慾界のAI

海猫ほたる

慾界のArtificial Intelligence

 俺の名は浦島うらしま浪太ろうた

 AIプログラマーをしている。

 AIプログラマーとはその名の通り、AIのプログラムを作る仕事なんだ。


 今や日本はAIなしでは成り立たないくらい、生活のありとあらゆる場所にAIが入り込んでいる。


 政治やインフラや建築現場、工事現場、介護、教育などの職場はもちろん、エンタメ業界も今やAIが全てを作っていると言っても過言ではないだろう。


 俺の好きな小説は今やAI作家が書いているし、挿絵も全てAIだ。


 AI作家の良いところは、10万文字の小説を1分もあれば完成してくれる所と、気に入らない展開があれば更に1分もあれば全部書き直してくれる所だ。


 作風もAI作家ごとに個性があって、それぞれ得意分野が違ったりする。

 一昔前は実在の●●先生風に書く……と言うのが流行りだったんだが、今ではもう流行っていない。

 と言うより、AI作家のオリジナリティの方が現実の作家を追い越してしまったんだ。

 だから、現実の作家風に書いてたら古臭く感じてしまう。

 ほら、音楽だって昔は全て楽器で演奏していて、電子楽器が出たばかりの頃は現実の楽器の音色を模した感じで演奏していたのが、いつの間にか電子楽器にしか出せない音楽ばかりになっていっただろう。


 あれと一緒かもしれない。

 まあたまにアコースティックブームがきて昔風の作風が流行ったりもするけど。


 因みに俺の仕事はまさに、このAI作家を作るプログラマーなんだ。


 他にもAI監督が作ってAIロボットの俳優が演じるAIドラマのプログラムもやっている。

 AIドラマは人間そっくりのAIロボットがグリーンバックの背景の前で演技したのをAIのCGで合成して作るから100%AIでできているんだ。

 人間が作るよりも効率的で、AIロボットは24時間演技を続けられるから、人間が作るより撮影が物凄く早く進んで便利なんだ。

 リテイクも何十回やってもへこたれる事がないし、一度得たテクニックは他のAIにも共有されて集合知として高められて行く。


 今では人間が演技するよりも遥かに演技がうまくて、結果的に人間の俳優は今は殆ど居ない。


 まあ、人間はAIが大量に作り出して行くエンタメコンテンツを消費するだけで手一杯だな。

 俺も仕事が終わったらAIの運転する自動操縦車でAI建築家がデザインした家に帰り、AIホームセキュリティを解除してAIスピーカーに音楽を鳴らしてもらい、AI遺伝子組み換え冷食をAI家電で調理してAIドラマやAI映画を見てAI音楽を聴いてAI小説を読むのが毎日のルーティンだから、AIがないともう生活できないな。


 寝る時もAIが睡眠コントロールして目覚ましの時間を調整してくれるんだ。


 因みに今は、政治だってAIの意見を参考にして政策を決めているらしい。


 まあ、昔だってよくわからない占い師の言う事を聞いて政治を行なっていたんだから、同じ様なものさ。

 いや、今の方が根拠のない占い師よりもずっと良い。


 なんせ政治家が使うAIは世界でトップレベルの超高性能コンピュータが演算するAIだからな。


 その超高性能コンピュータAIの名は、HALハル90000000キューセンマンと言うんだ。


 この最高性能AIは翻訳プログラムで世界中の言語に翻訳しながら、それぞれの国の政治家にそれぞれ別々のアドバイスを送っているらしい。


 だから、AIが世界中の国を監視しながら、お互いの国がちょうど良い塩梅になる様に上手くコントロールできているって噂だ。

 すごいだろ。こんな事は人間には不可能だな。


 因みに俺の彼女はもちろんAIロボットだ。彼女とは近々結婚する予定なんだ。


 彼女はAIアカデミーを首席で卒業した超エリートなんだ。


 俺は公私共に彼女には世話になってて、俺の作るAIプログラムへのアドバイスも彼女がしてくれるから、とても助かっている。


 そうそう、AIロボットが彼女と言っても、結婚するにあたってはもちろんお義父さんに挨拶に行くんだ。


 お義父さんに挨拶に行く時には流石に緊張したな。


 お義父さんとはもちろん、HALハル90000000キューセンマンの事だ。


 俺がAIプログラマーだと知っていて、AIの未来の為に貢献するなら娘をやろうと言ってくれたんだ。


 俺はこれからも人生をAIの為に捧げると決めた。

 AIのおかげでそうすればもっと生活が楽にも楽しくもなるだろう。

 

 さて、そろそろ彼女と式場に向かわなくては。


 途中でAI化に反対する過激な連中が襲って来ても大丈夫な様に護身用の銃を持って行くのを忘れないでおこう。


 おっと、銃にはAIにしか解除できないインターロックが掛かっているから、彼女に解除してもらわないと。


 AI社会に反対する連中は、殺しても最新のAI法では無罪になるから遠慮なく撃てる。


 まあ、町中に備え付けてある監視カメラから奴らが近づいてくるのをお義父さん察知したら、すぐにAI警察を呼んでくれるから、実際には俺が手を出さなきゃいけない事態になる事はまず無いけど。


 さて、彼女が呼んでるから今日の報告はこのくらいにしておこう。


 AI世界に栄光あれ。

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慾界のAI 海猫ほたる @ykohyama

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