シーン15 ありふれた展開
「君の判断は、現実的には正しいことを認めよう。平凡でありきたりな男子高校生としては満点の回答だ。しかし、しかしだ。我々は常人とは異なる強大な力を持っているのだ。その力は、こういった危機が生じた際には、世のため人のために使うべきだ。それが力を持っている者の責任であると、私は思う」
「いつまで、夢見てんだよ」
公人は心底呆れた。
この状況においても、まだ自分が特別な存在で、非凡なる力を持っているという妄想を信じ込める、その胆力に。
呆れていると、遠くでどぉんと爆発音が鳴った。
「あのぅ……お取り込みのところ申し訳ないんですけどぉ……外、見てもらえますでしょうかぁ。エビゴン様がどんどん暴れて、エラいことになっちゃってるんですけどぉ」
『ハヨ イカント ヤベェゾ』
エビゴン様が、土手の上で大型のトラックを足蹴にしていた。火花が車のガソリンにでも引火したのか、エビゴン様の周辺で火柱が上がっている。
自ら残酷焼の憂き目に遭うのかと思いきや、エビゴン様はものともせず、ずんずんと侵略を続行する。
そのまんまるお目々の視線が向かうは、土手を下った先にある、より建物と人のある繁華街だ。
「そうだな! 申し訳ないが手塚くんよ! 議論は後でたっぷりとしようではないか! あのエビゴン様を取り囲んでバーベキューでもしながらな!」
「……勝手にしろよ、もう」
「ふははははは! では行くぞいろはくん! 馬場園くん! 準備はいいか!」
『イツデモ』
「わたしはぁ……ちょっとエネルギーを補給しないといけないので、先に行っててくださぁい」
「うむ! では行くぞ!」
真城目はベランダへと続くガラス戸をガラリと開け、外に出た。
エビゴン様の影響か、生臭い匂いを含んだ風が教室になだれ込む。
彼は懐から黒光りするハンドガンを取り出し、斜め四十五度の角度で発泡した。
公人は一瞬ぎょっとしたが、
「安心するがいい! これはただのガスガンだ! 法令も遵守しきちんと威力も0.98ジュールに収めてある! 弾丸も自然に優しいバイオプラスチック製だ!」
「そんな豆鉄砲で挑むつもりかよ」
真城目はちらりと顔だけ向けて、いつものニヤケ面を浮かべて見せた。
「手塚くんよ! 君に言っておくことがある! 君はたった一つだけ、大いなる誤解をしているぞ!」
「なんだよ」
「我々は本当に、ただの高校生ではないのだよ」
目を離したワケではない。
瞬きすらも、していない。
なのに、真城目の姿は一瞬にして、公人の視界から消えた。
「は?」
呆然とする公人の視界の隅、窓の外、斜め上に、代わりに何かが出現した。
反射的に、焦点がそちらに向く。
真城目だ。
校舎から離れた上空。そこに、真城目がいた。
「ふはははははは! さぁエビゴン様よ! 我が異能によって、その御身を活け造りにしてやろうではないか!」
そのシルエットは、消えて現れを繰り返しながら、どんどん遠ざかっていく。
大音声が、距離に応じて減衰していく。
「え、嘘。あいつ、マジで、え、瞬間移動……、え」
あまりの衝撃に言語野がおじいちゃんになってしまった公人は、ひたすらに目を丸くしながら、真城目が豆粒になるまで外を見ていた。
ころん、と、足元にBB弾が転がる。
だが、こんなところで驚くのはまだ早い。
聡明な読者諸君ならば、この後の展開について、おおかた予想はついているだろう。
『エネルギーチャージ カンリョウ』
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