというと、ひっくり返って、ぴくりとも動かなくなっていた。
エビゴン様の死骸のそばでは、出撃していった異能力者たちがわちゃわちゃしていた。
「うむ! 勝利後は皆でエビゴン様を味わおうと思っていたのだが、こうも砂利まみれでは食う気になれんな!」
真城目は、いつの間にか目に痛いブルーの蛍光ジャージに着替えていて、倒したエビゴン様をどうにか食材にできないものかと悩んでいた。
「ねぇ! 写真! 写真撮ってよ! こんな大物久しぶりなのよね!」
ピュアブラックは、年相応の無邪気さを発揮して、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、自分とエビゴン様のツーショットが映えるアングルを探していた。
『デンキ デ ウゴイテ ネェノカヨ ツマラン』
いろはは、ガシャンガシャンと足音鳴らしながら、自分のアップデートパーツになりそうな部位はないものかと死骸を漁っていた。
公人が弱点を伝えるまでもなく、エビゴン様は倒されていた。
「……なんだよ、この展開」
荷台に高嶺載せた上での全力立ち漕ぎが、徒労に終わったとわかり、公人は呆然と立ち尽くした。
真城目が気付いて寄ってきた。
「おお! そこにいるのは手塚くんと高嶺くんではないか! もしや! 死地だとわかっていながら我々の応援に駆けつけてくれたのか!」
「うるせぇ」
公人は、自転車に体重を預けながら不貞腐れた。
「もう終わってしまったの?」
「うむ! 最初こそエビゴン様の甲羅に攻撃が通らず苦戦したが、我ら異能力者がそれぞれ力を結集し、なんとか倒すことができたのだ!」
ピュアブラックも、遅れていろはも寄ってきた。
「手塚じゃない。ね、見てよ! このエビ、わたしたちで倒したのよ! すごくない⁉」
「あぁ、すごいすごい」
「一体どんな方法で倒したの?」
「うむ! 簡単に言ってしまえば、高い所から落として、その衝撃によって倒したのだ!」
奇しくも、高嶺が設定したエビゴン様の弱点に大ダメージを与える作戦だ。
『マズ ウチ ガ ソラ ニ バズーカ ウッテ』
「次に我が能力『
「最後に、わたしの時間操作能力で、バリア作って、そこに落ちてきたエビゴン様を閉じ込めたってワケ」
「特にピュアブラックくんの能力には大きく助けられたな! 内部の時間ごと跳ね返すバリアのおかげで、質量爆弾の追突による二次被害が生まれずに済んだ!」
話を聞いているだけで、日常生活が何倍も楽しくなりそうな異能ばかり持ってやがる、と公人は内心で悪態ついた。
空間転移能力者に、時間操作の魔法少女に、男心くすぐるメカ装備携えた付喪神。
本当に、どいつも、こいつも。
「手塚くん。どうして、そんなにむっつりしているのだ」
「別に。羨ましくなんてないからな」
「手塚。あんたもなんか記念に持って帰ったら? こんな大物、滅多にいないわよ」
「私は命を頂いたせめてもの礼儀として、脚の一部を頂くとしよう!」
「僕はいい。腹を壊しそうだ」
「高嶺くん! 君はどうする?」
「私は……そうね、エビゴン様のおヒゲの一部を頂こうかしら」
「あんたも戦利品コレクターなの?」
「いえ……私たちは、生存戦略の必要上、どうしてもエビゴン様を倒さなくてはならなかった。でも、せめて、手向けとして、私はエビゴン様をきちんと祀ろうと思うの」
「ふぅん。優しいのね」
「そんなことないわ。生みの親として、私ができることは、このくらいしかないの」
ピュアブラックの口がぽかりと開いたままになる。
「え、どういうこと? 生みの親?」
「それについては、高嶺さん。一度こいつらに話しておいたほうがいいんじゃないのか。偶然にしては、あまりに妙すぎる。弱点は間に合わなかったが、そっちはまだ有用かもだ」
「そうね。みんな、聞いてちょうだい。実は、エビゴン様は——」
その後の顛末についてはダイジェストで流すとしよう。
ピュアブラックは言った。
「街の被害については、わたしの時間操作である程度は修復できるから安心して」
彼女は宣言通り、残った力で被害箇所の修復にあたった。
学校へ戻る道中、高嶺は言った。
「エビゴン様は、サイズや設定、チャームポイントまで、ほとんど私が設定したものと一致していたわ。きっと、私の思いが深海へ届いて、それがエビゴン様になったのよ」
そのあまりに無理な仮説は、それ以外に対抗意見が生まれなかったことで可決された。
真城目は言った。
「この騒動は序章に過ぎん! きっと、裏で手ぐすね引く黒幕がいるに違いない!」
彼の熱弁は、またお得意の陰謀論か、と、一同に無視されていた。
いろはは言った。
『テカ オマエラ ガッコウ ヌケダシテ ダイジョウブ ナノカ?』
彼女の指摘の通り、公人たち一行は学校へ戻るなり早々、大目玉を喰らった。
一行は別室で一人ひとり説教され、緊急時における集団行動がいかに大事かということを骨の髄まで教え込まれた。
そして、馬場園は言った。
「うぅ……今のわたしは、なんにも悪いこと、してないのにぃ……」
説教から帰って来た時、彼女はそんな風に泣きべそをかいていた。
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