シーン4 『主人公』って、なんですか
事の顛末は数日前に遡る。
学校中で知らぬ者なしの完璧美少女が、昼休みに突然公人のクラスを訪ねてきては、
「やっと見つけたわ『主人公』くん! 私はこの物語の『メインヒロイン』、高嶺千尋よ。さぁ、私と一緒にこの作品を傑作ライトノベルに仕立て上げていきましょう。まずはお近づきのしるしとして、一緒にお昼を食べるのはいかが?」
と、疾風怒濤の勢いで話しかけてきたのだ。
読者諸兄ならば、一体どのような反応を示すだろうか。
公人は、とりあえず、口に運んでいたホットドッグを危うく床に落としそうになった。
ここで公人が、
「やったぜ。何か知らんが、校内のアイドルが向こうからお昼に誘ってくれた! これで俺にも棚ぼた形式でアオハル到来のチャンス!」
と、狂喜乱舞するようであれば展開が早くて助かるのだが、そんな素直で能天気な性格ならば、そもそもぼっちになどなるはずがなく、それすなわち彼がこの物語の『主人公』であるという事実に矛盾が生じることとなる。
したがって、公人は展開的には遠回りだが、必然的にこう考えた。
これは、ぼっちの自分を晒し者にするために仕組まれた壮大なドッキリである。
ホイホイ誘いに乗ったが最後、自分の醜態はあらゆる電子機器に収められ、良くて学校中の笑い者。最悪のケースに至ってはあらぬ汚名を着せられた挙げ句に退学処分を喰らい人生お先真っ暗。
引きこもり。ニート生活。増える母親の涙。吼える父親。包丁。ぐさり。地獄行き。
これまで日の当たらぬ暗い人生を歩んできた手塚公人だ。
彼がこのような卑屈な結論に達してしまったことを、一体誰が責められよう。
「いやぁ……遠慮しておきます」
渾身の苦笑いを浮かべて拒否の姿勢を示した公人だったが、高嶺は、
「どうしてそんなことを言うの?」
「一人で食べるより大勢で食べたほうが美味しいわよ」
「私、手塚くんが望むならお弁当を作ってくるわ」
と、こちらはこちらで一歩も引く気配がない。
淡々と攻め続ける高嶺に対し、言葉を濁しながらやんわり断りを入れていく公人。
見どころが一切ない一辺倒な問答を繰り広げた結果、初日は昼休み終了のチャイムが鳴り、時間切れにて幕が下りた。
「明日こそ、一緒にお昼を食べましょうね」
去り際に高嶺はそう言い残し、教室を軽やかに出ていった。
残された手塚に待ち受けていたのは、四方八方から突き刺さるクラスメイトたちの奇異の視線であり、彼はただ、机に突っ伏すことしかできなかった。
これが明日も続く? 冗談じゃない。
翌日から、公人は昼休み開始のチャイムが鳴るや否や教室を飛び出し、安寧の地を求めて学校中をうろつき回った。
しかし、いくら場所を移せど高嶺は公人を補足し、徹底的に勧誘を続けた。
そして、今日に至るというワケである。
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