シーン16 この状況で、言うことか?
それは、ブラウン管から漏れ出た音質ガビガビの声だった。
それが、初めて耳にするいろはの声であることに、公人はすぐには気づかなかった。
『ルービックシステム テンカイ レブスプリントモーター クドウ ジェットパック ソウテン』
公人はふらっと横を向く。
いろはの外見を象徴するブラウン管と冷蔵庫が、ガチャガチャとパズルのように変形し、次第に人型を象っていた。
ブラウン管はフルフェイスのライダーメットへと形を変え、胴体からは球体関節人形じみた乳白色の手足が射出される。
いろはは生えてきた腕で、腹に収納されていた数々の装備品を身に着けていく。
『システム オールグリーン シュツゲキ オケ?』
最終的に、原型を留めていないスマートな姿になったいろはは、メットに光るオレンジの目で、高嶺を見た。
「許可するわ。行ってらっしゃい、いろは」
『リョウカイ イロハ デル!』
ぶおおおんと、腰に装着されたジェットパックが温風を吐く。
いろはの体が浮いたかと思うと、次の瞬間、ソニックブームを発生させかねない勢いで、ベランダから空へと飛んだ。
無論、軌跡を描いて向かう先は、エビゴン様のところである。
分厚い遮光カーテンが、ばさばさと音を立ててていた。
「……あのジェットパック、僕の見間違えじゃなけりゃ、ドライヤーだったな」
これまでの世界観というものをちゃぶ台返しされたという衝撃はあるものの、二回目ともなると、公人の心にも細部にツッコミを入れるくらいの余裕が生まれていた。
「あのぅ……そろそろわたしも行こうと思うんですけどぉ」
馬場園が申し訳なさそうに声を上げる。
「まぁ、この流れなら、そうなんだろうな。お前も本当に魔女なんだな。行ってこいよ。応援してるわ」
したがって、第三の能力者に対するリアクションも、当然ながら薄くなる。短時間の毒物摂取ならアナフィラキシーショックも起こらない。
公人の態度は、ひどくそっけないものになっていた。
「そ、そうなんですけどぉ……えっと、わたしの力はちょっとした発動条件っていうのがあってですねぇ……できましたら、先輩にご協力いただけないかと……」
およそ特別な力を持つ者とは思えぬほどの腰の低さで、馬場園は汗を飛ばしながら公人に言う。
公人は、なんだか全部夢みたいな気分で、どうでもよくなっていたので、
「いいよ、もう、なんでも。一体、僕は何をすればいい?」
「え、えーっと……先輩に聞いてもらいたいことがあるんですけどぉ……わたし……」
馬場園はそこでごくりと唾を飲み、
「わたし、男性を襲うのが性癖なんです」
「なんて?」
心の底から湧き出た言葉だった。
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