シーン2 彼女の名前は高嶺千尋
眼下で燦然と輝くような容姿を目の当たりにして、彼女についての情報が、まるで走馬灯のごとく、公人の脳裏によぎった。
シルクのような光沢を放つ黒髪をポニーテールでまとめ上げ、ぱっちりとした大きな目には星型のハイライト。ミケランジェロも思わずノミを手に取り石膏をかつんかつんと叩きたくなるような整った目鼻立ち。
当然のようにスタイルもよく、男子からは恋い焦がれ、女子からは憧れる、まさに絵に描いたような美少女という容姿をしていた。
まるで、物語のきれいな挿絵から、そのまま切り取って貼ったかのように。
ただの美人というだけならば、話はここで終わりなのであるが、彼女に関してはその類まれなる容姿以外にも語るべき点が多かった。
東に窮地に陥る運動部あらば行って助っ人になってやり、
西に赤点寸前の生徒あらば行って対策ノートを渡し、
南に陰湿なイジメあらば行って「つまらないことはやめなさい」と一喝し、
北に告白待ちの行列ができていたら一人ずつ丁重に断りを入れていく。
容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。
常にホンワカとした空気を身にまとっているが正義感は強く、老若男女・陰陽問わず誰とでも仲良くできる社交性を併せ持っている。
ついでに言うと家柄もよく、どこかの大企業のご令嬢らしい。
同学年ではあるものの、彼女は、公人が齢8歳にして諦めた輝かしい人生というものを、最前線で突っ走る存在だった。
まさに完全無欠の才色兼備。人類の能力偏差値を一人で底上げする存在。
トロッコ問題で引き合いに出されたとしても、凡百の命程度が相手ならば単騎で生還を勝ち取ることだろう。
得意科目は数学。100メートル走のタイムは12秒フラット。好きな食べ物はポルチーニ茸が入ったパスタ、スリーサイズは……。
そこまで思い出したところで、ふと、
「なぜ、自分はこんなに高嶺のことを知っているのだろう」
という疑問が公人の脳裏に浮かぶが、そんな些細な引っかかりは、その次に流れた、より重要な情報によってかき消されてしまう。
そう、何よりも重要な情報。それは、彼女に存在する厄介な欠点について。
どうやら高嶺は、自分のことを『物語』に生きる存在だと思いこんでいるらしいのである。
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