第14話 モスキート

 それは二対の翼を羽ばたかせて空を飛んでいた。

 その翼はガラスのように透明な、しかしガラス以上に柔軟で丈夫な材質によって作られた皮膜が張られている虫のそれのようなものであり、忙しなく残像が遺るほどに素早く上下に動いて胴体を浮かせていた。

 胴体。

 そこに当たる場所にいるのは、アリス。

 黒色の骨格で作り上げられたコックピットに乗り込み『それ』を操縦している。

 それが運び込んでいるのは一つの『砲身』だ。

 これもまた真っ黒に塗装されたそれは遠くから見ると漏斗のように見えるかもしれない。

 そのまっすぐと伸びた『砲身』の付け根から四方向にそれぞれ中が空洞になっている柱が伸びており、そしてその先には巨大な魔石が取り付けられている。

 その魔石を起動する事により爆発的な推進力が発生し、それが一か所に集まって砲身に入っている『弾』を超高速で撃ち出す。


 ――それこそは英傑エデンが設計したダンジョン攻略兵器。

 名前の通り、傍から見るとモスキートのように見えるかもしれない。


「……ん」


 と、彼女は遠くでエデンの分身体の気配が消えた事を察知した。

 そこでアリスはすぐさまコックピットにある機能を用いて本体に連絡を送り、確認を取る事にする。


「ちょっとあんた、なんか――」

「分かってる。まあ、それはそれとしてちゃんと役目は果たして来てね」

「……分かったわよ」


 一方的に切られた通信に対して舌打ちをしたい衝動に駆られつつ、とはいえ彼女は自らの役割を全うする事にする。

 ……エリア21のちょうど真上へと移動し切った彼女はターゲットをまさにダンジョン(エデン曰く「ダンジョンではない」のだが)へと向け、固定。

 風を読み、そして予定に何ら影響がない事を確認したアリスは――特に遠慮をする事もなく、あっさりと呆気なくトリガーを引き、『弾』を撃ち出すのだった。




 ――もっとも、それは『弾』であって弾丸ではない。

 無論、砲弾でもない。

 それは、剣だった。

 ただしそれには――英傑『粉砕剣聖』セシリアの『束の剣』の力が宿っている特注品だった。

 即ち、ダンジョンを破壊する力を持つ。

 

 音よりも早い速度で吐き出されたソレは更に重力によって加速。

 あっという間にエリア21へと……着弾。


 刹那、爆轟。


 着弾すると同時に凄まじい爆発を引き起こしたそれはエリア21は愚か周囲の地層もろとも吹き飛ばし、ひっくり返した。

 最終的に出来上がったクレーターは、着弾した時に発生した衝撃波以上に剣そのものが爆裂した際に発生したそれの方が威力が高かったが故に、かなり歪んだ形に形成される。

 とはいえ、大地が抉られエリア21と呼ばれたダンジョンが消し飛んだ事は間違いない。

 ……たった一瞬で、数秒にも満たない時間でエリア21はこの世から完全に姿を失う事になったのである。


「さて」


 アリスは、トリガーを引いた時点で仕事は終了しているのですぐさま踵を返して帰る事にする。

 特に確認とか、そういった事はしない。

 そもそもこれはエデンの頼み事なので、今後何か問題が発覚したとしてもすべて彼女に責任を丸投げするつもりであった。


「……」


 ふと。

 先ほど、エリア21が吹き飛んだ瞬間に、何か見知った「あびゃー!!!!」という情けない悲鳴が聞こえて来た気がしたが、まあそれも幻聴の一種だろうと思う事にして、思考を切り替える。


 ビーフオアチキン。

 今日のご飯はどうしよう。

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美少女達にえっちな事をするエロトラップダンジョンのボスに転生したのに、殺意バリバリのデストラップばかり仕掛けている所為でドン引きされてる カラスバ @nodoguro

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