第13話 知らなくても良い事
……エデンという存在を英傑たらしめている力。
それは『天使構築』という能力であり、それは自分と全く同じ存在を複製、構築する事の出来る力だ。
言ってしまえばコピーの生成。
それを用いて彼女は様々な場所に自分の分身を送り込んだり、仕事を分担したり、あるいは使い勝手の良い人体実験のサンプルとしたりしていた。
使用する時には多少のエネルギーを消費するが、一度作ってしまえば後は一切の消費なし。
そもそもそれらは一個体として存在するので同じ力を行使出来るし、力尽きてもゼロに戻るだけでデメリットはない。
コピー体生成能力に有りがちな情報共有能力こそないものの、まさに使い得の能力であった。
そして、もう一つの能力。
これもまた彼女にとって重要な能力であり――『アナライズ』。
分類は魔眼であり、それを使う事によって対象の情報を読み解く事が出来るのだ。
当然、この力はコピー体も使う事が可能であり、なにより消費するエネルギーがかなり少ないので乱用が可能だった。
……そして、倒れて震える『ダンジョンマスター』の姿を見、少し迷いながら彼女は『アナライズ』を使う。
不思議だった。
どうやら彼はあのセシリアに騙されたらしいが、しかしそれで敵に渡された飲み物に口を付けるだろうか?
もしくは、何らかの力が働いた?
だとしたら、一体誰が……?
少なくとも自分ではないが、なんにしてもそれもまた『アナライズ』を使えば分かる事だ。
そのように警戒しつつ、彼女は『アナライズ』で『ダンジョンマスター』の知識を手にし――
すぐさま、後悔する事となった。
それは、本来彼女――いや。
本来この世界の住人にとっては全く持って無関係な情報であり、そして何より知り得る必要が全くない不必要な情報であった。
いや、更に言ってしまうのならば「知らない方が良い」、「知る事によって不幸になる」ような知識でもあった。
それは、『死』に関する知識だった。
……その時点で彼女は知らない情報だったが、『ダンジョンマスター』は一度死を経験した存在であり、そして何より日常的に死と隣り合わせで生きて来た存在だった。
この世界のように死んでも復活するような事はない、正しく恐怖の世界。
それだけならまだよかったが、その『ダンジョンマスター』は一度死を経験する事により、死ぬ事によってどのような事がその身に降りかかるのかを知っていたのだ。
不幸にも、彼女は第一にそれを知ってしまったのだ。
……どうしてそれが第一になったのかは、恐らく彼が誰よりも『死』を恐怖していたからだろう。
一度死に、だからこそ今度こそは簡単に死なないように、あの経験をもう二度と味わいたくないと今の今まで活動してきた。
そんな彼の、根幹とも言うべき行動の指針。
それを、彼女は知ってしまったのだ。
そして、そのエデンのコピー体は恐怖する。
彼女はエデンの能力によって生み出された存在であり、本体の一存によってあっさり消えてしまう儚い存在だった。
文字通り、風前の灯火どころか息を吹きかけるまでもなく簡単に消滅する――死ぬ概念。
彼女はバクバクと鼓動する心臓を強引に抑え……そしてすぐに行動を始める。
恐らく、自分の異常に気づいたら本体は自分を直ちに消滅させる――殺すだろう。
それは抗いようのない力であり、自分ではどうしようもない一方的な行動だった。
しかしながら今、それに反抗する術が目の前に、ある。
より正確には、『アナライズ』によってその存在は目に見えなくてもそこにある事を理解していた。
レイス。
その強化個体。
彼女はそれに飛び掛かる。
敢えてその身でレイスの身体にぶつかる。
そうする事によって彼女は意図的にレイスの攻撃を受け、そして――
魂に違和感。
まるでそう、何か優しい手つきで愛撫されるかのような、そんな感覚。
意識は途切れる。
この眠りが広義の死ではない事を祈りつつ……彼女はその衝動に身をゆだねるのだった。
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